話題のキンコン西野氏による近大卒業式「時計」スピーチが孕む危うさ。問われる近大の良識
2019.04.27
藤倉善郎
話題になったキンコン西野の近大でのスピーチ
近畿大学の今年の卒業式に招かれた、漫才コンビ「キングコング」の西野亮廣氏によるスピーチが話題になっている。近畿大学がYouTube上の公式チャンネルに「キンコン西野 伝説のスピーチ 」として投稿。約15分のうち、特に「時計」について語る約1分間の映像が切り抜かれてTwitterでも拡散されている。「感動した」という声も多いが、一方で批判も多い。このスピーチの何がダメなのか。 まずは、問題の「時計」にかんする西野氏のスピーチの書き起こし。 ”時計ってすごく面白くて、長針と短針があって、あいつらは1時間に1回すれ違うんですよ。重なるんですよ。1時5分で重なって、2時10分くらいで重なって、3時15分くらいで重なって、長身がもう1回追いついたかと思ったらまた4時何分かで重なる。毎時1回は重なるようにできているんですけど、11時台だけは重ならないの。11時台だけは短針が先に逃げ切っちゃって、2つの針って重ならないんです。次に2つの針が重なるのは12時。鐘が鳴るときですね。 伝えたいメッセージは何かと言うと、鐘が鳴る前は報われない時間があるということ。これはぼくにもあったし、今後皆さんにもかならずある。人生における11時台というのは、必ずある。でも大丈夫。時計の針っていうのは必ず重なる。だから挑戦して下さい。皆さんの挑戦がうまくいくことを願っています。頑張ってください。ぼくは、ちょっと先で待ってます”(前掲のYouTube動画より)
「感動した」という声の一方で……
Twitter上では「感動した」という声がある一方、批判的な声はおおむね、以下のような趣旨のものが目立つ。 「時計と人生は違う」 「このスピーチに感動するような人はマルチ商法に騙されるのではないか」 筆者の意見も、これらの批判と同じだ。 長針と短針が重なることがなぜ「報われる」ことに当たるのかが、全くわからない。放っておいても一定の間隔で2つの針が重なる時計を、定期的に「報われる」とは限らない人生に例える意味もわからない。現実とたとえ話の内容が全く対応していない内容だ。 時計の針は、しょせんは歯車によって同じ場所をぐるぐる回らされる存在に過ぎない。時計を人生にたとえるなら、「歯車以下の存在であるお前らは、長針と短針が重なっただけの何の意味もない機会的な出来事を見て報われた気分になるくらいしかできなんだよ」という身も蓋もない話だってできる。どうとでも言えるということは、つまり何も言っていないということだ。 このスピーチのせいで、筆者の知り合いの宗教社会学者が〈時計の長針において「報われる」とは何か〉について24時間も考え込んでしまったという。長針と短針が重なると「報われる」なら、この研究者は考え込んでいる間に22回も「報われた」はずなのだが。 スピーチの映像を見て分かる通り、芸人ならではの流暢で明確なしゃべり口調で、雰囲気的な説得力はある。しかし実際に語られている内容は意味不明。「いい話」風に語ることで、雰囲気を成立させているだけのことだ。 物事を、現実に対応しないたとえ話によって抽象化して、「必ず報われる」という根拠のない話に説得力を与える。これがまさに「マルチ商法」の動機づけや成功哲学と同じなのだ。
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