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 日本を訪れた外国人が17年、前年から2割近く増えて2800万人を超えた。

 日本の文化や生活に触れてもらうことは、お互いに理解を深める契機になる。旅行で使われたお金が4兆円に達した経済効果を含め、歓迎すべきことだ。

 だが、一部の人気観光地では交通機関の混雑などが深刻になり、地元住民から苦情が出ている。欧州の一部の観光名所でも生じてきた問題で、「観光公害」という残念な言葉を日本でも耳にするようになった。

 政府は「20年に4千万人」という訪日外国人の目標を掲げるが、住民の理解がなければ達成はおぼつかない。鎌倉市が5月の連休中、市内を走る電車で沿線住民を優先して駅構内に入れる実験を行うなど対策がとられ始めたが、訪日客と住民がともに気分よく過ごせるよう、知恵を絞ってほしい。

 鎌倉と同じ悩みを抱える京都市は交通機関の料金を変える。

 3月から市バスの1日乗車券を100円値上げして600円にする一方、地下鉄・バスの1日券は300円下げて900円にする。渋滞の影響がない地下鉄に誘導し、バスの混雑を和らげるのが狙いだ。

 観光シーズンの混雑は、以前から京都市の課題だった。料金改定なら費用もかからない。国内観光客にも使いやすく、歓迎されるのではないか。

 自治体や地域による海外への売り込みを後押しし、観光客を分散させることも急務だ。

 鳥取、島根両県は地元の経済団体と2年前に「山陰インバウンド機構」を立ち上げた。県域をこえた観光周遊ルートを整え、動画投稿サイトも使って多くの言語で世界に発信したところ、旅行予約サービスで両県の人気が上昇しているという。

 伝統文化や自然の魅力をPRしようと、複数の自治体が手を組む動きは広がっている。JRなどの鉄道やバス会社、旅行業界は、新たな商品の開発などで協力してほしい。

 東京~大阪の「ゴールデンルート」に象徴される団体旅行にあき足らず、SNSを頼りに少人数で動く外国人が目立ってきた。一般住宅の空き部屋に泊まる民泊も広がっている。「観光公害」には無縁の地方でも、旅行者と住民との様々な摩擦に直面することが増えそうだ。

 スーツケースを手に迷う姿を見かければ、不親切な点があるサインと受け止める。駅前などでの行き先案内だけでなく、街角や商店街でのマナーやルールについても丁寧に表示する。そんな地道な取り組みが大切だ。

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