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 安倍内閣が、日本銀行の正副総裁の人事案を国会に示した。黒田東彦総裁は続投。副総裁2人は交代するが、大筋で現体制の継続といえる布陣だ。

 黒田氏は2013年の総裁就任直後に「年率2%のインフレ目標を2年程度で達成する」として、「異次元緩和」と呼ばれる大胆な金融政策を始めた。大規模な国債買い入れ、マイナス金利長期金利操作など、次々と新しい緩和策を打ってきた。

 この5年間、円高が修正され、企業収益は空前の水準に高まった。経済が緩やかに拡大する中で雇用も大きく改善した。どこまでが金融政策の効果かを厳密に検証するのは難しいが、景気の回復と安定は実績といえるだろう。

 だが、肝心のインフレ率は、マイナス圏こそ脱したものの、目標達成時期を6回も先送りした。現時点で19年度ごろとしているが、民間エコノミストの間では困難との見方が多い。

 日銀の基本的な任務である「物価の安定」で、2年で達成するとした目標を5年たっても実現できていない責任は重い。

 経済に不確実性はつきものとはいえ、次の5年でも同様の事態を繰り返す恐れはないのか、景気の悪化局面で打つ手はあるのか。疑問が出るのは当然だ。国会では3氏の所信の聞き取りが行われるが、黒田氏らに納得のいく説明を求めたい。

 問題はほかにもある。

 緩和策の実施で、日銀は450兆円もの国債を抱え込んでいる。利上げに転じる「出口」の局面で巨額の損失が出る可能性があり、将来の金融・財政政策に不透明感が増している。

 こうした問題についても、十分な説明が必要だ。緩和が深化・長期化するほど、ため込むひずみも増える。欧米でも試行錯誤が続き、姿勢のわずかな変化が市場に大きな動揺をもたらすこともあった。「実行」が将来のことであっても、説明の先送りは許されない。

 日銀の国債買い入れや、長期金利をゼロ%に誘導する政策は、財政規律の緩みにつながることも懸念されてきた。

 とくに「出口」の局面では、物価安定のために利上げを目指す日銀と、景気悪化や国債利払いの増加を恐れる政府との間で、利害が対立する可能性が高まる。そのときに、日銀は独立性を保てるのか。政府と「蜜月」を続けてきた黒田体制の真価が問われるだろう。

 マクロ経済運営の要である中央銀行の「次の5年」を担う資質があるのか。国会でただすべきことは多い。

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