<登場人物・キャスト>
語り手:奈良岡朋子/おしん:小林綾子/ふじ:泉ピン子/みの:小林千登勢/清太郎:石田太郎/加代:志喜屋文/番頭:小野泰次郎/きく:吉宮君子/ウメ:佐藤仁美/髪結:大原穣子/若い衆:大森一・鈴木よしひろ/くに:長岡輝子
<あらすじ>
おしんが加賀屋で初めて迎える正月が来た。おしんにとって9歳になるこの正月は、生まれて初めての夢のようなことばかりであった。
おしんは髪結さんにきちんと髪を結い上げてもらっている。
加代が「おしんでねえみたい」と言うと恥ずかしがるおしん。そこへみのも入ってきて「見違えるようだ」と褒める。
家族と店の使用人が一同膳の前に座り、清太郎が新年の挨拶をする。
ご馳走に喜ぶおしんだが、家族のことが気にかかる。
「うちも正月してるかな……今年は母ちゃんも出稼ぎさ行っていねえがら、ろくな正月もできねえべな。ばんちゃんにも食わせてやりてえな……」
隣に座っている加代が訊く。
「おしんのうちでは、どげんなご馳走食べんなだ?」
「何にもねえっす。煮しめったって大根と芋ぐらいで、餅も三が日のうちに6つも食ったらええ正月だ」
「たったの6つか?」
「オレ一人こだなええ目にあって罰当たる」
そこへ酌に回っていた番頭がおしんの前に来て声をかける。揃いの着物で席も隣に座って、まるできょうだいみたいだと。
みのは「私もそのつもりだ」と言う。加代が電信柱の下敷きになるところを助けてくれたのだから、おしんを粗末にはできないと。
「雑煮を食べたら一緒に初詣に行こう」と加代が誘うと、おしんは「子守があるから」と辞退しようとする。おかしそうに「何言ってんだ~、奉公人は正月三が日はみんな暇くれてるんだ」と言うみの。
ウメに付き添われて加代とおしんは初詣に来ていた。
揃いのきれいな着物で初詣客に注目されている。
と、一角で水商売のような女が男相手にくねくねとした声で喋っているのが耳につく。
「アハハハハ! ちょっと、やんだってば、あんだ、な~に!」
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語り手:奈良岡朋子/おしん:小林綾子/ふじ:泉ピン子/みの:小林千登勢/清太郎:石田太郎/加代:志喜屋文/番頭:小野泰次郎/きく:吉宮君子/ウメ:佐藤仁美/髪結:大原穣子/若い衆:大森一・鈴木よしひろ/くに:長岡輝子
<あらすじ>
おしんが加賀屋で初めて迎える正月が来た。おしんにとって9歳になるこの正月は、生まれて初めての夢のようなことばかりであった。
おしんは髪結さんにきちんと髪を結い上げてもらっている。
加代が「おしんでねえみたい」と言うと恥ずかしがるおしん。そこへみのも入ってきて「見違えるようだ」と褒める。
家族と店の使用人が一同膳の前に座り、清太郎が新年の挨拶をする。
ご馳走に喜ぶおしんだが、家族のことが気にかかる。
「うちも正月してるかな……今年は母ちゃんも出稼ぎさ行っていねえがら、ろくな正月もできねえべな。ばんちゃんにも食わせてやりてえな……」
隣に座っている加代が訊く。
「おしんのうちでは、どげんなご馳走食べんなだ?」
「何にもねえっす。煮しめったって大根と芋ぐらいで、餅も三が日のうちに6つも食ったらええ正月だ」
「たったの6つか?」
「オレ一人こだなええ目にあって罰当たる」
そこへ酌に回っていた番頭がおしんの前に来て声をかける。揃いの着物で席も隣に座って、まるできょうだいみたいだと。
みのは「私もそのつもりだ」と言う。加代が電信柱の下敷きになるところを助けてくれたのだから、おしんを粗末にはできないと。
「雑煮を食べたら一緒に初詣に行こう」と加代が誘うと、おしんは「子守があるから」と辞退しようとする。おかしそうに「何言ってんだ~、奉公人は正月三が日はみんな暇くれてるんだ」と言うみの。
ウメに付き添われて加代とおしんは初詣に来ていた。
揃いのきれいな着物で初詣客に注目されている。
と、一角で水商売のような女が男相手にくねくねとした声で喋っているのが耳につく。
「アハハハハ! ちょっと、やんだってば、あんだ、な~に!」
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じっと見てしまうおしんと加代。
その声。
顔が見えた。
「母ちゃん……」
「何見てんだ、おしん?」
と、視線に気付いたのかその女もこちらへ目を留める。やはりおしんの母・ふじである。おしんを見て表情を変える。
「あのおなごもこっち見でるんだわ。またきょうだいだと思ってんだぞ!」
加代がのんきに言う間、数十メートル離れているが確かに見詰め合っていたおしんとふじ。
「早く行くべ! 早く!」
ふじは連れの男を急かしてそそくさと去っていった。
ぼうっとしているおしんに加代が声をかけ、おしんは我に返る。「お前知ってんだかあのおなご?」
慌てて首を横に振る。
ウメが「まんず神様の前だっつうに男さベタベタして!」と不快そうに言う。
「違う。母ちゃんじゃねえ。母ちゃんによぐ似た人だ」おしんは懸命にそう思い込もうとしていた。
「母ちゃんが酒田にいるはずねえ、あだな男と一緒に……」が、おしんを見たふじの顔がおしんの脳裏から消えなかった。
カルタ遊びをしている加代・おしん・きく・ウメ。
おしんは浮かない顔をして1枚も取れていない。カルタは初めてなのだ。「オレ、働いてる方が楽だっす」
おしんらしい、と皆に笑われる。
そこへ清太郎が年始回りから帰ってきた。表をおかしげな女がウロウロしていたから、もう一度戸締りを見るようウメに言いつける。その言葉にはっと顔をあげるおしん。
ウメが出て行くと、「んだらオレもこれで」と退室しようとする。「まだ早い」と加代に引き止められるが、「朝早かったんだから眠たいんだろ」とくにに言われそのまま退室する。くにはおしんの様子がおかしいのに気付いているようである。
おしんは誰にも見つからぬように外へ出る。しかしくにが様子を伺っていたが。
外へ出てあたりを見渡すが誰もいないので中へ戻ろうとすると足音が聞こえた。
「母ちゃんか? 母ちゃんだな!」
「おしん!」
おしんとふじは駆け寄り抱き合った。
「会うつもりはなかったんだよ、ただどだなとこ奉公してるか、加賀屋さんば一目見ておきたかったんだ」
「なして酒田さ?」
「旅館のお客様が、酒田に遊びに行くから連れてきてやるって。お前がいる酒田ってとこ来たい一心で供してきたんだ。お前に会えると思わなかった。母ちゃんこだな姿で加賀屋さん来られるはずねえし、顔出してもお前に肩身の狭い思いさせんなんねえしな。母ちゃんお前にはこだな姿見られたくなかった」
「母ちゃん……」
「んでも、お前に見つけられてしまって。母ちゃんだってよくわかったな。初詣のご利益かな。お前加賀屋さんでめんこがってもらってんだな。昼お前ば見たとき、おしんだと思えなかったぞ。きれいな着物着せてもらってぇ。母ちゃん安心した。一目見ただけで、それだけでええと思った。んでも……」
「母ちゃん少し痩せたな。仕事きついのか? 早く辞めてけろ、オレやんだ。あだな母ちゃん見るのつらいんだ」
「ああ。雪とけて野良仕事できるようになったら帰れる。それまでの辛抱だ。んでも母ちゃん、お前や父ちゃんに顔合わせられねえようなことはしてねえからな。どだな、どだなことしたって……。ただ、酒田での母ちゃんのことは忘れてけろ。ええな」
「母ちゃん……」
「んでも酒田来ていがった。オレお前がつらい思いしてんでねえがと思ってそればっかり気になって」
「オレ、オレ……」
「揃いの着物着てたのが加賀屋のお嬢様だべ? きょうだいみてえにしてもらってんだな。母ちゃん思い残すことねえ。これで銀山さ安心して帰れる。これ小遣いだ。好きなもの買え」
「いらねえ」
「変な銭でねえ、お客様の心付けだ。持ってろ」
「ばんちゃんに何か買ってやってけろ。ばんちゃん、母ちゃん帰るの待ってるんだぞ。早く帰ってやってけろ」
「おしん……」
「オレ、母ちゃんのこけしちゃんと持ってる。それでええんだ」
ふじは泣いている。
「んだら、体大事にな。人に見つかるといけねえから入れ」
ふじに抱きつくおしん。
「行け! おしん」
もう一度抱き合う母娘。
「んだら母ちゃん行くから……」
小走りに去ってしまう。
名残惜しく母の行った方を見つめ、そしてとぼとぼと中へ戻っていく。
振り返りその姿を見るふじ。
中へ入るとこらえきれず泣き出すおしん。
くにが声をかける。
「おしん。女っていうのはな、自分のために働いてるんじゃねえんだぞ。みんな親や亭主や子供のために、つらいことを我慢して頑張ってるんだ。つゆほども自分のことは考えねえでな。それが女ってもんなんだ。お前のおっ母さんも同じだ。家族のことを思ってるから、どげなこともできるんだぞ。たとえおっ母様がどげなことをしてても、決して悪く思うんでねえぞ。なんぼかゆっくりお前と会いたかったかなぁ。うちさ顔も出さんでねえで。おっ母様つらかったんだろうな。おしん。おっ母様大事にしてやんだぞ」
おしんはみのに信頼されるようになっても決してそれに甘えなかった。奉公人の分を厳しく守って今まで以上に働くおしんは、次第に加賀屋にはなくてはならない存在になっていた。
奥の部屋でおしんはみのから小夜を背中にしょわせてもらっていた。
それが終わって出て行こうとするところに加代が入ってきて洋服をねだる。洋服で登校している級友がいるらしい。買ってくれないと学校へ行かないと言い、みのもあっさりと承諾する。
しかしそこへくにもやって来て、「まだそげなこと言ってんのか!」と口を出す。みのは、洋服は動くのに楽だと聞くし買ってやりたいのだが、くには駄目だと言う。
そんなに高いものでもねえんだから、とみのは食い下がるが、「高い安いで言っている訳でねえ」とくに。
「加代のこげな根性が気に入らねえんだ」
「ええだ! 買ってくれなぐてええ! その代わりオレ学校さ行かねえがらな!」
「ああ、行がなきゃ行かねでいい」
加代は泣いて部屋から出て行ってしまう。みのも慌てて後を追う。
出て行くに出て行けずやりとりを見ていたおしんにくにが言う。
「おしん。お前大根めしこしぇられるか?」
「大根めしがっす?」
「ああ」
「はい」
「晩餉にこしぇてくれろ」
おしんにはくにの真意が分からなかった。が、久しぶりに大根めしを炊けるのが妙に懐かしく嬉しかった。
(第34話 おわり)
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その声。
顔が見えた。
「母ちゃん……」
「何見てんだ、おしん?」
と、視線に気付いたのかその女もこちらへ目を留める。やはりおしんの母・ふじである。おしんを見て表情を変える。
「あのおなごもこっち見でるんだわ。またきょうだいだと思ってんだぞ!」
加代がのんきに言う間、数十メートル離れているが確かに見詰め合っていたおしんとふじ。
「早く行くべ! 早く!」
ふじは連れの男を急かしてそそくさと去っていった。
ぼうっとしているおしんに加代が声をかけ、おしんは我に返る。「お前知ってんだかあのおなご?」
慌てて首を横に振る。
ウメが「まんず神様の前だっつうに男さベタベタして!」と不快そうに言う。
「違う。母ちゃんじゃねえ。母ちゃんによぐ似た人だ」おしんは懸命にそう思い込もうとしていた。
「母ちゃんが酒田にいるはずねえ、あだな男と一緒に……」が、おしんを見たふじの顔がおしんの脳裏から消えなかった。
カルタ遊びをしている加代・おしん・きく・ウメ。
おしんは浮かない顔をして1枚も取れていない。カルタは初めてなのだ。「オレ、働いてる方が楽だっす」
おしんらしい、と皆に笑われる。
そこへ清太郎が年始回りから帰ってきた。表をおかしげな女がウロウロしていたから、もう一度戸締りを見るようウメに言いつける。その言葉にはっと顔をあげるおしん。
ウメが出て行くと、「んだらオレもこれで」と退室しようとする。「まだ早い」と加代に引き止められるが、「朝早かったんだから眠たいんだろ」とくにに言われそのまま退室する。くにはおしんの様子がおかしいのに気付いているようである。
おしんは誰にも見つからぬように外へ出る。しかしくにが様子を伺っていたが。
外へ出てあたりを見渡すが誰もいないので中へ戻ろうとすると足音が聞こえた。
「母ちゃんか? 母ちゃんだな!」
「おしん!」
おしんとふじは駆け寄り抱き合った。
「会うつもりはなかったんだよ、ただどだなとこ奉公してるか、加賀屋さんば一目見ておきたかったんだ」
「なして酒田さ?」
「旅館のお客様が、酒田に遊びに行くから連れてきてやるって。お前がいる酒田ってとこ来たい一心で供してきたんだ。お前に会えると思わなかった。母ちゃんこだな姿で加賀屋さん来られるはずねえし、顔出してもお前に肩身の狭い思いさせんなんねえしな。母ちゃんお前にはこだな姿見られたくなかった」
「母ちゃん……」
「んでも、お前に見つけられてしまって。母ちゃんだってよくわかったな。初詣のご利益かな。お前加賀屋さんでめんこがってもらってんだな。昼お前ば見たとき、おしんだと思えなかったぞ。きれいな着物着せてもらってぇ。母ちゃん安心した。一目見ただけで、それだけでええと思った。んでも……」
「母ちゃん少し痩せたな。仕事きついのか? 早く辞めてけろ、オレやんだ。あだな母ちゃん見るのつらいんだ」
「ああ。雪とけて野良仕事できるようになったら帰れる。それまでの辛抱だ。んでも母ちゃん、お前や父ちゃんに顔合わせられねえようなことはしてねえからな。どだな、どだなことしたって……。ただ、酒田での母ちゃんのことは忘れてけろ。ええな」
「母ちゃん……」
「んでも酒田来ていがった。オレお前がつらい思いしてんでねえがと思ってそればっかり気になって」
「オレ、オレ……」
「揃いの着物着てたのが加賀屋のお嬢様だべ? きょうだいみてえにしてもらってんだな。母ちゃん思い残すことねえ。これで銀山さ安心して帰れる。これ小遣いだ。好きなもの買え」
「いらねえ」
「変な銭でねえ、お客様の心付けだ。持ってろ」
「ばんちゃんに何か買ってやってけろ。ばんちゃん、母ちゃん帰るの待ってるんだぞ。早く帰ってやってけろ」
「おしん……」
「オレ、母ちゃんのこけしちゃんと持ってる。それでええんだ」
ふじは泣いている。
「んだら、体大事にな。人に見つかるといけねえから入れ」
ふじに抱きつくおしん。
「行け! おしん」
もう一度抱き合う母娘。
「んだら母ちゃん行くから……」
小走りに去ってしまう。
名残惜しく母の行った方を見つめ、そしてとぼとぼと中へ戻っていく。
振り返りその姿を見るふじ。
中へ入るとこらえきれず泣き出すおしん。
くにが声をかける。
「おしん。女っていうのはな、自分のために働いてるんじゃねえんだぞ。みんな親や亭主や子供のために、つらいことを我慢して頑張ってるんだ。つゆほども自分のことは考えねえでな。それが女ってもんなんだ。お前のおっ母さんも同じだ。家族のことを思ってるから、どげなこともできるんだぞ。たとえおっ母様がどげなことをしてても、決して悪く思うんでねえぞ。なんぼかゆっくりお前と会いたかったかなぁ。うちさ顔も出さんでねえで。おっ母様つらかったんだろうな。おしん。おっ母様大事にしてやんだぞ」
おしんはみのに信頼されるようになっても決してそれに甘えなかった。奉公人の分を厳しく守って今まで以上に働くおしんは、次第に加賀屋にはなくてはならない存在になっていた。
奥の部屋でおしんはみのから小夜を背中にしょわせてもらっていた。
それが終わって出て行こうとするところに加代が入ってきて洋服をねだる。洋服で登校している級友がいるらしい。買ってくれないと学校へ行かないと言い、みのもあっさりと承諾する。
しかしそこへくにもやって来て、「まだそげなこと言ってんのか!」と口を出す。みのは、洋服は動くのに楽だと聞くし買ってやりたいのだが、くには駄目だと言う。
そんなに高いものでもねえんだから、とみのは食い下がるが、「高い安いで言っている訳でねえ」とくに。
「加代のこげな根性が気に入らねえんだ」
「ええだ! 買ってくれなぐてええ! その代わりオレ学校さ行かねえがらな!」
「ああ、行がなきゃ行かねでいい」
加代は泣いて部屋から出て行ってしまう。みのも慌てて後を追う。
出て行くに出て行けずやりとりを見ていたおしんにくにが言う。
「おしん。お前大根めしこしぇられるか?」
「大根めしがっす?」
「ああ」
「はい」
「晩餉にこしぇてくれろ」
おしんにはくにの真意が分からなかった。が、久しぶりに大根めしを炊けるのが妙に懐かしく嬉しかった。
(第34話 おわり)
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