「トクホって本当に効きますか」「コラーゲンで肌はプルプルになりますか」……。近ごろ、病院の研修会や市民向けの講座で「健康食品」をテーマにお話しする機会をいただくことが増えました。今回は、講演後によく受ける質問や豆知識を紹介したいと思います。
▼トクホ(特定保健用食品)、機能性表示食品はランダム化比較試験で効果が実証されている
▼しかし、その効果は、ごくわずかである
▼トクホや機能性表示食品でうたえる効き目は、病気の人を対象にしていない
病院などの医療現場で「健康食品」が話題に挙がることは、これまでほとんどありませんでした。しかし、最近、病院で開催される職員向けの研修会でも、健康食品の安全性や有効性の考え方、患者から相談を受けたときの対応などについて解説してほしいとの依頼を受けることが多くなりました。
また、先日は大阪府が主催する市民向けのシンポジウムでも健康食品がとりあげられ、200人を超える聴衆が集まり、関心の高さがうかがわれました。質疑応答でも、利用するにあたっての注意点はないのかといったさまざまな疑問や問題意識など多くの意見をちょうだいします。
今回はその中から、読者の皆さんにもぜひ知ってもらいたいことを紹介したいと思います。
まず、よく聞かれるのが「『トクホ』って本当に効くの」という質問です。効くのか効かないのかで答えるのであれば、「効く」ということになります。
日本には、臨床試験などで機能性(効き目)が実証されていれば、表示ができる制度があります。
質問にあった「トクホ(特定保健用食品)」のほか、栄養機能食品、機能性表示食品の三つを総称した「保健機能食品」は効き目を表示することができます。
具体的には、「体脂肪の増加を抑える」「ひざ関節の曲げ伸ばしを助ける」「目のピント調節を助ける」など、さまざまな表示が可能となっています。
トクホと機能性表示食品では、効き目を表示するための裏付けが必要です。原則、対照群を作って調べるため信頼性が高い「ランダム化比較試験」によって有効性が立証されていることが必要です。
なお、保健機能食品以外の食品では効き目を表示することは許されていません。
たとえカプセルや錠剤の形をしていても、保健機能食品ではない場合(=一般食品に該当する場合)、効き目を表示することはできないと厳密に法律で決められています。
ですから、もし、一般食品なのに効き目を表示していたり、それをイメージさせたりしている場合、「法律違反をしている商品だ」という認識を持つぐらいの知恵が、消費者には必要になってきます。
トクホや機能性表示食品は、ランダム化比較試験で有効性が立証されており、「効く」ことは間違いありません。これは、医薬品と同じ方法で確かめられているので間違いありません。
そこでよく出てくるのが「ものすごく効果のある健康食品はありますか?」という質問です。
トクホなどが効くことは間違いないのですが、その「効く」という言葉を理解する上での注意点が二つあります。
(1)保健機能食品で表示できる効き目は、病気の人を対象にしていない
(2)保健機能食品の効き目は小さい
例えば、「中性脂肪が気になる方へ」と表示されているトクホや機能性表示食品の臨床試験の結果は次のようになります。
機能性関与成分が含まれていない偽の食品である「プラセボ」を摂取する対照群に比べて、トクホや機能性表示食品を摂取する群はグラフの線が下にあります。
具体的には、中性脂肪の値がプラセボと比べて「10~15mg/dl」下がるという結果です。しかし、この値は医学的にみたら、ごく小さな効果です。
グラフの内容を、医療情報を整理するときに使われる手法「PICO(ピコ)」で整理すると、次のようになります。
同じ効果を期待する場合には、病気ではないけれど中性脂肪値が「少し高め」の人が、臨床試験と同じ量を毎日摂取しなければならない点にも注意が必要です。
もし、「ものすごく効果のある健康食品」が存在したとしたら、それは食品ではなく、もはや医薬品という話になってきてしまいます。
消費者が健康食品と向き合う際には、「病気の治療を目的としていない」「薬の代わりになるものではない」と過大な期待をしないことが重要になってきます。
そして、「コラーゲンを飲むと肌がプルプルになるのか」という質問もよくあります。
消費者庁が運営している「機能性表示食品の届出情報検索(※1)」を調べてみると、二つの製品がヒットしました。
この二つの製品では、「肌の水分量を保持し、肌の潤いに役立つ機能があることが報告されています」「肌の水分を逃しにくくし、潤いを守るのを助ける機能があります」と表示されています。
人を対象とした臨床試験で効き目が実証されていますので、質問の「コラーゲンを飲むと本当に肌がプルプルになるのか?」の回答は「プルプルになる」ということになります。
ですから、クイズの答えは「○」になります。
もちろん、どれくらいを「プルプル」と感じるかは個人差がありますので、満足の行く「プルプル」を実感できない人がいるかもしれません。
また、臨床試験の結果は、あくまで対象者の平均値ですから、効果の得られた人と得られなかった人がいることも知っておく必要があります。
さて、コラーゲンは皮膚の材料です。それで肌がプルプルになるなら、「頭髪の薄い人が髪の毛を食べれば毛が生えるのか?」といった疑問を感じる人がいるかもしれません。
なぜコラーゲンで「プルプル」になるのでしょうか? そのメカニズムの仮説をご紹介しましょう。
コラーゲンはアミノ酸が結合してできたたんぱく質です。従来の仮説(①)では、摂取したコラーゲンはアミノ酸に分解されて腸から吸収されたあと、再び皮膚でコラーゲンとして合成されて皮膚の状態を改善しているイメージです。
しかし、この仮説、医学界では否定的な見方がされています。
最大の疑問点は、「経口摂取したコラーゲンが消化管でアミノ酸までバラバラに分解された後、そのアミノ酸が、どのようにして皮膚のコラーゲンに再生されるのか?」です。
確かに、この点は、私の知る限り、ヒトの体で証明されたという研究結果はありません。
ですが、最近の研究では、次の新たな仮説(②)を裏付けるようなデータが相次いで報告されてきています(※2~4)。
ちなみに図に登場する「ペプチド」とは、アミノ酸が数個から10個程度結合した状態のものです。分子の大きい順に整理すると、
・コラーゲン(=たんぱく質:アミノ酸が数千~数十万結合したもの)
・ペプチド(アミノ酸が数個から10個程度結合したもの)
・アミノ酸(たんぱく質を構成している最小単位)
となります。「線維芽細胞」はコラーゲンを産生する細胞です。
この新たな仮説では、コラーゲンを摂取すると、「ペプチド」まで分解されて腸から吸収されたあと、皮膚にある線維芽細胞を刺激することでコラーゲンが産生されて皮膚の状態が改善する。つまり摂取したコラーゲンの分解物「ペプチド」が線維芽細胞に信号を伝える刺激係を担っているというメカニズムです。
新たな仮説は、従来の仮説の「材料を補充すれば、その材料が勝手に組み合わさって完成品が出来上がる」という単純な発想とは異なり、少し複雑な手順を踏むことになります。
正直に言えば、私自身が医学部で学んできた知識では思いつかない発想です。これらの情報を最初に提供してくださったのは、農学部の先生でした。
こういった経験を踏まえ、「健康食品なんか効かない」と頭ごなしに否定する姿勢は戒めなければならないと、私自身は忘れないようにしています。
【参考文献】
1)機能性表示食品の届出情報検索:https://www.fld.caa.go.jp/caaks/cssc01/
2)ヒトがコラーゲンを摂取すると、そのコラーゲン由来の特定のペプチドが血中で複数確認される
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/16076145
3)特定のペプチド(Prolyl-hydroxyproline)がマウスの線維芽細胞の増殖を促進する
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/19128041
4)特定のペプチド(Proline-hydroxyproline)がヒトの線維芽細胞の増殖を促進し、ヒアルロン酸の合成を増加させる
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/20507402
<アピタル:これって効きますか?・健康食品、どう向き合う?>http://www.asahi.com/apital/healthguide/kiku(アピタル・大野智)
島根大学医学部附属病院臨床研究センター・教授。1971年浜松市生まれ。98年島根医科大学(現・島根大学医学部)卒。同大学第二外科(消化器外科)入局。補完代替医療や健康食品に詳しく、厚生労働省「『統合医療』情報発信サイト」の作成に取り組むほか、内閣府消費者委員会専門委員(特定保健用食品の審査)も務める。
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