政府が新たな高齢社会対策大綱を決めた。目を引くのが、原則65歳からの年金の受け取りを、70歳より後に遅らせることができる仕組みを検討する、としたことだ。その分、毎月の年金額を増やす。
65歳以上を一律に「高齢者」とみるのではなく、意欲のある人には、できるだけ長く働いて社会を支える側に回ってもらう。そんな考え方に基づく。
たしかに今の高齢者は多様だ。元気に働き、一定の収入がある人にとっては、新たな仕組みは選択肢になるだろう。
ただ、年金制度について考えるべき課題は他にも多い。そのことを忘れてはならない。
年金の受け取りは、今も70歳まで遅らせることができる。月額は最大で約4割増える。
ただ、実際に受給を遅らせている人は1%程度だ。大綱は、高齢者の就業や起業への支援強化を掲げるが、年金に頼らずに生活できるほど稼げる人は限られるだろう。
働く高齢者を増やすと言うのなら、一定以上の給与があると厚生年金が減額・停止される在職老齢年金の仕組みこそ、見直しを急ぐべきだ。
高齢で働く人たちには非正規雇用も多い。そうした人たちの年金を充実させるため、厚生年金の適用対象をさらに広げていく改革も必要だ。
政府は今回の方針を、個人の選択肢を広げるためと強調する。が、いずれ年金の支給開始年齢を引き上げる議論になるのでは、との見方は消えない。
年金制度を将来も維持できるのか。国民の間にそんな不安が根強いからにほかならない。
政府は、少子高齢化の進行に合わせて給付を抑える「マクロ経済スライド」を04年に導入した。もっとも物価動向など適用に条件があり、15年度に1回実施しただけだ。新年度からは、適用を見送った分を翌年度以降に繰り越し、後でまとめて抑制する仕組みを始める。
マクロ経済スライドも支給開始年齢の引き上げも、どちらも給付を抑える手段だ。ただ、前者がすでに年金を受給する高齢者にも痛みを求めるのに対し、後者はこれから年金をもらう世代だけがしわ寄せを受ける。
世代を超えて負担を分かち合うため、まずはマクロ経済スライドをきちんと機能するようにすることを考えるべきだろう。
同時に、給付抑制の影響を大きく受ける低所得世帯への目配りが欠かせない。暮らしが立ちゆかなくなることのないよう、福祉施策も含めた手立てを考えていくことも重要だ。
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