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【ドラニュース】

【龍の背に乗って】10・8今中も心が折れた

2019年5月3日 紙面から

1994年10月8日、マウンドで厳しい表情を見せる今中=ナゴヤ球場で

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 凡打と悟った岡本と本塁打と観念したロメロ。どちらも打球の行方を見届けることなく、バットとグラブをたたきつけていた。2人の間にあったのは幸運と不運。ロメロには申し訳ないが、あの1球の結末は透けて見えていた。陽岱鋼が手ぐすね引いて待っていた見え見えのストレート。それもあるが、岡本の一打を割り切れないまま投げるのが、記者席からでもわかったからだ。

 悲しい光景を見ながら、僕は平成の名勝負に思いをはせていた。1994年の「10・8」。ナゴヤ球場での巨人戦に、足掛け4年の11連勝中だったエース・今中慎二の心が折れた打球がある。同点の3回。巨人の4番・落合博満を打ち取ったはずの打球が右前に落ちた。この決勝打について、今中さんは僕にこう言った。

 「カンチャン(ポテンヒット)は投手を殺す」。運が少しなかっただけ。勝負には勝った。僕たちはそう思うが、当事者は違う。オレは勝ったのになぜだ…。究極の決戦であったがゆえに、割り切れなかったのだ。そこから先、打ち込まれ、降板した展開を、今中さんは「記憶が飛んで覚えていない」とも言った。この言葉には、勝負と結果のギャップを受け入れる難しさが詰まっている。

 中日の先制打もカンチャンだった。大きく空いた一、二塁間の後方に落ちた打球に、打った阿部は「いいところに落ちてくれた」とコメントした。打った側は幸運をかみしめて忘れるが、打たれた側は不運だと割り切れず、流せない。ヤングマンは投手のロメロに四球を与え、平田に2点打を浴びた。

 レイズ時代の本拠地はドーム球場ではあるが、カンチャン以上に確率の低いあの同点打を、ロメロに受け入れろと言うのは酷な話だ。ただし、今中さんはあの痛烈な敗北と引き換えに「割り切ることを覚えた」とも言った。不運を飲み干した上で勝つ。彼が強い投手になるための試練だと思うしかない。

(渋谷真)

 

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