プロローグ:回復術士のラストフライト
一ヶ月お休みをいただきましたが、今日から九章! 連載再開です。お楽しみに!
飛行機が空を舞っていた。
乗っているのは、俺、フレイア、クレハ、セツナ、グレン、そして大事な荷物。
イヴはここにはいない。
魔王としての仕事があり、一足先に竜騎士たちと共に魔王領に戻っている。
俺はジオラル王国でやるべきことをやったあと、イヴを追いかけて魔王領に行くつもりだ。
愛しい女がいるからであり、やり残しの仕事を終らせるために。
「やっぱり、かなりまずいな」
機体にかたりガタが来ている。
そのため、フレイアに任せず俺が操縦している。
さきの戦いで大破し、修復は行っているのだが、材料である竜素材は手に入らず、無理やりつなぎ合わせただけであり、完全な修復はできていないのだ。
鉄などと違い、溶かして再成形とはいかない。
修復後も何度かだましだまし使っているのだが、折れた箇所を無理に補強したせいで他の箇所に負担が集まっており、フレイアが操縦しているときに別の箇所が逝った。
もう、ごまかしすら限界だ。
速度は落ち、耐久力もない、ちょっとでも無理したらばらばらになってしまう、そんな状態で飛んでいる。
「さすがはケアルガ様ですね。私、怖くて操縦できる気がしません。この前、ぼきってなったとき、もう駄目だって思っちゃいました」
「これを作ったのも修理してるのも俺だからな、どこがどれだけやばいか、どこまで無理できるかがわかるんだ。それでも、かなり危険で疲れるが」
「交代してあげたいのですが、ごめんなさい」
綱渡りのような操縦を要求される、フレイアに任せるほうが自分で操縦するより神経を使う。
ここは我慢して俺が操縦するしかない。
「出発前に言っていたわよね。これが最後のフライトだって。飛行機、けっこう気に入っていたから残念よ」
「心配するな、竜素材を使わない飛行機を作って見せるさ」
「ああ、いいですね。もう、飛行機なしの旅なんて考えられません」
「それには私も同意するわ。これから何度も魔王領とジオラル王国を往復するだろうし、徒歩の旅なんてぞっとするもの」
「片道に速くても二週間はかかるしな。……イヴは竜の死体を譲ってくれるとは言っているが、いつまでも甘えているわけにはいかない。人の力だけで作れる飛行機はいる」
安定供給と量産は課題だった。
ちょうどいい機会とも言える。
「でも、できるんですか? 竜の素材を使わないで飛行機なんて」
「ようは、竜素材に匹敵するほど強度と軽さを両立できる素材があればいいんだ。なんとかできるよ」
脳内にある、賢者の記憶に該当するものがあった。
若干性能は落ちるし、材料の調達が面倒なのだが可能だ。
ジオラル王国でやるべきことが終われば新たな飛行機を作る。
すぐにでも魔王領に向かいたいところだが、壊れかけの飛行機を使ったり陸路を行くよりも結果的に安全かつ速い。
「さすがです! 新しい飛行機も楽しみです。それはそうと、だいぶ暗くなってきましたね。あとどれぐらいで着きそうですか?」
目的地はジオラル王国内にある、新王都だ。
旧王都はブレットの軍勢によって壊滅している。
精鋭たちをブレット討伐に派遣し、主力を陽動として吐き出していた王都に抵抗するすべはなかった。
だから、王都での戦いは時間稼ぎい終始し、その間に指揮系統を維持できる予備施設へとエレンを始めとした主要人物は避難した。
そこを目指ている。
明朝に出発し、深夜まで飛ぶことで行きでは二日かかった道のりを一日で行く予定だ。
「深夜にはなんとかな」
「あの、夜間飛行なんてして大丈夫なんですか?」
「忘れたか、俺の瞳を」
俺の瞳が翡翠色に輝く。
「【翡翠眼】……たしかにそれなら夜だって問題ないです。でも、それって長時間の使用は結構疲れるはずじゃ」
「まあな。目的地に着くころにはぼろぼろになる。戦いが控えているなら、こんな無茶はせず、一度着陸して休む。どっちみち、今回はそれは選べないけどな。この飛行機で着陸したら、次に飛べるかも怪しい。一日で行くしかない」
フレイアとクレハが動揺して息を呑む。
「ねえ、まずいとは聞いていたのだけど、そこまでまずかったのね」
「ああ、そこまでまずい。だから事前に言っただろ。最後のフライトだって」
愛着があるこいつと最後だと言ったのは、伊達や酔狂じゃない。
「なら、迎えが来るまで待てば良かったのではないでしょうか?」
「そんなことしていたら、よその国からのお客様が先に着くからな。あのクソ野郎の身柄を渡すように言われたら面倒だ」
すでに世界各地にブレット討伐の報は届いている。
今回の戦いはあまりにも規模が大きく、戦後処理で主導権を取るために、ブレットを手に入れたいと思っている国が多い。
道理を考えれば、ブレット討伐において圧倒的な戦果を残したジオラル王国が手動を取るべきであり、それは誰もがわかっている。
そして、わかっていてなお自国の利益のために道理を捻じ曲げるのが国なのだ。
多少強引な手を使っても、今回の戦犯を『保護』しようとする。
「ふふふっ、ケアルガ様ったら照れ隠ししちゃって」
「あら、なにか知っているのかしら?」
「昨日届いたエレンちゃんの報告書を見て予定を早めたんです。いつもどおり、要点がしっかり求められていた資料だったんですけど、最後に会いたいって書いて消した跡が。それを見て、ケアルガ様の顔色が変わったんですよ」
「……それがないとは言わない」
一刻も速く帰還するのは戦略上必要なことだ。
だが、同時に今回の功労者をねぎらってやりたいとも思っている。
この話は少々照れくさい、話題を変えよう。
「セツナ、グレン、ちゃんと見張っているか?」
「んっ、ばっちり。怪しいことをしようとしたら、処分する」
「ご主人様、何度も言っているの。こいつからはもうかけらほどもばっちいのはないの。グレンが見張る必要はないの」
後部席にいるのはセツナとブレット、それに子狐モードのグレン。
もっともブレットは特製の麻痺毒を飲ませ、両手両足を砕き、腱を切った上で縛り、猿ぐつわを噛ませ、目隠し、拘束具を着せている。
さらには、フレイアの手で全身に魔術式を彫られている。
ジオラル王国に伝わる拷問術であり、拘束術だ。
いくら魔力を集めても肌に刻まれた魔術式に魔力が流れ、あたりを無意味に照らす魔術へと変換される【魔術士殺し】
そして、万が一黒い力の残滓があれば、残滓程度なら神獣グレンがかき消す。
「あの、そこまでやっていれば何もできないと思いますよ」
「ブレットじゃなければな。こいつなら、この状況からでも何かできるかもしれない」
薬で動けず、拘束されており、拘束が解かれたとしても動けないよう骨は砕かれ、腱は切られ、魔術すら封じられた。
理論上、何一つできることはない。
それでもこいつならと考える。
「……用心しすぎに見えるけど、ケアルガの言う通りだとも思う。ここまで私たちを苦しめて、たった一人で世界を滅ぼしかけた人だもの」
「こいつの恐ろしいところは、その精神力だよ。どんな状況だろうが諦めず、正解を選び続けることだ。今日まであれだけの拷問をしてなお、運送用の措置をしたとき笑っていたんだぞ」
共に戦った精鋭たちの中にも、家族や友、恋人を黒い化物に奪われ、ブレットを恨んでいるものは非常に多い上、ありとあらゆる情報を引き出すために拷問が必要という建前があった。
だから、俺が復讐を行う前に、ジオラル王国の精鋭たちに好きにさせた。
今回連れてきたのは、軍じゃなく、国内の特級戦力だ。
ゆえに、拷問のプロフェッショナルもいる。
そして、ジオラル王国はその国柄から、拷問を行う機会は非常に多く、拷問のプロの練度、技術、残忍さは世界一。
それだけの技術を持ったプロが、憎しみを込めて行う拷問はこの世の地獄だ。ある意味、俺がやるより
見学させてもらったが感心したものだ。一時間もあれば、どんな高潔な騎士もプライドを捨て、命乞いをすると確信した。
そんな拷問を数日間受け続け、それでもなおブレットは壊れていない。
今の所、やつは何も動いていない。
だからこそ、逆に怪しいと思っている。
向こうへついて、俺が用意した趣向で復讐さえ終えれば殺す。
死体は、この世界の敵として公開し辱めてやろう。
……欲を言えば、生きたまま辱めてやりたいのだが、それはあまりにも危険すぎる。
そして、飛行機は空を飛び続ける。
太陽が落ちた。
今日は曇りで、月明かり一つない空、【翡翠眼】がなければただの自殺行為だろうな。
そんな中、慎重に飛び続け、いよいよ目的地が見えた。
「さあ、そろそろ高度を下げる。全員、祈っておけよ」
「えっと、何をでしょう?」
「決まっているわ。着地の衝撃で飛行機がばらばらにならないようによ」
「んっ、ばらばらになってもなんとかする」
「ご主人様、さっさと上着を緩めるの! そっち行くの!」
この中で一番身体能力が低い、フレイアから悲鳴が聞こえ、必死な顔をした子狐がするりと俺の上着の中に潜り込み、顔だけ出す。そこが一番安全んだと思っているのだろう。
苦笑し、機首を落とす。
ゆっくりと高度を下げる。
いつもの調子でやれば翼が折れる。
風のクッションで衝撃を殺しつつ、滑らせるようにして胴体着陸。
風のクッションを前方に展開することで失速させていく。
殺せなかった衝撃が機体を揺らし、左翼が折れ、胴体にヒビが入った。
その瞬間、感覚でわかった。
ああ、こいつはもう二度と飛べない。
完全にスピードが止まる。
「なっ、なんとか持ちました」
「ぎりぎりだったわね」
「ちょっと怖かった」
「やっぱり飛行機は嫌いなの!」
それぞれに完走を言いながら飛行機を降りる。
クレハがブレットを抱えて、城を目指す。
俺は一人残り、飛行機の機首を撫でる。
「お疲れ様、おまえがいなければ、間に合わなかった。ありがとな」
先の戦争は飛行機があったからこそ、無茶な作戦ができた。
こいつも今や立派な相棒だ。
最後まで飛び続けたこいつに感謝し、こいつと飛んだ経験を新型に活かす。そうすることで、こいつはこれから作るすべての飛行機の中で生き続けるんだ。
「ケアルガ様、どうかなさったんですか?」
「いや、なんでもない。そっちに行く」
久しぶりにエレンの顔を見る。
元気でやっているといいんだが、きっと仕事に忙殺されているだろうな。
俺たちの仕事は戦うことで、ブレットを倒したときに終わったが、エレンの仕事はむしろ戦いの後のほうが多いのだから。
せめて、少しでも気持ちが楽になるよう、俺が癒やしてやろう。
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