クルマは耐久消費財として、日常生活の実用性を高めてくれたり、趣味や娯楽のために役立ってくれるが、使えば使うだけ摩耗するし、乗っていなくても経年劣化していく部分もある。
クルマが趣味という人は、メンテナンスを行なって愛車を好調に保つことも楽しみであることが多いが、一般のドライバーはできればクルマにかけるお金は最低限に抑えたいものだ。
昔は5、6年が買い替えのサイクルだったが、不景気やクルマの信頼性向上もあって、1台のクルマを長く乗り続ける人が増えている傾向にある。
さらにユーザー車検の普及、しかもユーザー代行車検で安く車検を取得する傾向が増えていることもあって、点検は行なってもメンテナンスをせずに車検だけ取得して乗り続けているユーザーも増えているように感じる。
そんなこともあって、街中を走るクルマの中で、変な音を放ちながら走っている個体を見かけることが珍しくなくなってきた。
それは人間でいえば健康を害していながら生活している状態、生活習慣病にかかってしまっているようなものだ。
それでも処置が早ければ、費用を抑えて修理することができる。そこで、異音別に通常考えられる原因を挙げ、放っておいたらどうなるか、ここで解説しよう。
文/高根英幸
写真/ベストカーWEB編集部 ソミック石川 Adobe Stock
■走行中、常に「キーッ」という高音
常にキーッと高音を響かせながら走っているのは、ほとんどがブレーキパッドが使用限界まで磨耗していて、金属板のウエアインジケーターがディスクローターに接触しているのが原因だ。
その時点ではブレーキパッドは完全に摩滅している訳ではないが、使用限界を迎えているので本来の制動力を発揮できていないし、安全のためにもすぐに交換する必要がある。
このまま走っているとブレーキパッドのライニングが完全に摩滅してなくなり、ライニングが張り付いていたバックプレートがディスクローターと直接接触してしまうことになる。
そうなると金属同士で接触することになり、摩擦係数が大きく落ちて、ブレーキの利きが大幅に落ちるだけでなく、ローター表面が削れてしまうので、早く整備工場に持ち込んだ方がいい。
■加速時にだけ「ギューッ」という音が鳴くのは?
信号待ちからのスタート時など、加速時にギューとかキューという音を響かせているクルマもよく見かける。
これは発電機やウォーターポンプ、エアコンのコンプレッサーなどの補機類を回しているベルトが滑っている状態だ。
原因としてはベルトの摩耗やテンショナーの不良、ウォーターポンプや発電機のベアリングが壊れかけて、フリクションが増えていたり、それ自体からキュルキュルと音が出ている場合もある。
足回り、駆動系、エンジン、ボディ……、異音や振動を発する原因は様々あり、同じような音でも、聞こえてくる方向や、どんな状態の時に音が発生しているかによって、その原因はある程度特定できる。
そのため、クルマから異音が聞こえてくるようになったと感じたら、まずはどういう状態の時に音が発生するのか判断することから始めよう。
■エンジン始動時や回転の上下に応じて「ガラガラ」と音が出る
エンジンを指導した途端にガラララッといい出すのは、バルブトレーン系のトラブルであることが多い。
一番多いのはバルブクリアランスを調整してくれる油圧ラッシュアジャスターの不良だ。カムシャフトとタペットの間が開いてしまって、カムがタペットを叩いてしまっているのだ。
バルブのリフト量が足りなくなっている状態のため、1気筒だけ出力が低くなり、燃費も悪化してしまう。
放っておけばタペットやカムの摩耗が進んでしてしまうことにもなる。車種やエンジンの種類によっても差はあるが、オイル管理が悪いと起こりやすいトラブルだ。
エンジンが温まってしまえば音が消えてしまう場合は、エンジンオイルが温まって粘度が下がることで流動性が上がり、ラッシュアジャスターにオイルが供給されるようになるから、ということもある。
オイルの粘度を下げたり、上げたりすることでラッシュアジャスター内部の状況が変わって、音が消えて問題が解消する場合もある。
■エンジンから「カンカン」という音が響くのは?
同じくエンジン始動からカンカンという音が響いてきたなら、それはおそらくクランクシャフトの打音だ。
クランクシャフトは、メタルベアリングによって支持されている。通常はメタルとクランクの間に油圧によって油膜が作られ、オイルのなかでフローティングしながらクランクシャフトは回転しているのだが、メタルベアリングが摩耗してクリアランスが広がってしまうと、オイルリークが増えて必要な油膜が保てなくなる。
そうなると、さらにメタルベアリングが摩耗してしまうという悪循環に陥り、前述の様にクランクが回転する度に打ち付けられて打音が発生してしまうのである。
30万kmくらい走行すれば、どんなエンジンでも起こり得る症状だが、実際にはもっと少ない走行距離で起こっていることが多い。
その原因は、やはりやはりオイル管理の悪さだろう。オイルが汚れたり劣化したまま、あるいはオイルが減っているのに交換も継ぎ足しもせずに乗り続けていると、潤滑不良を起こし、オイルポンプ自体も内部が摩耗し、油圧自体が低下してしまう。
■発進時やDレンジにシフトした時の「ゴンッ」という衝撃音
Dレンジに入れた時や、発進時にゴンッと衝撃と音が響くのは、エンジンマウントがヘタッているからかもしれない。
特に前後方向の位置決めを行なうトルクロッドと呼ばれる部品のブッシュがまずヘタリ、それによってエンジンや変速機をサブフレームにマウントしているエンジンマウントだけでは支え切れず、パワーユニット全体が大きく揺さぶられることになってしまうのだ。
異音の正体は、エンジンから駆動力が伝わる瞬間にパワーユニット全体が前後に大きく動いていることなのである。
クルマの各部に使われているゴム製のブッシュやマウント類は、クルマの剛性を調整し、振動や異音を抑えるために使っている緩衝材だ。
そのため劣化したら交換しないと振動や衝撃、異音を発生するようになり、そのまま放っておけばその部品の周囲の部品にストレスがかかり、クラックや変形などのトラブルを引き起こすのだ。
■走行中、段差などを乗り越えた衝撃が「ゴツッ」と響く!
段差などを乗り越えた時にガツンッと鋭い音が響いたり、ステアリングに衝撃が伝わってくるようなことがあれば、足回りの部品の劣化が考えられる。
ダンパーやスプリングといった骨格や筋肉部分ではなく、人間で言えば関節に相当する部分にガタが生じているのだ。
サスペンションアームのブッシュ、ストラットのアッパーマウント、アームとハブキャリアを結ぶボールジョイントなどである。
ブッシュは前述のエンジンマウント同様、ゴムでできていて走行中の衝撃を吸収してくれるが、劣化してやがて変形したり、ちぎれてしまうこともある。
こうなると衝撃を受け止められずに異音が発生したり、クルマの動きが不安定になる。アッパーマウントはダンパーの頂部をボディと接続している部品で、これも突き上げなどを緩和してくれるが、経年劣化で硬化してしまうと衝撃をそのままボディへと伝えてしまう。
特に最近は低扁平なタイヤと大径ホイールを組み合せて履くことが多く、路面状況によっては足回りの関節部分に大きな負担が掛かるようになった。
ボールジョイントは非常に強度の高い部品だが、それでも繰り返し強い衝撃を受けているとガタが生じてしまう。
そうなると交換しかないが、ボールジョイントだけ、ブッシュだけ交換できない車種が多く、サスペンションアームアッセンブリーでの交換となるから、結構な出費となる。
しかし、まだまだ乗り続けるつもりなら、いっそ足回りをリフレッシュして、同じような箇所の修理を一気に済ませた方が安上がりだ。
同じように足回りでボールジョイントを使っている操舵系のタイロッドエンドやスタビライザーのリンクなども、ガタが出てくると、異音を発生する。
スタビリンクは、左右どちらかのサスが動いた時にだけコキンッと音が出ることが多い。
タイロッドエンドはサスペンションが動いたり、舵角を与える時に音が出る、もしくはステアフィールが曖昧になることもある。
ともあれ通常のエンジン音など以外の異音が聞こえたら、それはクルマからの警告サイン。
安全に快適に、そのクルマ本来の乗り味を長く保とうと思ったら、早め早めのメンテナンスをお薦めする。
人間ドッグのように徹底的に点検してもらって、悪い部分を見つけ出して直してもらうのもいいだろう。