人類のせいで「動植物100万種が絶滅危機」=国連主催会合
マット・マグラス環境担当編集委員(パリ)
国連環境計画(UNEP)主催の政府間会合は6日、人類が陸海空で自然環境と生物多様性に壊滅的な打撃を与えていると警告した。
世界132カ国の政府が参加する「生物多様性及び生態系サービスに関する政府間科学政策プラットフォーム」(IPBES)は、人類の活動によって約100万種の動植物が絶滅危機にさらされていると警告する、報告書を発表した。
自然環境は地球上のあらゆる場所でかつてない速度で衰退しており、その最大の原因は人類の食糧とエネルギー需要が拡大し続けているからだという。
IPBESは、この衰退の動きは食い止めることができるものの、それには人類の自然の関わり方が全面的かつ「抜本的に変化」する必要があると結論している。
1800ページに及ぶIPBES報告書は、1万5000点の資料を3年間にわたり研究調査したものの集大成。私たちの農作物を受粉するハチ、土壌に水を蓄え洪水を防ぐ森林など、人間の活動が自分たちの社会を支える自然環境そのものを破壊している様子を、報告書は明らかにしている。
「政策決定者のため」として、パリ会合で発表された40ページの要約は、この地球しか住む場所のない人類がいかに地球を荒廃させてきたか、かつてないほど強力に糾弾している。
確かに歴史上、人類は常に地球環境に影響を与えてきたものの、かつてはかすり傷に過ぎなかったものが、過去50年の人間活動によって地球環境が負った傷は極めて重傷で深刻だと要約は指摘している。
1970年以来、世界人口は倍増し、世界経済の規模は4倍に成長し、国際貿易の量は10倍に増えた。この膨れ上がる人類に十分な食料と衣類とエネルギーを与えるため、各地で森林が驚くほどのペースで切り倒されてきた。特に熱帯地域の森林が、とてつもないペースで減少している。
1980年から2000年の間に失われた熱帯林の面積は、1億ヘクタールに及ぶ。南米での牧畜と東南アジアのパーム油生産が、その主な原因だ。
森林よりさらに破壊の度合いがひどいのが湿地帯で、1700年にあった湿地帯のうち2000年にも残っていたのは13%に過ぎない。
各国で都市部は急速に拡大し、都市地域の面積は1992年から倍増した。
人類のこうした活動によって、かつてないほど大量の生物種が死滅している。
報告書によると、動植物の25%の種が絶滅の危機にさらされている。
昆虫への地球規模の影響は分かっていないが、地域によって昆虫が急速に激減している様子は詳しく記録されている。
様々な現象を総合して、IPBESは約100万種の動植物が数十年のうちに絶滅すると警告。この絶滅のペースは過去1000万年の平均より10倍から100倍速いという。
報告書の統括執筆責任者の1人、米ミネソタ大学のケイト・ブラウマン博士は、「生物多様性と自然が本当にかつてないほど衰退している様子を記録した。衰退のペースや脅威の規模という意味で、人類史上このような現象はまったく前例がない」と指摘する。
「すべてを並べてみたとき、生物種の衰退があまりにひどくて、自然環境が人間に与える恩恵がどれほど失われるかを見て、衝撃を受けた」と博士は言う。
報告によると、地球上の土壌もかつてないほど劣化しているため、地表の生産性は23%も後退しているという。
人類の飽食によって巨大なゴミの山が積みあがっている。プラスチック公害は1980年から10倍に増え、私たちは毎年、3億~4億トンのもの重金属や溶剤、有毒ヘドロなどの廃棄物を地球の海や河川に投棄している。
この危機の背景は
報告書によると、これほど多くの生物を絶滅の危機にさらしている要因は複数あるが、土地利用の変化が主要因だという。
要するに、草原を集約農業の耕作地に切り替えたり、原生林を農園に変更したり、耕作のために森林を伐採したりする活動を意味する。こうした土地利用の変化は世界各地で、特に熱帯地域でさかんに行われている。
1980年以来、農業生産拡大の半分以上は原生林の破壊によって実現した。
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海でも同じような事態が進んでいる。
2014年の時点で人類の影響を受けていないと言える海は3%しかなかった。
魚はかつてないほど乱獲され、2015年には水産資源の33%が持続不可能なまでに捕獲されていた。
サンゴ礁では、生きたサンゴが岩を覆う割合(サンゴ被度)は過去150年間でほぼ半減している。
こうした変化の背景には、増え続ける人類の人口と、増え続ける食糧需要、とりわけ肉食や魚食への重要拡大がある。
「生物多様性が破綻する最大の要因は土地利用だと、今では見られている。農作地の7割が食肉生産に関連しているなどが、その主な理由だ」 と、フランス持続可能開発・国際関係研究所(IDDRI)のヤン・ローランス氏は言う。
「私たちの食生活に占める、肉や乳製品の割合を検討し直すべきだ」
(下図の<>を左右に動かすと、ブラジル・ロンドニアの森林の様子を1984年と2018年で比較することができる)
土地利用のほか、狩猟や直接的な動物搾取(さくしゅ)、気候変動、公害、侵入種などが脅威となり、複合的に事態を悪化させているという。
報告書発表に出席した統括執筆責任者の1人、ブリティッシュ・コロンビア大学のカイ・チャン教授は、「自然保護、水質保全、食糧維持、エネルギー供給、気候変動抑制を同時に実現する必要性を、「これほどの規模で検討した研究は今までなかった」と述べ、「これほど徹底的にこの課題に取り組んだ報告書は初めてだ」と強調した。
数の衰退
種の絶滅リスク: 約25%の動植物の種がすでに絶滅の危機にさらされている
自然の生態系: 最も初期の観測可能な状態と比較し、自然の生態系は平均47%衰退した
バイオマス(生物資源の量)と種の豊かさ: 野生ほ乳類の世界的バイオマスは82%減少した。脊椎動物の種の数は1970年から急速に激減している
先住民と自然: 先住民の地域集団が掲げる指標の72%が継続的に悪化し、先住民にとって大事な自然の要素が衰退していると示している
未来はどうなる
私たちの行動にかかっている。
報告書の筆者たちは、人類が特に何もせず今までどおり生活するというパターンのほか、より持続可能な生活習慣に切り替えた場合など、複数の未来シナリオを検討した。
ほとんどのシナリオで、自然環境の悪化は2050年以降も続く。
生態系の壊滅的破壊に至らないシナリオはいずれも、「抜本的な変化」を含むものだった。
「抜本的変化」とは何か
今回の報告書には各国政府への明確な提言はないものの、強力なヒントがいくつか含まれている。
そのひとつが、「経済成長という限定的パラダイム」とは違う方向へ世界の舵を切るというものだ。
報告書は、経済的繁栄の主要指標に国内総生産(GDP)を使うのではなく、代わりに生活の質や長期的影響を計る、全体像を視野に入れたホリスティックな捉え方を推奨する。
私たち人間が考える「良質な生活」の定義はこれまで、何もかも消費拡大に関連していたが、これはもう変えなくてはならないと、報告書は呼びかけている。
同様に、生物多様性を損ねる活動に経済的メリットがあるという状況を変えなくてはならないという。
「各国政府は、環境破壊につながる化石燃料、漁業、農業などへの補助金提供をやめなくてはならない。これは不可欠だ」と、英国際環境開発研究所のアンドリュー・ノートン所長は言う。
「今も将来的にも、何十億もの女性、子ども、男性には、清潔で健康で多様な環境が必要だ。それにもかかわらず土地や海を荒らす経済活動を、政府は支援してはならない」
公的に保護されている土地や海の面積も急速に拡大しなくてはならないと報告書は促す。複数の専門家によると、地球上の土地の3割は保全する必要がある。
米ナショナルジオグラフィック協会のジョナサン・ベイリー氏は、「2050年までに地球上の土地の半分、中間目標として2030年までに30%を保全しなくてはならない」と言う。
「その上で私たちは自然を再生し、イノベーションを促進する必要がある。そうしなければ、未来の世代に健康で持続可能な惑星を残すことができない」
事態は気候変動よりもひどいのか
世界中で環境破壊が進行している背景にある最大の要因は、気候変動だ。
温室効果ガスの排出量は1980年から倍増し、それに伴い地球の気温は0.7度上昇した。この変化は一部の動植物に多大な影響を与え、行動を制限し、絶滅の危険を悪化させている。
もし地球の気温上昇が2度に達すれば、生物の種の5%が気候変動を理由に絶滅する危険があるとされている。同様に、もし地球の気温が4.3度上がれば、生物種の16%が絶滅する危険があるという。
英プリマス大学のジョン・スパイサー教授は、「生物多様性の衰退の至近要因の中で、重要性の順位からすると気候変動は3番目でしかない」と言う。
「気候変動は紛れもなく、人類が近未来に直面する最大の脅威のひとつだ。だとすると、生物多様性に破壊的影響を与える1番目と2番目の要因、土地・海利用の変化と直接的な搾取が、どれほど深刻か分かるだろう。現状はもうかなり前から、すさまじく深刻だ」
IPBES報告書の筆者たちは、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)による気温上昇1.5度報告書が気候変動議論に与えたのと同じくらい、自分たちの報告書が生物多様性衰退の議論に大きく影響することを期待している。
私にできることは
人類の生存に不可欠な生物多様性を確保するために、ライフスタイルを抜本的に変える行動が必要だと言われているのは、政府は地方自治体だけでなはい。個人の行動も、もちろん貢献できる。
IPBES報告書の筆者の1人、ブラウマン博士は、「現代人の食生活は往々にして、自分と惑星にとって不健康だ。このことはもう分かっている」と話す。
「私たちはもっと多様な食事をとり、もっと野菜を食べることで、個人としてもっと健康になれるし、もっと持続可能な形で食糧を育てることで惑星をもっと健康にすることができる」
消費者としての選択、ライフスタイルの変化に加えて、政治行動によって個人が変化に貢献できるという意見もある。
報告書筆者の1人、米マサチューセッツ州にあるクラーク大学のリンク・ロイ・チャウドリ博士は、「社会として石炭より再生可能エネルギーに投資することが重要かもしれない」と言う。
「そのためにはどうするか? それは個人の行動によって。投票所で」
「ただ単に自分の手元の電気を消すだけではなく、もっと間接的な形での貢献というと、政治行動かもしれない」
(英語記事 Nature crisis: Humans 'threaten 1m species with extinction')