「富野由悠季の世界」は『機動戦士ガンダム』シリーズなどで有名なアニメ監督・富野由悠季(とみの・よしゆき)の仕事を回顧・検証する初の展覧会。
2019年6月22日開催の福岡市美術館での展示に始まり、全国6箇所の美術館にて開催される。
本発表会には富野監督のほか、主催である神戸新聞社事業局アート事業部長の養父尚三氏、展覧会を開催する福岡市美術館の山口洋三学芸員、兵庫県立美術館の小林公学芸員、島根県立石見美術館の川西由里学芸員、青森県立美術館の工藤健志学芸員、静岡県立美術館の村上敬学芸員が登壇した(※富山県でも開催予定だが担当者欠席)。
展覧会の内容説明は山口学芸員によって進行した。本展覧会は「アニメの関連資料は絵コンテだけでも膨大な量であり、本展覧会も富野監督の仕事を網羅したものとは言えない」と前置きしつつも「通常の展覧会であれば展示点数は7~80点程度だが本展覧会では現状1000点以上の展示が決定している」とスケールの大きなものになる。
展示会は福岡市美術館(6月22日~9月1日)を皮切りに、兵庫県立美術館(10月12日~12月22日)、島根県立石見美術館(2020年1月11日~3月23日)、青森県立美術館(2020年4月~6月)、富山県内美術館(会場調整中・2020年7月~9月)、静岡県立美術館(2020年9月~11日)にて開催。展示会場によって展示内容を少しずつ変えていく予定だという。
アニメファン、富野監督ファン垂涎の展示内容
展示内容は「旅立ちと帰還、対立と和解、生と死、破滅と再生」をテーマとして全6部12章にて構成される。
基本的には作品が発表された時系列に沿って展示されるが、一部作品のテーマに併せて前後させている部分がある。展示概要と作品は以下の通り。
■第1部「宇宙(そら)へあこがれて」
第1章:富野監督幼少期のイラストなど
第2章:『鉄腕アトム』『海のトリトン』『勇者ライディーン』『無敵超人ザンボット3』
■第2部「人は変わってゆくのか?」
第1章:『機動戦士ガンダム』TVシリーズ及び劇場作品
第2章:『伝説巨神イデオン』TVシリーズ及び劇場作品
■第3部「空と大地の間で逞しく」
第1章:『無敵鋼人ダイターン3』『戦闘メカ ザブングル』『OVERMAN キングゲイナー』
第2章:『ラ・セーヌの星』『しあわせの王子』『闇夜の時代劇・正体を見る』
■第4部「魂の安息の地は何処に?」
第1章:『聖戦士ダンバイン』『ガーゼィの翼』『リーンの翼』
第2章:『重戦機エルガイム』
■第5部「刻の涙、流れゆくその先へ」
第1章:『機動戦士Zガンダム』TVシリーズ及び劇場作品『機動戦士ガンダムZZ』『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』
第2章:『機動戦士ガンダムF91』『機動戦士Vガンダム』『ブレンパワード』
■第6部「大地への帰還」
第1章:『∀ガンダム』『リング・オブ・ガンダム』
第2章:『ガンダム Gのレコンギスタ』
展示物の例としては、初の脚本・演出作品『鉄腕アトム』第96話「ロボットヒューチャー」の絵コンテ、『無敵超人ザンボット3』企画時のストーリー草案、『伝説巨神イデオン』劇場版ポスターの富野監督によるラフ画、『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』の絵コンテなど、いずれもファン垂涎の逸品だ。
各作品の印象的なイラストの原画や富野監督の著書、作詞の仕事などについても一部展示予定だという。
富野監督が原案を担当した『銀河漂流バイファム』やオープニング映像の一部を担当した『ママは小学4年生』『新世紀GPXサイバーフォーミュラ』などの作品は含まれないものの、富野監督自身が監督や総監督を務めた作品はほぼ網羅されたラインナップとなっている。
特に富野監督の代表作である『機動戦士ガンダム』『伝説巨神イデオン』、ガンダムシリーズ20周年記念作品である『∀ガンダム』、劇場版の公開が待たれる最新作『ガンダム Gのレコンギスタ』の4作品はスペースを広めにとって展示されるという。
「美術作家としての富野由悠季を知っていただきたい」
展示会のコンセプトについて山口学芸員は「展示内容は"富野監督の演出を展示する"という意図の元、各学芸員が作品をそれぞれピックアップし研究・分析する形で決定した。展示フォーマットもバラバラなので、各章ごとに展示を楽しんでいただけるのでは」と語った。
また各学芸員は元々富野作品のファンであり、それぞれ自分の好きな作品を担当しているという。富野ファンかつプロの学芸員の視点からの展示が期待できそうだ。
また「どういった人に一番本展覧会を見てもらいたいか?」という記者からの質問には「逆説的ですが、富野監督や作品のファンではない、普段から美術館に足を運びアニメを見ずに過ごしているような方に特に見ていただきたい。現在もまだアニメの展示は美術館に相応しくないと考える方が数多くいらっしゃるので、そういった方々にアニメを作品として捉え、美術作家としての富野由悠季を知っていただきたい」と語った。
富野監督のサービス精神が発動! サービスショット連発!
富野監督は「(演出という)概念を展示することは基本的に出来ないという意見を変えるつもりはありません。ただ、(本展示に関わる)僕よりも二回りも若い方々が何かを信じて取り組んでいるのを見ると、旧来の考え方を振り回して"年寄りの言うことを聞け"ということは絶対にしてはいけないことだということもしみじみと感じています」「アニメやマンガから始まったものが文化として認められていく潮流があるならば、今後どうやってそれを世の中に投下し広めていくのか? ということについてお考えいただきたい。『富野由悠季の世界』はメディアが果たすべき役割や、どういったコンセプトやメッセージを世の中に伝えていかなければいけないのか? ということを考える課題のようなものを含んでいるのではないか、と、驕り高ぶって自分自身で語ることができます」とコメントした。
以上、厳かな雰囲気の発表会だったが、フォトセッションでは富野監督のサービス精神が発動。急なピースサインに加え『∀ガンダム』のオープニングで印象的なあのポーズも披露。ソロでのポージングやファンとのツーショットにも応じ、温かいムードで発表会は幕を閉じた。