提督の憂鬱 作:sognathus
<< 前の話 次の話 >>
彼女と他の艦娘も少し出てくるのでメイン扱いには少し遠い感じですが。
元帥は司令室で執務をしていました。
「閣下」
「ん?」
「お茶です」
「おお、悪いな」ズズ
元帥は紀伊が差し出したお茶を飲んだ。
温度が若干温めで暫く飲み物を飲んでなくて微妙に喉が渇いていた元帥にはちょうど良かった。
「如何です」
「ああ、悪くない」
「そうですか」
「ああ……」カリカリ
元帥の言葉を素っ気ない態度で紀伊は受け取った。
対する元帥も特に気にもしない様子で再び書類へと目を通し始めた。
「……」
「紀伊」
「はい」
「確認を頼む」ペラ
「承知いたしました」
元帥から書類を渡され訂正すべき点がないか確認する紀伊。
その顔は無表情ながら怜悧で、ただ黙って書類を確認しているだけだというのに凛とした雰囲気常にあった。
「……」
「どうだ?」
「はい。問題はないかと」
「そうか。ではそれを届けておいてくれ。私は総帥府に報告に行ってくる」
「了解です。護衛は誰を付けましょう?」
「天龍を。彼女一人で十分だろう」
「……」
紀伊は元帥の言葉を聞いて黙って彼を見つめた。
異議さえ唱えなかったがその目は明らかに反対していた。
「ふむ。『十分』では充分ではない、か?」
「はい」
「では、矢矧と妙高も付けてくれ。これでいいだろう?」
「はい。万全かと思います」
今度は紀伊も太鼓判を押した。
その構成なら大丈夫だろうと判断できる人員と数だった。
「うむ。では手配を」
「畏まりました」
「あ、それと悪いがもう一つ。雑用を頼めるか?」
「はい。何でしょう」
元帥は少し申し訳なさそうな顔をして紀伊にある物を手渡した。
「これを……使えなくなったのでな。悪いが処分しておいてくれ」
「……司令ー?」
「ん? どうしたの陽炎」
第4司令部の女司令官、少将の膝に乗った陽炎が足をパタパタさせながら、直ぐ上にある彼女の顔に尋ねた。
「元帥と紀伊さんってさぁ、なんかいつも淡々としていますよねー」
「元帥と紀伊? ああ……」
「わたしたちや他の司令官と比べてなーんか専属艦にしてはあまり親しさを感じないというか……」
「プロ意識ってやつじゃない? 本来の上司と部下の関係はあんなものじゃないかしらね」
「っ! わたしは司令とはこのままがいです!」
何気ない一言だったが陽炎はその言葉に何か危機感を感じたのだろう。
ハッとした表情で自分はまだ少将の膝の上にいたいと訴えた。
「こら、膝の上であまり動かないの。分かってるから」ナデナデ
「えへへ♪」
(陽炎、なーんか武蔵がいない時によく甘えるようになっちゃったわね)
コンコン
ノック音が聞こえた。
「……」
「あ、不知火」
扉を閉め忘れたのだろう、振り向くといつの間にか扉の前に不知火がいつもと変わらない無表情で立っていた。
トコトコ
「司令、定時報告書です」
「ありがとう。ご苦労様」
「……」
不知火は報告書を少将に渡した後も、何故かそこを去らずその場に立ったまま何か言いたげな様子で少将と陽炎を見つめていた。
そんな不知火の様子に気付いた少将が訊いた。
「不知火? どうしたの?」
少将に声を掛けられるまで無意識の内に見つめていたのだろう。
彼女の声を聞くとピクリと少しだけ肩を震わせて不知火は訊いた。
「いえ、差支えなければお教え頂きたいのですが……」
「何?」
「先程から陽炎は司令の上で何をやっているのですか?」
「司令の膝の上でご飯食べてるのよ。見ての通りでしょ?」
少将の代わりに陽炎が答えた。
その顔に邪気はなく、あくまで質問に答えただけといった様子だ。
それに対して不知火は小刻みに震えながら、何かを我慢する様にさらに質問をした。
「……何故、部下である艦娘があろうことか上司である司令の膝の上なんかで食事を摂っているのかしら……」
「それだけわたしと司令が仲良しって事よ」
その質問に対しても陽炎はあっさりとそう答えた。
「仲良し……」
陽炎はその言葉に何故か俯いてしまった。
「不知火?」
陽炎はその様子に流石に心配になって今度は気遣うような声調で不知火に声を掛ける。
「司令」
ポツリと不知火は言った。
「うん?」
「私と司令は仲が良く……ありませんか?」
「えっ」
突然の質問に意外な内容に陽炎は驚きの声をあげたが、少将は先程からずっと二人のやりとりを見ていて何かを察したのか落ち着いた態度でこう答えた。
「いえ、決してそんな事はないと思うけど」
「あの、それではその……」
不知火は提督の言葉に明らかな喜色の色を浮かべながら何やら話し難そうにモジモジし始めた。
「……陽炎」
「なんですか?」
「ちょっといいかしら」
少将はそんな不知火の様子を眺めながら陽炎にある提案をした。
「えへへー、司令の膝枕ー♪」
「司令……司令……ん……♪」スリスリ
少将はソファーに座りながら左右か陽炎と不知火に膝枕をしていた。
更におまけに彼女達の頭を撫でながら少将は言った。
「はいはい、お昼の間だけだからね。武蔵が戻ってくる前にはちゃんと戻るのよ?」ナデナデ
「はーい♪」 「分かりました……」
(ほんと、武蔵が演習の指揮に出ててよかったわ)
武蔵がダダをこねる姿を想像しながら少将はしみじみととそう思った。
――ところ変わって本部のとある廊下。
「あ、紀伊姉!」
「紀伊お姉さん」
一人食堂へと歩いていた紀伊に後ろから聞き覚えのある声が掛けられた。
「駿河、近江……」
「紀伊姉もこれから食事?」
「ええ」
「では、ご一緒しても?」
「ええ。構わないわ」
「よしっ」
「やった♪」
二人は揃って嬉しそうな顔をしたが、その時駿河が紀伊が持っているある物に気付いた。
「ん?」
「どうしたの? 駿河」
「紀伊姉そのペンどうしたの?」
「……ちょっとね」
駿河に訊かれても明確な答えをしなかった紀伊は、彼女が指摘したペンを大事そうに両手で握りしめ直した。
「あら」(随分使い込まれた古いペンね)
「きったないペンだね。捨てるの?」
「……」
駿河の何気ない一言で紀伊の空気が一変した。
その一瞬の変化で駿河より心の機微に聡い近江は全てを悟り、心の中で駿河を止めた。
(あ、もしかして……ダメ! 駿河!)
「え?」
駿河も紀伊の変化に遅れて気付き始めたがもう遅かった。
「駿河、あなたは今何て言ったのかしら?」ゴゴゴゴ
いつもと変わらない声だった。
だがその声は明らかに威圧が込められており、聞くだけで駿河は背筋が冷たくなり、冷汗が流れた。
「あ……えっと……」ガタガタ
あまりの威圧感に恐怖で言葉が出ない駿河。
そんな彼女に近江は必死の形相で助け舟を出した。
「と、とても古くて時代を感じるペンですね姉さん! ね、ねえ駿河!」
「あ……う、うん! そう! あたしもそう思ったんだ! だ、だからその……言い方は悪かったけど……そういう意味で……」
近江の助け舟に駿河はすかさず乗り、何とか釈明をしようとした。
そんな二人の態度に紀伊も機嫌を直したのか、先程まで醸し出していた威圧感をあっさりと引っ込めた。
「……そう。ならいいの」
「……っ、ふぅ……」
肩で息をする駿河。
ダメだ、姉だけは絶対に怒らせてはいけない。
そう心から駿河は痛感した。
そんな恐ろしい姉に近江は純粋な興味からある質問をした。
「姉さん」
「ん?」
「そのペン……閣下から?」
「……想像に任せるわ」
紀伊は僅かに紅に染まった顔でそっぽを向いてそう言った。
紀伊型戦艦実装あるといいですが。
まぁ、それは夢の又夢くらいに思っています。
だからこそこうやって今はやりたいようにやれているわけですしねw