提督の憂鬱   作:sognathus
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Z1とZ3とビスマルクは部屋割りの構成では珍しく、駆逐艦と戦艦が同居していました。
3人とも同じ出身なので気心は知れな仲なのですが、それが普段から一緒ともなるとやはり艦種の違いからくるちょっとした衝突も起こったります。
そんな偶に起こるちょっとした女同士の言い争いのお話。


第31話 「張り合い」

「ねぇレイスー」

 

「何?」

 

「暇ねー」

 

「暇のはいいから私の上からどいてくれないかしらマリア。重いのよ」

 

ビスマルクに上から抱き付かれているZ3が迷惑そうな顔で言った。

 

「嫌よ。抱き心地がいいんだもん」

 

「あなたね……」

 

こいつは自分の事を抱き枕か何かと思っているのではないだろうか。

だとしたら寝具扱いなど絶対にお断りである。

三人の中でも特に大人びてプライドの高いZ3は据わった目でビスマルクを睨んだ。

 

(あれ多分重いのが嫌じゃなくてやっぱりマリアの胸だよね。いいなぁ僕もあれくらいまでとは言わないけど……)

 

Z1はベッドに寝転びながら二人のそんな様子を自分の願望も混えて観察していた。

 

「何? レイスも抱かれたいの?」

 

Z1の視線に気づいたビスマルクが彼女の方を向いて言った。

突然自分がターゲットにされZ1は狼狽える。

 

「えっ?」

 

「いいじゃないレイス。マリアとても暖かいわよ。抱いてもらったら?」

 

これ幸いとばかりにZ3はビスマルクをZ1に押し付ける事によって自身の、現在の状況からの脱出作戦を決行した。

 

「じぇ、ジェーン!?」

 

「もうそうならそうと早く言ってくれればいいのに!」ギュー

 

上手く誘導されたビスマルクはZ1が寝ているベッドへと這い上がり、まだ動揺して動けないでいる彼女を今度はZ3の時とは違い正面から抱き締めた。

その様子はまるで子供が可愛いヌイグルミを抱きしめている様であった。

 

「わ、わぷぷ……」ムニュ (や、柔らかい……!)

 

「あー、レイスもなかなか良いわねー♪」スリスリ

 

「……冷房、切ったらどうなるのかしらね」

 

相棒を犠牲にしてしまったのが事に早くも罪悪感を感じてきたのだろう。

Z3がポツリとそんな事を言った。

 

「え?」

 

「むぐぐ?」

 

その言葉にビスマルクもギョッとした顔をし、抱き締められてまともに話せない状態のZ1も彼女の胸の中で驚きの声をあげて自分のこれから予測される危機に焦った。

 

(あ、それは割とやめて欲しいかも。この状態でそんな事されたら僕、暑さと息苦しさできっと気絶しちゃう)

 

 

「全く納得いかないわ。海外艦だからって駆逐艦と戦艦が同じ部屋だなんて」

 

ビスマルクにいいように弄られて多少ストレスが溜まっていた所為もあったのだろう、Z3は追撃のつもりでそんな事を言った。

 

「え? そう? 私は別にいいんだけど」

 

「んむ、むぐむぐ」(僕もー)

 

片や迷惑を掛ける側故に不自由を感じた事がない者。

片や基本的にお人好しだが、最初から親しい友人と一緒に暮らせる事を嬉しく思っている者。

立場こそ違えど、意外にもこの二人の意見は一致していた。

 

「でもこのままじゃ特定の事しか仲良くできないコミュ障みたいに見られるかもしれないわよ?」

 

「コミュ……? 大佐なりに気を遣ってくれだだけだと思うけどね。それに別に私は他の子とも仲良くしてるわよ?」

 

「むぐむっ……」(僕も!)

 

「それはそうだけど……」

 

ビスマルクはともかく、どうやらこの件に関してはZ1も基本的には彼女に同意らしい。

元々ちょっとビスマルクにお灸を据える事だけが目的だっただけに、旗色が悪くなってきたところでZ3はこの問を自分の負けで早々に切り上げようと考え始めた。

そんな時だった。

 

「他に部屋がないんじゃない……て事もないか。あ、でも一人だけ自分だけで部屋を使ってる人がいるわね」

 

ビスマルクが不意にそんなことを言った。

 

「え?」

 

意表を突かれて目を丸くするZ3。

ビスマルクはそれには気付かず、自身の発言が素晴らしい名案だと確信した顔で更に嬉しそうに言葉を続けた。

 

「皆平等にするならその人も相部屋にすべきよね!」

 

「一体誰の事を言っているのかしら?」

 

「むぐー?」(誰ー?」

 

何となく嫌な予感がしてZ3はビスマルクに尋ねた。

Z1も件の問題とされる人物が誰か気になっている様子だった。

 

「大佐よ」

 

ビスマルクは少し顔を紅くしてハッキリと言った。

 

「え?」

 

「むっ?」

 

「大佐も一人じゃなくて二人以上と部屋を使うべきだわ!」

 

「駄目よ」

 

「むっ!」(ダメ!)

 

大佐と自分は一緒の部屋に住むべきである。

そう自信満々に主張するビスマルクにZ3とZ1は速攻で反対の意を示した。

 

「え?」

 

「それだと大佐に迷惑が掛けちゃうじゃない。大佐は風紀を大切にしているのよ?」

 

「そ、それは……」

 

正論である。

このままビスマルクを説き伏せるものかと思われたZ3は更にこう続けて――

 

「だから私が行くわ」

 

話を終わらせるどころか寧ろ捻じ曲げて更に厄介な問題へと発展させ始めた。

 

「え?」

 

「むっ!?」

 

「駆逐艦の私なら大佐も手を出さないだろうし、何よりマリアみたいに大きくないから部屋も一人の時の様に快適に使えるはずよ」

 

「い、いやそういう問題……あっ、ちょ……レイスくすぐった……んっ」ピク

 

予想だにしないZ3の発言に今までビスマルクの胸の中で大人しくしていたZ1がついにもがき始めた。

 

「むぐぐぐぐぐぐ……っぷは! それなら僕でもいいじゃないか!」

 

「お子様は駄目よ」

 

「え?」

 

「なっ……!」

 

衝撃的な言葉に固まる二人。

 

「見た目は幼くても考え方はそれなりに成熟してる私の方が絶対に向いている筈よ。その……その方が……大佐の、お世話……とかもできる……し、ね」

 

「ちょっと待って! それだと私はどうなるのよ!? 私は大人よ!」

 

「いえ、マリアは子供よ。金剛さんや比叡さんと同じ」

 

Z3は死刑執行人の様な冷たい眼で即座にビスマルクの抗議を否定した。

 

「えっ」

 

「あー、なるほど……」

 

「レイス!?」

 

「という事で文句ないわね。私が――」

 

「ちょっと待ってよ。僕は!?」

 

このまま相手にされないで終わるわけにはいかないZ1が今度は抗議してきた。

それに対してZ3はそんな彼女にも容赦ない態度でこう言い放った。

 

「自分の事を女なのに『僕』だなんて言っちゃうのは、ウケ狙いのお子様だと私は思うわ」

 

「う、ウケ……!?」ガーン

 

「ジェーン待ちなさい! 私のどこが子供だっていうのよ!? 私、これでも金剛や比叡よりもずっと大人よ!」

 

「本当に大人だったら部屋の中だからってパンツ丸見えで胡坐かいたりしないと思うんだけど?」

 

軽蔑するような目でビスマルクを見ながらZ3は言った。

 

「えっ……い、いやそれはちょっと違うと思うわよ。それは単にだらしないだけで子供とは関係な――」

 

「だらしない大人には余計に大佐は任せられないわね」

 

「な……」(このジェーン無敵!?)

 

「ウケ狙い……」ズーン

 

 

 

「……それで俺の所に来たのか」

 

「そう! どっちが大人か教えてあげて!」

 

「全く、そんなの聞くまでもないと言ったのに……」

 

「大佐、僕は『僕』って言ったら変!?」

 

深夜、提督の前には三人の、自分は子供ではないと言い張る海外娘がいた。

睡眠中に叩き起こされた事もあって、多少思考に余裕がなかった提督はそんな三人に対してこう判決を下した。

 

「結論から言おう。俺からすれば全員子供だ」

 

「 」

 

三人揃って固まる海外娘達。

余程予想外だったのか言葉も出ない様子だった。

 

「そんな事で言い争って俺に意見を求めるに来るなんて、親に泣きつく子供みたいだとは思わないか?」

 

提督の言葉に氷結から解けた三人はそれぞれたじろいだ反応を見せる。

 

「……う」

 

「そ、それは……」

 

「あ、全員子供なんだ。良かったぁ」ホッ

 

「大人の女性を目指すなら。そうだな……雲龍とか叢雲、それに長門とかがいるだろう。そいつらに訊いてみる事だな」

 

「雲龍……叢雲……」

 

「勿論それだけじゃない。他にも神通や足柄とか艦種に限らずたくさんいるはずだ。先ずはそういった奴らを手本に――」

 

「待ってください」

 

不意にビスマルク達の後ろから声がした。

 

「加賀……」

 

提督は眉間に手を当てながらその名前を言った。

その顔にはこれから起こるであろう面倒事に対する苦慮の表情が浮かんでいた。

 

「大人の女性として代表者を絞って言うのはいいのですが、何故そこで私ではなく雲龍なのですか?」

 

どうやら加賀は大人の女性として提督に言われた空母の代表が雲龍だった事が気に入らない様子だ。

 

「加賀、いいか? そういう風に直ぐに対抗しようとするのがそもそも――」

 

「胸じゃない?」

 

Z1がふとそんなことを言った。

 

「え?」

 

「 」

 

Z1の言葉に俯いて反省していたビスマルクが顔を上げる。

それに対して加賀は何を予想したのか言葉を失って発言の主であるZ1を見た。

 

「雲龍さん胸凄く大きいじゃない。加賀さんよりも」

 

「おい……」(これ以上は勘弁してくれ)

 

「大佐は胸の大きさ判断したんじゃないかな?」

 

Z1は決定的な止めの一言で更なる混沌への扉を開いた。

 

「ちが――」

 

提督は何とか止めようとしたが時すでに遅く、案の定、復活したビスマルクがまた訴えてきた。

 

「なら私だって大人よね! だって雲龍ほどは無いにしても加賀よりかはあるし!」

 

「はい?」ピキ

 

正に売り言葉に買い言葉。

加賀が無表情ながら視線で全てを射殺せるような顔でビスマルクを睨んだ。

 

「あら? 加賀ってもしかして着痩せするタイプだったのかしら?」

 

流石はドイツ最後の最強の戦艦である。

そんな加賀の視線などものともしないといった顔で更に挑発した。

 

「マリアさん……あなたちょっと何を言っているのか解っていますか?」

 

「事実だけど?」フンス

 

「……頭にきました」ピキピキ

 

両者一触即発。

お互いに艦装こそ装備していなかったが、二人は睨み合い合いながら身構えた。

そして――。

 

 

「お前らいい加減にしろっ」

 

ポカカンッ

 

「きゃっ」

 

「……っ」

 

ついに提督の拳骨が彼女達を降り注いだ。

 

「そういう風に直ぐに張り合うのが子供だと言うんだ」

 

「ご、ゴメン……なさい」グス

 

「……申し訳ございません」ペコ

 

提督に説教され流石に我に返って反省するビスマルクと加賀だったが、その後ろでは……。

 

「む、胸……」ペタペタ

 

恐らく今日一番絶望的な顔をして意気消沈するZ3と――

 

「なんだ、やっぱり全員子供なんだ♪」

 

自分の発言が招いた結果に一人満足そうに天使のような顔を浮かべてホッとしているZ1が居た。




ビスマルク早く改造三にしたいですね。
戦艦が魚雷発射するなんて「艦これ」では垂唾ものですw


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