提督の憂鬱 作:sognathus
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愛宕はなんだかウキウキした様子で後ろ手に何かを隠しているようです。
その様子を見ただけで提督は愛宕が何をしに来たか察しました。
「た・い・さ~♪」
「愛宕どうした?」
「ゲームしましょう!」
「いいぞ。誰か呼ぶか?」
「ん~……」
「どうした考え込むような顔をして」
「えっとね、これ確かに皆でやった方が盛り上がると思うんですけどぉ……」
「?」
「初めてやるから最初は人が少ない方が……大佐と二人だけの方が遊び易い気がするんです」
「どんなゲームだ?」
「これです!」
そう言うと愛宕は提督の顔の前にあるゲームソフトのパッケージを突き出した。
「……なるほどな」
パッケージを見て提督は愛宕が言っていたことを全て理解した。
「ね?」
「確かにこれなら外で遊ぶのとは雰囲気が違うだろうな」
「うん。外だと平気だけど何か自分の家でやるのって変な気っていうか、違和感ありますよね?」
「まぁ一般的な家庭ではこいういのを使うしか基本的に遊ぶことができないからな」
「先ずは私達で遊んでみて、それで慣れたら皆を呼びましょうよ!」
「そうなると、俺達だけが有利になるのが必然じゃないか?」
「だからいいんじゃない!」ニッ
「ふっ……悪い顔だ」
「お待たせしました~♪」
一度解散してから数分後、再び提督を愛宕が訪ねてきた。
「なかなか気合いが入っているみたいだな」
ゲームをする為に提督の部屋に来た愛宕は、着替えてきていた。
髪の毛をポニテールに結い、視力の嬌声にも力を入れているのか眼鏡をかけ、上は腕まくりをしたTシャツ、下はジャージといった出で立ちだった。
「ふふっ、汗かいちゃうと思いますからねぇ。ちょっと気合い入れてみましたぁ♪」
「これは、こちらもそれなりに真剣に望まないとな」
提督はそう言って上着を脱ぎ、愛宕と同じくシャツのみとなった。
「わぁ、やる気満々ですねぇ♪ それじゃいきますしょう!」
「ああ」
提督はそう言うと、テレビに既に設置してあったゲーム機の電源を入れ、ソフトを挿入した。
夜、提督の部屋で賑やかな曲が流れていた。
よく聴くとその曲に混じって人の声も聞こえる。
その人の声とは……。
「~♪ ……ふぅっ! どう?」
額に滲んだ汗を拭いながらスッキリした顔で愛宕は提督を見る。
「上手いじゃないか。これなら別に俺達だけで遊ばなくても良かったんじゃないか?」
「そういう大佐だって中々だったじゃないですか~?」
「そうか?」
「ええ。何で歌ったのが外国語のものばかりだったのかが気にるけど……」
「軍歌とか交響曲が好きでな」
「前に誰かから洋楽のロックとかも好きって聞いた気がするんですけど」
「あれは聴くのは好きなんだが、何分歌おうにも舌がな」
「ああ……」
「でもだからっていきなり第九なんて歌います? 軍歌も好きなら日本語の歌だってあるじゃないですか」
提督が何を歌うのか楽しみにしていた愛宕は、テレビからいきなり重厚なオーケストラの音楽が流れた時に軽く混乱した。
自分はカラオケをしている筈なのになぜ交響曲が?
そう思っていると、直ぐそばで提督の流暢なドイツ語の歌声が響き始めたのだった。
「ん? 一応日本語の歌も歌っただろ?」
「ええ。何故か軍歌じゃなくて箱根八里でしたけど……」
「滝廉太郎も好きなんだ」
「いくらなんでも偏り過ぎですよ……」
「むぅ……」
(それでいて採点結果はどれも良いのよねぇ。本当になんなんだか……)
「じゃぁ大佐これ、これ歌ってみて!」
「ん? 知らない曲なんだが」
愛宕がリクエストした曲のタイトルを見て提督は眉を寄せた。
「これデュエット曲なんです。私も一緒に歌うからこれ歌いましょう!」
「ほう?」
「歌詞は違っても歌い方は同じだから私が歌ったように歌えば大丈夫ですよ!」
「分かった。やってみよう」
「そうこなくっちゃ♪」
「冗談混じりの~♪」
(む、曲の調子は問題無いがなかなかにこれは歌詞が流れるのが……)
「さ、散々躓いたダンスを~? ♪」
「大佐、無理に声を出そうとしないで! そう、先ずは歌詞を――」
――数分後。
ド~ン♪
「はぁ……はぁ……♪」
「ふぅ……これは、なかなかに疲れるな」
「ふふ、頑張って着いてきましたね」
「着いて行くので精いっぱいだった。流石に一回ではまともに歌えないな」
「大佐」
「ん?」
「try again?」ニッ
「……いいだろう。今日はこの歌だけは攻略してみせる」
「わお♪ 頑張って下さいね♪」
――3時間後。
「こ、声が……ヒ……はぁ……」
「すまん、俺の所為で……」
「ふ……あははは。まさか、自分が納得するまで同じ歌を3時間も歌うとはお、思って……ケホッ」
提督と愛宕は歌の歌い過ぎで疲れ果て、力が入らない体をだらしなく床に横たえていた。
「つくずく申し訳ない」
「い……ですよ。でも疲れたぁ……。汗だくです……」
「そう……だな」ゼェゼェ
「のど……渇いたぁ……」
「……ちょっと待ってろ」ムク
「大佐?」
提督は達があると飲み物が入っている冷蔵庫がある方ではなく、洗面所へと姿を消した。
そして暫く後。
「愛宕」ポイ
「はい? わっわぷっ……っ! 冷たっ」ペシャッ
「先ずはそれで熱が籠った体を冷やせ。飲み物はその後だ」
親切にも濡れたタオルの中に小さなアイスノンまで入っていた。
これほど火照った体に瞬間的な心地よさを与えてくれるものはないだろう。
愛宕はそれを体中に押し付けながら夢心地のような幸せそうな顔をした。
「ふ……ふあぁ~い♪」ヒンヤリ
コトッ
頭上から音がしたので頭だけヒョコリと上げてみると傍に置いてったテーブルにティーカップに注がれた紅茶が置かれていた。
「え、紅茶?」(それもホット)
「前に金剛に貰ったのがまだ余ってたんだ。熱くはないぬるい程度だ」
「え~、冷たいのがいいなぁ」
「今の状態で冷たいのを飲むと逆にもっと声が出し辛くなるぞ。今は体を冷やすのと、これを飲んで喉に優しくしてやれ」
「は~い」ズズ
「甘いっ♪」
愛宕は予想外の紅茶の甘さに最初は驚いたものの、その甘さが体の中を巡り疲れを癒していくの感じた。
「砂糖を少し多めにしたからな」
「普段はあまり紅茶は甘くないのを好むんだけど、場合によっては美味しく感じるものなんですねぇ♪」ズズ
「口に合ったようで良かった」ズ
「ええ、文句なしよ♪」
「ほら」コト
提督次にお菓子を置いた。
だが、それは定番であるクッキーのような洋菓子ではなく……。
「え……わ、和菓子? なんですかこれ?」
「もち米を水飴で固めてきな粉をまぶしたやつだ。意外に合うぞ?」
「あ……美味しい」カリ
「だろう?」
その後、お菓子を食べ終えた二人は流石にその日は直ぐに部屋に戻った。
提督は問題なく直ぐ床に就くことができたが、部屋に同居人である妹である高雄がいる愛宕はそうはいかなかったという。
何故ならその高雄に散々提督と何をしていたのか明け方近くまで問い質されたからだ。
愛宕に嫉妬する高雄可愛いです。
家でカラオケしたくても普通の家は防音の壁とかじゃないので、何か筆者はその手のゲームを倦厭してしまうんですよねぇ。