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 核兵器のない世界を願う国際世論に冷水を浴びせる内容だ。核軍縮の歴史にも逆行し、世界の安全を脅かしかねない。

 米トランプ政権が「核戦略見直し(NPR)」を発表した。今後5~10年の米国の核政策の指針となる報告書である。

 前回8年前の報告書から方向性が一変した。核の役割と数を減らしていくというオバマ前政権時の決意は姿を消した。反対に、核の役割と能力を拡大する姿勢を鮮明に打ちだした。

 ロシアや中国、北朝鮮の脅威を強調し、前政権時にくらべて「状況は急激に悪化した」と指摘する。しかし、他を圧する核戦力によってのみ自国の安全が確保できるという発想は、時代錯誤も甚だしい。

 米国と旧ソ連が不毛な軍拡競争に陥った冷戦時代は過去のものだ。国際テロ組織の活動やサイバー攻撃を含め、核の脅威はより複雑で多様化している。

 大量の核兵器をいつでも使える形で持ち続けることは、誤認などによる核戦争や、核物質の流出などの危険を広げ、米国を含む世界を危険にさらす。

 だからこそ07年、キッシンジャー元国務長官やペリー元国防長官ら超党派の4人が、核なき世界への提言をし、オバマ大統領の姿勢につながった。トランプ政権は、そうした歴史的な議論の積み重ねを学ぶべきだ。

 報告書でとくに問題なのは、潜水艦発射型の弾道ミサイルや巡航ミサイルに載せるために、爆発力を弱めた核弾頭を開発する方針を掲げた点だ。

 使いやすい核を持てば相手国がおびえて、抑止力が高まるという考え方は、理性を失ったかのようだ。核と通常兵器との区別がつきにくくなれば、偶発的な核戦争のおそれも高まる。

 相手からの攻撃が核によらない場合でも、米国が核を使うことがありえるとも明記した。大規模なサイバー攻撃などが念頭にあるようだが、安易に核をふりかざす危険な発想だ。

 米国も加盟している核不拡散条約NPT)は、核保有国に核軍縮の義務を課している。核大国である米国の責任は、とりわけ重い。核政策でも「米国第一」主義に走るトランプ政権は、核の拡散を防ぐ国際体制を損ねる点でも無責任だ。

 トランプ氏は先月の議会演説で「ひょっとしたらいずれ、世界の国々が一緒に核を廃絶する魔法のような瞬間が訪れるかもしれない」と冷笑的に語った。

 核兵器が招く破滅への想像力を欠き、武力で自国の優越心を満たそうとする大統領の姿勢こそが、最大の懸念要因である。

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