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 世界最大の経済大国であり、基軸通貨国でもある米国の財政への信認が揺らげば、世界経済が動揺しかねない。今後に不安を禁じ得ない。

 トランプ大統領が議会に提出した19会計年度(18年10月~19年9月)の予算教書によると、連邦政府の財政赤字は9840億ドル(約107兆円)と、昨年の想定から2倍近くに膨らむ。

 昨年末に決めた大型減税で税収が伸び悩むうえ、歳出面では大盤振る舞いするからだ。国防予算は大幅に増額し、経済政策の目玉であるインフラ投資にも10年間で2千億ドル(約22兆円)をつぎ込む。教書の冒頭で「この予算は、無駄な歳出をやめ、国の債務を減らすのに必要な、難しい選択をする」とうたったのが空しく響く。

 今後10年間の財政赤字の総額は7・1兆ドル(約770兆円)にのぼる見込みだ。昨年掲げた「10年間で財政赤字を解消」という目標は早々に断念した。

 米国の財政赤字の国内総生産(GDP)に対する大きさは、リーマン・ショック後の深刻な不況期ほどではないものの、貿易との双子の赤字に苦しんだ80年代の規模に近づきつつある。

 しかも、予算教書が前提とした経済見通しは甘めだ。3%程度の経済成長が続くとしており、今後10年間の平均成長率を1・9%とみる米議会予算局より高い。前提が崩れれば税収は見込みを下回り、財政赤字がさらに膨らみかねない。

 米国は09年から景気拡大が続いており、足元の失業率はITバブルにわいた99~00年並みの水準に下がっている。景気の現状を踏まえれば、減税を実施したうえに歳出を増やす必然性はなく、むしろ危うい。

 心配なのは、財政赤字拡大に伴う国債増発への懸念が金利上昇につながり、市場に無用な混乱を招くことだ。

 金融政策では、連邦準備制度理事会(FRB)が徐々に利上げを進め、リーマン・ショック後の金融緩和策からの出口へ向けて微妙なかじとりをしている時だ。市場はささいなことに敏感に反応する。そんな状況への配慮が、トランプ政権の経済運営には全く見えない。

 米国では議会が予算編成権を持ち、議会は教書をたたき台に具体的な予算づくりに入る。

 11月に中間選挙を控え、与野党を問わず歳出拡大を求める声が強いようだが、議会の見識が問われる。特に与党の共和党は伝統的に財政規律を重視してきたはずだ。米国の財政運営が世界経済に与える影響の重みを認識し、慎重に議論してほしい。

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