提督の憂鬱 作:sognathus
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普段内気な潮もこの時ばかりは嬉しそうな顔ではしゃぎがちです。
『大佐見てください! 潮、改二になりました!』
『お、そうか。お前もついに改二か』
『そうなんです! ねぇ、どうですか?新しい潮は!』クルーリ
『うん……まぁなんだ、龍驤が騒がなくてよかった』
自分の晴れ姿を見てもらいたくて目の前ではしゃぐ潮の姿に、提督は何故か何とも言えない表情で見つめながらぽつりとそんな事を言った。
『え?』
『いや、なんでもない。良い感じだぞ』ナデナデ
『あ……えへへ、ありがとうございます♪』
『……』ジー
そんな提督と潮のやり取りを僅かに開いた扉の隙間から覗く一つの影があった。
『……まぁ、アレなら別に……』
龍驤は扉から目を離すと小さな溜息を吐いた。
『あら龍驤、どうしたの? そんなところで』
気付いたら矢矧が直ぐ近くにいた。
ここまで接近されて気付かなかったとは、どうやら様子見に集中し過ぎていたようだ。
『ヤハギン……』
龍驤はチラッと横目で見た。
だが、ほんの少し視野に入れただけのつもりだったのに龍驤の目に飛び込んできたのは……。
『ん?』バインッ
『……っ』
程よく張って服を内側から押して自己主張している豊かな胸だった。
『え? なに?』
『な、なんでもない!』
『そうは見えないけど……』
『大丈夫や。ちょーーーーっと気になることがあっただけや』
『それ、大分気になってない?』
『……別に』プイ
龍驤はなるべく自分の視界にアレが入らないように努めながら不機嫌そうに顔を横に振る。
矢矧は、そんな彼女を不思議に思いながらも気を遣った言葉を掛ける。
『……? まぁあまり思い詰めない方がいいわよ? 一人で抱え込んで負担に潰される前に大佐や他の子に相談するのをお勧めするわ』
『ふっ……、寧ろ潰せる程のモノすらないんやけどな……』
『え?』
『……なんでもない』
『……?』
「という事があったの」
ところ変わって再び執務室。
矢矧は用事で提督を訪ねた際にその時に抱いた疑問を提督に律儀に相談していた。
「そうか、聞かなければよかった」
「え」
「冗談だ」
「いや、その顔冗談に見えないんだけど……」
「ま、どっちにしてもあいつの悩みに対して相談に乗れる奴は限られている。残念ながら矢矧、お前では無理なのは確かだが、そこはまぁ気にするな。本当にどうしようもないからな」
「一体なんだっていうの……」
仲間が何か思い悩んでいるというのに提督はそれに対してかなり達観した様子だった。
矢矧はそれを疑問にこそ思ったが、それ以上に提督の言葉に確信が篭った何かを感じ、それ以上は追及する気にはならなかった。
「気にしても仕方のない事だ。取り敢えず龍驤を呼んできてくれ」
「分かったわ」
それからまた暫くして―――
コンコン
『大佐、ウチや』
「入れ」
ガチャ
「呼んだ?」
「ああ、新境地の開拓の方はどうだ?」
「 」
部屋に入るなり歯に衣を着せぬ革新を突く提督の言葉に龍驤は固まる。
「ん?」
「い、いきなり何を言いよるん!?」カァ
「矢矧から聞いたぞ。お前、潮の改造後の姿を見て安心してたらしいな。何だかんだ言ってまだ気になっているんだろ」トントン
提督はそう言って自分の胸を辺りを指で軽く叩く。
「う……」
「俺も仕組みは分からないが、改造を受けても変わらない奴だっているさ。それが偶々お前もそうだったというだけだ」
「……」
龍驤は俯いたまま答えない。
提督はそんな彼女を眺めながら自分もまた何も言わず、ポケットから煙草を出して火を着けた。
シュボッ
「ふぅ……」
「大佐」
「ん?」
「でも、でもな?」
「ああ」
「ウチ思うんやけど、やっぱり艦娘ん中で一番ないのウチちゃう?」
提督は龍驤の質問に少し目を瞑って考えるような表情をしたが、直ぐに目を開いてこう言った。
「……いや、そう言われてもな。流石に全員の大きさ何て俺は分からないし元々そんなに意識もしていないしな」
「その言葉ホンマやと思いたいわ……」
「お前、本当に気にし過ぎだぞ。誰かに執拗に揶揄されているのならまだ考えようがあるが、傍から見てると自分で追い込んでいるだけだぞ?」
「せやけど……っ、はぁ……」ドヨーン
「……」ポリポリ
(あかん、呆れられた!?)ビクッ
眉間に皺を寄せて何か悩むような顔をした提督を見て龍驤はとっさに自分の態度が彼を不快にさせたのではないかと焦る。
「あ、あの……う、ウチ……ご、ゴメしつこか……」
「龍驤」
「はい!?」ビクン
「……」ポンポン
「え……? 膝?」
龍驤は軽く膝を叩いて自分を見る提督にどういう反応をしたらいいのか判断しかねている様子だ。
「ま……座れ」
「……っ、大佐!」ダッ
滅多にない提督自らの慰めに、龍驤は歓喜して即座に彼の元へと走った。
「……まぁこういう事だ。とにかく俺は気にしていない」ナデナデ
「うん……」
龍驤は提督の膝の上で足をぶらつかせて彼の手の撫で心地を幸せそうに楽しんでいた。
「一人しかいない男の俺が言うんだ。これで少しは気楽になれ」
「はぁ……大佐、ホンマに甘くなったなぁ……」
「甘いと言われるとアレだな」
提督はちょっと複雑そうな顔で苦笑した。
「んじゃ柔らかくなった?」
「そっちの方ががいいな」
「ふふっ♪」
「大佐」
「ん?」
「ウチも早く嫁さんにして大きくして欲しいわぁ」
龍驤の言いたい事を察した提督は、一瞬考えるような表情をしてやがてこう言った。
「……意外にソレ根拠が薄いらしいぞ」
「えっ、そうなん?」
「女性ホルモンとかいろいろと納得そうな要素もあるが、根拠に欠ける点もあるみたいだ」
「そうなんや~」
「ああ。前にも言わなかったか?」
「んー、言われてみれば……? まぁええわ。なぁ大佐、大佐は何が一番効くと思うん?」
「うん? そう……だな……」
「……」ジー
経験からくる大人の案に期待しているのか、龍驤はジッと提督を見つめる。
「やっぱり身体に気を遣うのが一番なんじゃないか?」
「気を遣う?」
「ああ。しっかり睡眠をとって、栄養もバランス良く摂るのは身体に良い影響を与える筈だ」
「堅実やなぁ」
期待とはやや違ったが、如何にも提督らしい答に龍驤はカラカラ笑う。
「しかしこれはこれで説得力があるだろう?」
「まぁ確かに」
「即効性のあるのを知りたいのか?」
「あればね」
「あるのか?」
「どやろ?」
「俺は手術くらいしか思いつかん」
「それは嫌や」
龍驤は即答した。
それは逃げだ、そして自分の身体を性能向上の改造目的以外で提督以外の人間に弄られるのは想像できなかった。
「ああ、俺もそこまでするのは行き過ぎだと思う」
「やっぱ高望みなんかなぁ」
「不相応何て事はないだろうが、望んだところで直ぐ叶うものでもないしな。開き直るのが一番だ」
「えー」
あんまりと言えば言えなくもない結論だった。
それでは結局いつもの自分と変わらないではないか。
「得意だろう?」
「ちょ、それどういう意味?」
自分の心を読まれたような気がして提督の言葉に龍驤は焦る。
だが、焦りつつも彼女は……。
「顔がニヤけてるぞ。笑うのを我慢してるんじゃないか?」
「ふ……っ、あははは。ホンマ大佐には適わんわぁ」
龍驤は、降参したように手を上げながら、窓から覗く晴れた空によく響きそうな声で笑った。
秋イベント始まりましたね。
自分はチキンなので、もっと情報が揃ってから臨む予定です。
潮、改二のレベルが予想より低くて意外でした。
しかし、おかげで改二の駆逐艦が揃ってきました。
やっぱり駆逐は改二までいかないと何か戦力的に安心できないんですよねw