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 きょう開幕する平昌(ピョンチャン)冬季五輪にあわせ、北朝鮮が異例の人物の訪韓を伝えた。最高指導者・金正恩(キムジョンウン)氏の妹の金与正(キムヨジョン)氏だ。

 指導部内での序列や肩書では計り知れない存在で、正恩氏に直言できる唯一の人物とも言われる。開幕直前での衝撃的な通知は、五輪を機に韓国との雪解けを演出し、対外イメージの改善を狙っているのだろう。

 代表団のほかに、芸術団や、韓国側と合同で声を上げる応援団も続々と到着している。韓国国内の民族意識を高め、韓国と日米との間に風穴を開けたい。そんな思惑も透けて見える。

 その背景を踏まえつつ、南北間での高位の対話が実現することは評価したい。むしろ、不毛な緊張状態を改善する意義を悟らせ、正恩氏に直接メッセージを届ける好機ととらえたい。

 韓国文在寅(ムンジェイン)大統領は、与正氏や、対外的な国家元首にあたる金永南(キムヨンナム)氏と、あす会談する予定だ。実現すれば、まずは核兵器の保有を国際社会は決して認めないことを伝えるべきだ。

 そのうえで、非核化を選べば政治・経済の両面で見返りの利益がもたらされる道筋があることを確認すべきだろう。そうした趣旨は、05年の6者協議での共同声明にも盛られていた。

 いまや北朝鮮核武装を自認しており、当時と状況は同じではない。だが、金政権が何よりも体制維持の保証を米国から得たい実情は変わらない。今回の南北対話を、米朝交渉の実現につなげることが肝要だ。

 そのためにも文政権は、日米両政府との緊密な意思疎通をしたうえで、与正氏らとの会談に臨んでもらいたい。

 北朝鮮の芸術団を乗せた貨客船・万景峰(マンギョンボン)92号は、制裁の特例として入港が認められた。今後も北朝鮮は特例を重ね、制裁を骨抜きにしようとするだろう。

 しかしそんな北朝鮮特有の術策に、はまってはならない。きのうも平壌では軍事パレードが強行されたのは象徴的だ。

 五輪を舞台にした南北の人間同士の交流を歓迎するかたわら、文政権は代表団との会談を冷静な思慮をもって進め、繰り返されてきた北朝鮮の挑発的行動を長期的にやめさせるための交渉に徹してほしい。

 与正氏の訪韓となれば、日本政府も、何もせずに座視するわけにはいくまい。

 安倍政権は、日本人拉致問題を最重要課題としながらも、何ら具体的な成果に結びついていない。歓迎行事の際などでも接触を図り、核・ミサイル問題とともに、二国間の懸案を直接訴えるべきだ。

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