【特集】"放置"される橋 なぜそのままに?増える老朽インフラ
2019年05月02日(木)放送
5年前から、国や自治体は全国の橋やトンネルなど老朽化が進むインフラの一斉点検を実施している。この結果、緊急な措置が必要と判断されたものの数は現時点で580か所に上っているが、放置されたままのものが複数あることがわかった。いったいどういうことなのか?
建設から70年以上経ち腐食や亀裂
奈良県十津川村。村の面積の96%が山林で占められていて、日本一長い鉄線の吊り橋「谷瀬の吊り橋」など、大小170もの橋が架けられている。村の南部、十津川温泉の近くにある「猿飼橋」(1945年建設)は70年以上にわたって地域住民に利用されてきたが、橋を支える柱に腐食や亀裂が見つかり、今は通行禁止となっている。
Q.何年くらい前から通行できない?
「2、3年くらい前ちゃう?俺は別にどうっちゅうことはないけど、向こうの年寄りらは不便なんちゃう」(近くの住民)
取材班が対岸の住民にも聞いてみると…
「時々は渡る。急いで行かないといけない時とか」(住民)
「たまに渡る時あります、怖いけどね。不安はありますね。(向こう岸には)お店とか郵便局、病院あるやないですか、銀行もあるし」
川の南側の住民が川の向こう側にしかない商店や病院へ行くには、近くにある別の橋を渡ればいいのだが、約400メートル離れているため、危険を承知でこの古い橋を渡るのだという。
架け替えも修繕もされない理由は?
2012年、山梨県・中央自動車道の笹子トンネルで天井板が崩落し、9人が死亡、2人がけがをする事故が起きた。国はこの事故を受け、長さ2メートル以上の橋と全てのトンネルの点検を義務付けた。その結果、危険性の程度に応じて、レベル1の「健全」からレベル4の「壊れる可能性が高く緊急に措置が必要」まで4段階に区分し、対策を求めている。十津川村の猿飼橋は今から3年以上前の2015年12月に「レベル4」と判定されたが、今も手つかずのまま放置されている。さらに、村で「レベル4」と判定されたにもかかわらず放置されている橋は、猿飼橋だけではなかった。なぜなのか、村の担当者に聞くと…
「財政上の問題ですね。(十津川村で)173橋管理しておりまして、このうち80橋が修繕が早急に必要(レベル3と4)。直すにしても撤去するにしても方針を早く決めなければいけないが、実際に工事にかかるのはいつになるのか、5年先か10年先かその先になるか、見通しが全然たっていない状況」(十津川村役場建設課 大前貴広主幹)
村の建設予算は年間13億円で、このうち橋の工事などに充てられるのは1億円程度。一方、橋の改修は架け替えで1億円以上、修繕や撤去でも数千万円かかるため、身動きが取れない状況だという。
「財政面も大変ですし、橋梁修繕は今まで私どもがやっていないかった分野。技術系職員を募集しても、全然採用試験を受けに来てくれない、この何年も来てくれない。仕事も追いつかない、財政も追いつかない。両方追いつかない状況」(大前貴広主幹)
「レベル4判定」と「地元の意見」のはざまで
老朽化が進むインフラの改修を阻むのは、自治体の財政問題だけではない。和歌山県田辺市の「秋津橋」は、橋脚のコンクリートがはがれ鉄骨がむき出しになっている。この橋も3年前に「レベル4」と判定された。市は当初、近くに別の橋が3か所架かっていることから、古くなった秋津橋を撤去する方針を固めていた。ところが…
「地元の人にはとっては不便になってしまって。地元の人らは大概ブーブー言っていた」(当時の地区長 山口五十公さん)
当時、地元の地区長を務めていた山口五十公さんは約500人分の署名を集め、撤去しないよう求める要望書を市に提出した。
「すぐ下に立派な橋ができているので、一般的に思われたらあの橋でええやないかと思うけど、(住民は)信号がたくさんあってイライラしているみたい」(山口五十公さん)
Q.信号くらい待ってよという声もあると思うが?
「そりゃあるでしょうね。普通に考えたらそうだと思いますわ。やっぱり今まで秋津橋ばかりずっと使ってきた人にはかなり不便になった」
市は検討を重ねた結果、近くにある別の2本の橋が老朽化した際は必ず撤去するという条件付きで秋津橋を修繕し、残すことに方針転換した。
「全ての橋を修繕するにはかなりのお金がいる。当初は地元に理解いただいて撤去の方を進めていきたいなと考えていた。(住民の)思い入れのある橋に対しては、今まで通行してきたということもありますので、地元の意見は大事かなと思います」(田辺市担当者)
過去の集中投資で老朽化も集中へ
国や各自治体などは5年前から全国に74万か所ある橋やトンネルの点検を始め、これまでに約8割を調査した結果、580もの橋などが「レベル4」と判定された。公共政策の専門家は「事態はさらに深刻化する」と指摘する。
「集中投資をした高度経済成長期、日本全国に橋を架けた。過去集中投資をしたために、今後老朽化も集中する。高度経済成長期を支えた世代の人たちはしっかり集中投資をして高度成長という果実をもたらしたわけですけど、それを受け取った我々の世代がちゃんとした対策をとってこなかった」(東洋大学経済学部 根本祐二教授)
耐久年数の目安である築50年を超えた橋は2018年時点で、全体の25パーセント。10年後にはその2倍に達する(出所:国土交通省 道路メンテナンス年報)。これは地方だけではなく都市部も含めたデータだ。
「(今後)年間1万本の橋を架け替えないといけなくなるわけですが、予算は1000本分しかない。残りの9000本分は予算がない状態。橋とかトンネルは人命に直結するということと、代替の方法がない。(国や自治体は)最優先で予算を確保すべき」(根本祐二教授)
当たり前のように存在し、人々の暮らしを支えてきた橋。この“当たり前”を保つために、抜本的な対応を考える時に来ているのではないのではないだろうか。