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世界最高の暗殺者、異世界貴族に転生する 作者:月夜 涙(るい)

第四章:暗殺者は探り当てる

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第二十話:暗殺者は思いやる

 目的地であるジョンブルの街について宿をとる。

 襲撃までの間は、この街で過ごしつつ準備をする。この街の中にいるのが、もっとも対応しやすい。

 食事をしながらの作戦会議を行っていた。


「うーん、やっぱりこの街の料理はいいね。とっても懐かしいよ」


 満足そうな顔で、ディアが食事を運んでいる。

 バターたっぷりの川魚を使ったムニエル。特徴としてはこれでもかと炒めた玉ねぎが入っていること。

 味自体は特筆するものではないのだが、ディアにとっては故郷の味。

 スオンゲル王国との国境付近にある街だけあって、そちらの料理が伝わっている。


「あの、ネヴァンさん。私たちと一緒の食事で大丈夫でしょうか?」

「もちろんですの。先日も言った通り、魔族を倒すために同行している間はチームメイトで、あなた方と同じ立場ですもの」


 ネヴァンが同行する際に、一つ条件を出した。

 それは作戦行動中は、ただのネヴァンとして扱うこと。

 馴れ合いをするために言ったわけじゃない。

 チームとして動く場合、指揮系統の整備は非常に重要だ。少数チームであってもリーダーが二人いるなんて状況ではパフォーマンスがガタ落ちしてしまう。

 だからこそ、チームとして動いている間はタルトやディアと同等の存在として扱う。

 俺はもちろん、他のみんなも。


「そう言われても、公爵令嬢のネヴァン様に……」

「そういう奥ゆかしいところってタルトの美点だと思うけど、欠点でもあると思うよ。こういうの軍隊だって一緒だよ。えらいさんの息子でも上司の命令は絶対だし、特別扱いはされない。そんなことしたらみんな死んじゃうもん」

「ディアの言う通りだな。それができると言ったから連れてきているんだ」


 軍を例に出すあたり、ディアらしい。

 高貴な生まれだからと指揮系統を無視すれば、その軍隊は最弱になる。

 もっとも、高貴な生まれなものは初めからそれに相応しいポストに着くが。

 しかし、ネヴァンは望んで俺と戦うと言った。そこには彼女に相応しいポストなどない。であるなら、ふさわしくない待遇で扱うしかないし、それができないなら連れていけない。

 だからこそ、俺はあくまで部下としてネヴァンを見て敬語をやめている。

 ただしそれは作戦行動中だけの話だ。


「そうですの。だから、ディアのようにネヴァンとお呼びくださいな。タルト」

「はっ、はい、あっ、あの、ネヴァン」


 恐る恐ると言った様子でタルトはネヴァンを呼びつけにした。

 ぶっちゃけ、タルトの場合は素で俺とディアを様付けするので、ネヴァン様でも良い気がする。


「うん、いいよそんな感じだね。あっ、ネヴァン、塩をとって」

「はい、どうぞ」


 ……少々ディアの場合は割り切りがすぎる気がする。

 彼女の場合、思考の根本にあるのが合理性だし、そもそもディアは身分が高い存在に慣れているのだろう。


「もう一つの条件も忘れていないな」

「はい、もちろん。ここで知った情報は誰にも話しませんし、技術の流用もしないってことですね」

「ああ、……俺たちには知られたくない技術や戦術がある。そして魔族は手札を隠して戦える相手でもない。その条件を呑んでもらえないなら、ネヴァンがついてこられないように死力を尽くす」


 これも事前の約定だ。

 俺の得意とする、【銃撃】や【グングニル】、【レールガン】などは表に出せないもの。

 それらを封じて魔族を殺すことは不可能。そして、それを使う以上は予めチームのメンバーにはその性質を公開しておかないと作戦行動は取れない。

 だから、ネヴァンには今回の魔族殺しで使いうる魔術や技術は伝えてある。


「そちらも約束しますの。もし、その約束を破った場合はどうなるのでしょう?」

「どうもしない、二度とおまえを信用しないし敵だと認識する。さらに言えば、こんな約定、穴をつこうと思えばいくらでもつける。たとえば、子飼いのものに後をつけさせて、自分ではなくそいつが口外したなんてのもありだ。だが、そういう穴をあえて塞がない。『約束は守った』なんて詭弁を使おうが、俺はおまえを敵だと定める」

「あらあら、それはとっても悲しいですの。でも、ローマルングを敵に回すなんて言っていいのでしょうか?」

「ああ、それぐらいには買ってもらっていると自負している……それに殺すだけならいつでもできる。例え、相手がローマルングでも」


 意識的に殺意を漏らす。

 これは威嚇であり、決意表明。

 ネヴァンが目を見開き、震える手を抑える。


「ふふふっ、やっぱり暗殺者ですのね。なんて冷たい目。でも、そこがいいのです。信用してください。あなたに嫌われるようなことしませんの。大事な未来の夫ですから」

「後半を了承した覚えはないが」

「あなたが了承しているかなんて関係ありますの?」


 ……相変わらずめちゃくちゃだ。


「とにかく、わかってくれているならいい。まずは食事だ。これが終われば、作戦会議を始める」

「はい、ではこの庶民の味を楽しんでしまいましょう」

「これ、結構ごちそうですよね」


 タルトがネヴァンを不思議そうに見ている。

 公爵令嬢と貧乏な農村生まれのギャップ。

 ディアも感性はどっちかというとネヴァンに近いが、ディアの場合はそういうのを感じさせない。

 何はともあれしっかり食べよう。

 長旅での疲れを癒やさないと。


 ◇


 翌日は、街の地形を把握するために全員で実際に歩く。

 すでに街の地図は入手しているが、実際に目でみる必要がある。

 今回の作戦では市街戦すら想定している。いや、そうなる確率のほうが高い。


 相手はネコ科の性質を持っている、それが街の至近距離に群れで出現するのだ。

 超高速かつ、跳躍力も凄まじい。あっという間に街へ近づき、防壁をひとっ飛びで越えていく。

 どの方角からくるかもわからない以上、街の中に入るまえに倒すのは難しい。


 ローマルング公爵家のエリートが見張りをやってくれており、全方位を監視してくれているが、肉食獣というのは気配の消し方がうまく、彼らがこちらに情報を伝える前に侵入される可能性が高い。

 そうなれば戦場は街の中だ。


 昨日、馬車の中で【グングニル】を使えないのは、防壁の脆弱性があると言ったが、それは運良く外での迎撃に成功したという想定であり、街中であんなものぶちかませば街が死ぬ。


「ううう、どこで戦っても、街への被害は抑えられそうにないです」


 タルトがきょろきょろと周りを見ながら、そう言う。


「まあな、これだけ栄えている街だと都合よく人がいなくて建物もない、広い空間なんてものはない。犠牲がでるのは止められない。俺たちは神様じゃなんだ」

「はいっ、だけど、悲しいです」


 俺はタルトの頭を撫でる。


「タルトは優しいな」

「そんなことないです。ただ、嫌だって思っただけで」


 照れながらも気持ちよさそうに俺に甘えてくる。


「まあ、羨ましいですの。提案があります。こうして下見をしているのですし、せっかくだから地の利と待ち伏せ、二つのアドバンテージを活かしませんか」

「そのアドバンテージを活かすなら罠か。たしかに効果的かもな」


 事前に来るとわかっているのだから、出迎えの準備をするのは定石。

 ただし、対魔族を想定するのであれば、超火力が必要になる。

 その罠が発動すれば、十数軒の民家が吹き飛ぶようなもの。それをいくつも仕掛けなければならない。

 ……これも誰かの犠牲を前提にした戦略。

 しかし、その罠がなくても戦闘になれば同じことが起きるのも間違いない。

 なら、予め戦場になっても犠牲が少ないところを見定め、そこに罠をしかけた上で魔族の群れを誘導し、罠の力を駆使することでその一帯を戦場とし固定するべきか。


「なら、さっそくやりましょう」

「やりたいのは山々だが難しい。罠を作るだけの物資はなんとかなる。しかし、罠の設置が問題だ。魔族がかかる前に人に気付かれる」

「それも大丈夫ですの。設置場所は民家にしましょう。お金で頬を叩いて、私が買い取りますので、仕掛け放題ですわよ?」


 ……たしかにな。この人なみの中で罠を仕掛けるならそれがベストだ。

 買い取った家の中なら邪魔をされないし、罠を隠しやすい。


「金持ちは怖いな」

「使うべきときに使うから、お金には価値がありますの」

「お言葉に甘えよう」


 少しでも勝率をあげられるのなら、ネヴァンの力を借りるべきだ。


 ◇


 それから、地形を確認しながら罠を設置するための家を十六軒購入し、罠を仕掛けた。

 むろん、いくら金を積まれても家を売らないものもいたが、代わりの候補はいくらでもあった。


 相場の三倍もの値段を積まれれば、快く即時の退去を認めてくれるものは次々現れる。

 どの方角から来るかわからないので、各方面に四軒ずつ、とっておきの罠を仕掛ける。

 遠隔操作で発動する罠だ。

 敵を誘導し死角からの強撃に使うもの。


「すごい財力だな」

「稼いでおりますから」


 そもそも、魔族が現れない可能性がある。

 現れたとしても、可能であれば街を守る防壁の外で戦うことを最優先する。

 十二分にこの街が戦場にならない恐れがある。

 にもかかわらず、ネヴァンは十六軒もの家を相場の三倍で買ったのだ。


「無駄になったらすまない」

「いいですの。私が気付いてないとでも思いましたの? あなたが買った家、そのすべてが再利用しやすい。商売に使いやすい立地だってことに。三倍の値段を買っても、あなたや私なら簡単に元がとれる、そういう土地でしたの」

「そこまで気付くか。言っておくが、罠としての有効性があることを前提に、その中から、そういう土地を選んだんだ。ネヴァンに損させないためにな」


 ネヴァンにとっては大した出費じゃなくても、大金だ。

 なら、その後も考えておきたい。


「それだけじゃないでしょう? 本当に抜け目がないのですね。……だって、周囲が空き地になれば、何倍にも価値があがるところばかり。地上げ屋もできますの?」

「うわぁ、ルーグってけっこう考えることえげつないよね。戦場で更地になることを予想して先に買っちゃうなんて」

「そっちはネヴァンへのフォローじゃない。そうすることで戦場にしてしまった場合、そこに住んでいた人へのフォローができるんだ」


 ネヴァンとディアが首を傾げる。

 俺が買った土地はもともと価値があるが、密集した民家が災害か何かでまとめて吹き飛び更地になれば最高の商業用地になりえる。

 ……そう、罠が発動し、そこが戦場になればあたり一帯は吹き飛び、理想的な商業用の空き地ができるてしまう。

 そんな場所をあえて、戦場にした。

 それはただ利益を追い求めてのことじゃない。


「ああ、なるほど。戦場になったせいで家をなくしちゃった人も、高く買ってもらえるなら、お金や住む場所に困ることはないってことですね!」


 まっさきにタルトが正解するとは。

 タルトの俺のことを見る目は憧れのせいか美化しすぎているきらいがある。しかし、だからこそ見えている部分もあるようだ。

 どこを戦場にしても多くの犠牲ができる。なら、高値で買い取ることができる土地を戦場にしておけば、家を失った人々が新たな生活を踏み出すための資金にできる。


 望むなら、買い取った土地で始める商売で彼らを使うことで職も与えられる。


「ああ、そういうことだったんだ。ルーグって気配りしすぎるよね。禿げるよ?」

「それは嫌だな」


 苦笑する。

 できる限りの偽善。これはルーグ・トウアハーデになってから芽生えた行動指針。

 自己犠牲をするつもりはない、暗殺の成功率を落とすことはしない。だけど、その範囲でだけどできることはしてやりたい。

 きっと、転生前の俺じゃこんなこと考えもしなかっただろう。

 最後の一軒での罠を設置し終わる。


「……罠の設置はここでラストだ。あとは備えるだけ。それとな、ネヴァン。一つ伝えておきたいことがある。たぶん魔族との戦いの最中、ノイシュも現れる。それも、力の代償に人間をやめてな。アルヴァン王国の貴族としては許されない罪だ」


 力を渇望したノイシュ、そんなノイシュを玩具と言ってオマケをしたと言う蛇魔族ミーナ。

 なにより、俺ですら勝てないと言うほど強い魔族との戦いに意気揚々と現れるとミーナは予言した。


 そこから導かれる答えは一つ。

 ミーナの力を受けて、人間をやめてまで力を得たノイシュが現れるということ。


「へえ、それも私が知らない情報ですの。これでも、かなり真面目に馬鹿な幼馴染のことを心配していたのですよ?」


 心配というのは言葉どおりの意味じゃない。

 ローマルング公爵家の圧倒的な情報収集能力で足取りを追っていたという意味。


「その馬鹿な幼馴染が敵に回ったらどうする? 俺は必要ならば殺す」

「必要でなければ、そうしないということですのね?」

「そうやって、すぐに言葉にしない想いを読まれるとやり辛いな」

「私も同じですの。……まったく、むかしは可愛かったのに。子犬のようにお姉ちゃん、お姉ちゃんと。どこで間違ったのでしょうね」


 ネヴァンが微笑む。

 隠しきれない寂しさが漏れていた。

 彼女にはノイシュへの想いがある。

 それは恋愛とは程遠く、むしろ弟にむけるようなもの。

 意外だ。ローマルングを体現することしか考えていない彼女が、一切利益につながらない彼にそんな感情を向けるなんて。


「とにかく、これで終わりだ。全員、いつ魔族が現れてもいいように備えておいてくれ」

「はいっ、たくさん食べてたくさん寝ます!」

「私は今回のために作った新魔術の最終チェックをしておくよ」

「なら、私は戦後処理を考えておきましょうか」


 ここから、いつ魔族が来てもおかしくない。

 やれることはすべてやった。

 あとは、戦いのなかでどう動くかだ。


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