提督の憂鬱 作:sognathus
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それを知った提督は指輪を用意して霧島を呼びます。
さて、霧島のお返事は?
「け、ケッコンですか?」
「ああ、お前も成長限界に達したしな。お前さえよければ、だが」
「あ……え、えーと……。そう言われましても、まだ比叡姉様もケッコンしてないのに私がなんて……」モジモジ
「ケッコンする順番については姉妹で相談すればいい。が、ケッコン自体はお前が決める事だ。俺は……する以上は特別扱いとは言わないが、した事を後悔させないくらいの事はしてやるつもりだ」
「大佐……。で、でも私ってメガネだし、地味だし……」
(確かに、霧島は姉妹の中で一番理知的で常識がありそうだよな。だが、実はこいつが姉妹の中で一番武闘派でもあるんだよな)
提督は恥ずかしがる霧島を見ながらそんなちょっと失礼な事を考えていた。
「そ、それに……」
(何か無理に悩んでいるように見えるな。これはあれか、俺の押しが足りない? 求めているのか?)
「霧島……」
提督が霧島に近づく。
顔と顔が触れ合いそうな距離だ。
じっと彼女を見つめる提督の目は霧島に、ケッコンのプロポーズの代わりにある行為をしてもいいかと訴えていた。
「あ……大佐……」
霧島も提督の目を見つめてそれを理解した。
二人は徐々に顔を近づけ合いそして……。
「大佐、失礼します!」バンッ
「 」
「……っ!!」バッ
「あ、霧島。来てたんだ。大佐に用事?」
見計らったかのようなタイミングで比叡が元気よく部屋に入って来た。
今は昼休みで、仕事中の時間意外は出入り自由なのでノックもなしの突然の急襲だった。
「え……ま、まぁ……」
顔を赤くして視線を逸らす霧島。
対して提督は瞬時に態度を切り替え、平静を装って比叡に聞いた。
「比叡、お前こそ何か用なのか?」
「そうでした! 大佐、これ!」
提督に部屋に来た目的を聞かれた比叡は、後ろ手に持っていたある物を提督の前に突き出した。
「鍋……料理か。お前が?」
「はい! 作りました!」
「お前料理作れたのか」
「あっ、ひどい! それ偏見ですよ! わたしだって料理くらい作れます!」プクー
提督の意外そうな反応に比叡はちょっと拗ねた顔で抗議をした。
それに対しては霧島も、元々比叡が料理を作れるのを知っていたようで、姉のフォローをしてきた。
「大佐、比叡姉様は本当に料理を作れますよ。というか、上手いです。榛名と同じくらい」
「ほう」
「ふふー♪ 解ってもらえました? という事で如何ですか?」
「いや、今俺は霧島とな……」
提督はさっきまでの霧島とのやり取りを思い出し、こちらを優先する事が大事だと考えた結果、比叡の誘いを断ろうとしたが……。
「私は別に構いませんよ」
流石姉想いの金剛姉妹にして頭脳派(普段の生活では)の霧島である。
私心を押し隠し、姉の希望を優先してきた。
「霧島ありがとう! ね、大佐どうです? 勿論霧島も一緒ね!」
そんな妹の健気な心遣いを知ってか知らずか、比叡は嬉しそうな顔で霧島にお礼を言い、食卓に食器を用意し始めた。
「……まぁ霧島がいいなら。カレーか?」
霧島が同意するならこれ以上は何も言えない。
提督は食事の用意をしている比叡に鍋の中身を訪ねた。
「いい予想です! 海軍と言ったらカレーですものね! でも残念ながら違います。正解は……」
カパッ
「シチューか」
「わぁ」
比叡が明けた鍋の中身は白い液体から香ばしい牛乳独特の甘い匂いを放つシチューだった。
「えへへ、作り方はカレーとあまり変わりませんけどね。ちょっと意表を突いてみました!」
「ふむ、確かにこれは意外だが美味そうだ」
「ホントですか!? やったぁ♪」
「比叡姉様、まだ大佐が実際に食べる前にそんなに喜んでしまうと、後の楽しみがなくなってしまいますよ」
「あ、それもそうね! さ、食べましょう大佐!」
食器を並べ終わった比叡が会食を促す。
「ああ。ご相伴に預からせてもらおうか」
「戴きます比叡姉様」
「比叡、俺の匙がないんだが」
食事が始まったのはいいものの、提督の前にはにシチューが入った皿だけが置いてあり、スープを掬う為の匙が無かった。
「大佐には私が食べさせてあげます!」
「えっ」
目をキラキラさせてそんな事を言い出す比叡に、予想外の発言だったのか霧島は意表を突かれた顔をした。
「いや、そこまでしなくてもいい。おい、それお前が使ってた匙だろう。そ……」
「はいっ」
頬を染めた比叡が明らかに関節キスを意識しているのは間違いなかったが、元々それも狙いの一つであったらしく、真剣な顔をして提督にシチューを掬った匙を向けた。
「……」
提督は口を一文字にして拒否の意を表した。
「あーん」
「……」
「あーんです。大佐」
「……」
「あーん!」
「……」
「あ……あ……」ジワ
「……」パク
「……!」パァッ
「どうですか?」
「……まぁ美味い」
比叡の涙に負けた提督は自分を不甲斐なく思いながらも、味に関しては正直に意見を述べた。
「本当!? 良かったたぁ」
「はい!」
気分を良くした比叡は更に提督に勧める。
「いや、もう……」
「お願いです!」
「……」パク
「……!」パァッ
「……」
霧島は突然新婚の様な(提督は明らかに半強制的だが)食事を始めた二人をモヤモヤしながら見つめるしかなかった。
気のせいか、シチューもあまり味がしなかった。
「ふぅ、ご馳走様」
「……ごちそう様です」
「お粗末さまでした♪」
「さてこれで……」
(食事も終わったことだし、これで比叡には取り敢えず帰ってもらい、霧島との話の続きを……)
提督がどうやった比叡を上手く部屋に返すか掛ける言葉を練っていた時だった。
「大佐、食後にこれをどうぞ」
「ん……スムージー?」
比叡は次にピッチャーに収められた緑色の液体を出してきた。
「はい、比叡特製の栄養ドリンクです!」
「ほう」
「……」(早く大佐と話の続きがしたいな……)
流石にこの時点で霧島は、これ以上姉の甘い雰囲気を味わされる事に対して若干不満に思い始めていた。
しかし当の比叡は持ち前のマイペースさで、残酷にも霧島の思いに気付かずに話を続ける。
「まぁ特製という程そんなに凝ったレシピではありませんけどね。材料は小松菜・レタス・バナナ・リンゴです」
「やっぱり緑が強いんだな。色からは果物が入っている事が判らない」
提督はグラスに注がれた液体を見ながら、比叡のレシピを聞いて少し興味がありそうな顔をした。
「でも味は果物が濃いので見た目よりずっと甘くてフルーティですよ!」
「ほほう」
「どうぞ!」
「戴こう……おい、比叡」
「はい?」
「なんでグラスにストローが2つ……」
提督の言った通り今度はグラスが2つしか置かれていなかった。
1つは比叡、もう一つは自分か比叡かと思いきや、自分の前に置かれたそれにはストローが2つ。
「!」
霧島は比叡の更なる攻めの大胆さにショックを受けた顔をした。
「もうっ、それを聞きますか?」
「……」
「んっ」パク
「いや、それは流石に……」
提督は流石に横に霧島が居る状態でその誘いに乗るのは気が引けた。
さっきまで霧島と話していた内容を思い出せば余計にだった。
「んーっ!」
それでも子供の様に顔を膨らませて催促する比叡に、結局提督は根負けしたのだった。
「……」パク、チュロロ
「~♪」ズズ……
「大佐、今日はありがとうございました!」
全てをやりきって満足したのかとても晴れやかな顔で比叡は提督と霧島にお礼をいった。
心なしか比叡が輝いて(絶好調に)見えた。
「いや、礼を言うのは俺だ。ご馳走様」
本心ではあったものの、心労のせいか少し疲れた顔で提督は比叡にお礼を返した。
「気にしないでください! 美味しく頂いてもらえたらそれで満足ですから!」
「……そうか」
「あの」
「ん?」
「また持ってきてもいいですか?」
「……まぁ頻繁でなければな」
「そうですか、ありがとうございます! それじゃ、わたしはこれで失礼しますね! 霧島、今日はお邪魔しちゃってごめんね!」
「いえ……」
「それは失礼致しました!」
バタンッ
「……」
「……」
「大佐?」
「ん」
「ケッコンしましょう」
ポツリと霧島が言った。
「え?」
「ケッコンです直ぐに」
「おい、霧島?」
改めて話の続きをするつもりがいきなり結果を突き付けられて、霧島の急変に提督は動揺した。
「指輪ありますよね? 早く契約しましょう」
「急にどうし――」
「早く」ズイ
「……分かった」
女の嫉妬は怖い。
そう思った提督だった。
という事で霧島とケッコンしました。
これで7人目ですね。
やっぱりレベリングをあまりしないとどうしても演習で活躍しがちな戦艦か空母と先にケッコンしてしまいます。
他の艦種とケッコンするのはいつになるのかなぁ……。