にっぽんルポ
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【社会】変える、変わる、声のチカラ 5・5 こどもの日声を上げる子どもがいる。子どもの声でつくる学校がある。子どもたちが気付かせてくれる。その声は、小さくても、学校や地域を変える大きなパワーを持っている。 ◆世田谷区立桜丘中 生徒に聞く学校づくり
校則がなく、授業に出なくてもいい。東京都世田谷区立桜丘中学校は、生徒の意見を取り入れる異色の運営で注目されている。 「校長先生、DJコーって知ってる?」 職員室前の廊下に置かれた机でパソコンを触る生徒が、校長の西郷孝彦さん(64)に話し掛けた。教室に入りたくない日は、ここで調べ物をしたり動画を見たりしてもいい。西郷さんは「授業がつまんなければ先生に言えばいいって話してる」と笑う。 着任した九年前、落ち着かない子どもたちを抑え込む教員らの怒鳴り声が、校内を飛び交っていた。教員たちに呼び掛けたのは「生徒たちの話を聞こう。絶対に怒鳴らないで」。 子どもたちと話すうち「先生に悪態つく子ほど、家でも学校でも思いを聞いてもらえていない」と気付いたからだ。発達障害などで「制服を着るとイライラしちゃう」という子も。怒るだけでは伝わらなかった。 学校をよくするヒントを子どもの意見に求め、制服の強制をやめ、スマホの持ち込みもできるようにした。生徒総会などで提案された「校庭に芝生を植える」「部活前に軽食を食べられるように」「私服登校の日をつくる」などのアイデアも実現した。 前の学校で不登校だった転校生には「好きにしていいんだ」と伝えた。試すように髪を染めた生徒に、教員たちは「いいね」と声を掛け、見守った。何日かおきの登校が、やがて毎日になった。 最初のうちは暴言で人を傷つけてしまう子もいる。教員に意見を言うことをためらう子も多い。でも、三年間で見違える。三年生の青木ひかるさん(14)は「この学校には正解がないから、本当にこれでいいか自分で考えるようになった」と感じている。 今春から生徒手帳に、「子どもの権利条約」の一部を掲載している。「自分の意見や権利を大事にされた子どもたちはのびのび成長する」と西郷さん。その環境づくりが大人の役割なのだという。 (小林由比) ◆静岡・富士市 高1、署名活動実る
静岡県富士市の高校二年、今田恭太さん(16)は昨年、市内の公立全小中学校にエアコン設置を求めネットで署名を集めた。願いは届き、今年九月までに普通教室に取り付けられる。 昨年七月、愛知県で小一男児が熱中症で死亡。小学生のころ暑さで体調を崩したことを思い出した。調べると、公立小中の普通教室へのエアコン設置率は全国平均49・6%(二〇一七年)に対し、富士市はゼロ。 後輩たちを守るため、ネット署名を開始した。「ぜいたく」などの反対意見を想定し、サイトでは「地球温暖化で昔より気温が上昇」などと訴えた。 署名は三カ月で約六千人分集まり、市長は「重く受け止める」と受け取った。市は二年後までの設置を決めていたが、一年前倒しに。市教委の担当者は「尻をたたかれた」。今田さんは「声を上げる大切さを実感した」と笑顔を見せた。 (奥野斐)
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