提督の憂鬱 作:sognathus
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自分に割り当てられた分の仕事を既に終えていたその日の秘書艦の黒潮は、やることもなく少し暇そうな様子です。
「たーいさぁ」
「ん?」
「暇やなぁ」
提督の机に頭を乗せながら如何にも暇そうな感じで黒潮は言った。
「そうか? 俺は仕事をしてるが」
「むぅ、うちは暇なんよっ。それに今お昼休みやん!」
「なら陽炎達と一緒に遊んでいればいいだろう」
「やや! だって久しぶりの秘書艦なんやもんっ」
黒潮の言う通り確かに久しぶりの秘書艦の役目だった。
最近は隼鷹の育成をする為に演習に力を入れている所為か、駆逐艦が秘書艦になること自体稀という状態だった。
「悪いが俺は今は少し余裕がないんだ。前の執務がまだ片付いてなくてな。これを何とか処理しなくては……」
「うちも手伝う!」
「休み時間くらいゆっくり過ごせ」
「そん言葉そっくりお返しするわっ」
「……」
「うー……」ジー
「分かった。じゃぁこれを……」
「! 任してとき!」パァッ
それから数分後
「よし、もういいぞ」
「え? まだ大分残ってるで?」
「だが休み時間が残ってない」
「仕事するんちゃうん?」
「腹も減ったしな。このままでは戦がなんとやらというやつだ」
「ほな、うち食堂で食事貰ってくるわ」
「いや、給仕の必要はない。俺が作る」
「え? 作ってくれるん? うちの分も?」
「ああ。手伝ってくれた礼だ。何が食べたい? 簡単なやつなら作るぞ」
「ほんまに? ほならうち、うちなぁ……」キラキラ
「オムレツが食べたいぴょん!」
唐突に卯月が元気な声と共に割り込んできた。
あまりにも予想外な展開に黒潮は言葉を失って固まってしまった。
「 」
「唐突だな卯月」
「えへへー、大佐の部屋の前通り掛かったら何だか凄く良い事聞こえた気がしたのー」
「そうか。流石は卯月といったところか。耳がいいな」
「エッヘン」
「だが今日は遠慮してくれ」
「えぇ!? な、なんでぇ!?」ガーン
「お前もう食事は済ませただろう?」
「卯月は食べ盛りぴょん! まだまだいけ……」
「材料がそんなにないんだ。今日は黒潮と俺の分くらいしか作れない」
「えぇ……」ショボーン
目に見えて残念そうな表情をする卯月。
その様はまるでウサギの耳が垂れているのが容易に想像できる程だった。
「そう気を落とすな。今度……いや、明日作ってやるから」
「明日!? それって今日の次の日!?」ズイ
「そうだ。それなら我慢できるだろう?」
「うん! 分かったぴょん! 卯月今日は我慢するっ」
「すまないな」ナデナデ
「んんー……♪ 大佐が謝る必要はないぴょん。卯月の方こそ今日はいきなりごめんね」
「気にするな。それじゃあ悪いが今日は……」
「うんっ、また明日来るぴょん! 大佐、クロピョン失礼しましたぁ」
バタン
「ふぅ、これでよし。ん? 黒潮?」
「 」
「おい?」ポン
「はっ!?」
「どうした?」
「大佐! うち、うち……大佐と二人でご飯が……」
「そうなのか? ならよかった。卯月は今日は諦めてくれたからな」
「え?」
提督の言葉に呆けに取られて回りを見渡して見ると、確かにそこにはもう卯月の姿はなかった。
「い、いつも間に……。あのワガママで聞かん坊な卯月を……大佐凄いなぁ」
「そんなに感心される程の事をした覚えもないんだがな。まぁ、作るぞ。何が食べたい?」
「うちお好み焼きが食べたい!」
「ほう。なかなか黒潮らしい選択だな。分かった。少し待ってろ」
「はーい♪」
それから十数分後。
「できたにはできたが、おかげで休み時間が後僅かだな」
「ええやん少しくらい。休み入っててもちょっと仕事してたんやし」
「まぁ、食べ終わるくらいまではいいか。この後に急ぎの予定もないしな」
「そや♪」
「では、頂こうか」
提督はそう言うと相変わらず執務室の中央で異彩を放っている調理台から出来立てのお好み焼きを持ってきた。
コトッ
「ほら」
「わぁぁ、良い匂いなぁ♪」
「匂いだけかもしれないぞ?」
提督は笑いながらわざとそんな意地が悪い冗談を言った。
「こんな良い匂いするモンが不味いわけないやん。んん~♪」スンスン
「光栄だ。半分がイカ玉、もう半分がブタ玉だ」
「んっ」
「ご飯も食べるか?」
「大佐っ、分かってる! 分かってるわぁホンマ! 勿論食べるで!」
「了解した」
「ん? 大佐も食べるん? ご飯」
「ああ、お好み焼きは……」
「オカズやからな!」
タイミングを合わせて即答する黒潮。
どうやら提督と趣味が合うのが相当嬉しい様子だ。
「そうだな」
「大佐は関西に住んでたん?」
「まぁ子供の頃に少しな」
「そっかぁ、だからお好み焼きの事も……」
「その通り。実際、そこから引っ越した先の人から変な顔された時は戸惑ったものだが」モグモグ
「そうなんよねぇ。なんでやろ? めっちゃ合うと思うんやけど」
「やはり同じ炭水化物だからじゃないか?」
「せやったら、ラーメンとチャーハン一緒に食べるのも同じと思わん?」モグモグ
「形も関係あるんんじゃないか? ほら麺は細いだろ?」
「ん~、そんなもんかなぁ……。熱っ」
「ほら、水」
「ん、おーきに」ゴクゴク
「っ……ふぅ」
「美味かったか?」
「うん。めっちゃ♪」
黒潮は満足そうな笑顔でお腹を摩りながら言った。」
「そうか」
「ねっ」
「ん?」
「また作って?」
「いいぞ。また秘書になったときにな」
「うん。おおきに♪」
「さて……」
「お仕事やな! 任しときっ、バッチリ手伝う……ふ……ぁう……」
気合十分のやる気を見せようとした黒潮だったが、その意気込みを示す途中で欠伸をしてしまった。
「あ……。ちゃ、ちゃうで? こ、これは……」カァ
「……少し昼寝でもするか」
「え?」
「今は13時半か。2時まではゆっくりするとしようか」
「そ、そんな。うちに気を使わんでも……」
「お前の手伝いが予想以上に助かっているんだ。あと少しくらいは大丈夫だ」
「え? うちが……? そ、そんなに役に立ってたん? ホンマ?」
「お前はそんなに自分の仕事に自信がなかったのか?」
「そんなことない! うち真剣にやったもん!」
「だろう? 実際それは俺も確認した。そういう事だ」
「で、でもぉ……流石に休み時間過ぎて昼寝っちゅうのはぁ……」モジモジ
「ああ、大丈夫だ。お前はソファーを使え。俺はこのまま仮眠するから」
「え?」
「ん?」
提督の言葉が意外だったのか進呈不思議そうな顔で聞き返す黒潮。
対して提督は、黒潮が躊躇う理由を的確に当てたと確信していたのか、予想外の彼女の反応に同じく意外そうな顔をした。
「大佐、一緒に寝てくれへんの?」
「俺はそのつもりはなかったんだが……」
「……そや」
「ん?」
「添い寝してくれたらうちも寝るっ」
「添い寝って俺か?」
「当然やん」
「ふむ……」
既に複数の艦娘と情事を交わしているとは言え、心底真面目な本質は基本変わっていない提督は少し考えるような所作をした。
黒潮はそんな提督に答えを迫って考える時間を与えないかのように更に攻めに出た。
ギュッ
「お願い」ジッ
「……分かった」
「ホンマ!?」パァッ
「ああ。だが、ソファーだと狭いが……」
「問題あらへん。うちが大佐の上に寝るから」
「それだと俺がお前を抱きしめる形になりそうなんだが……」
「構へん、ええよ。寧ろしてほしいわっ」
「寝難くないか?」
「せやから大丈夫やって。あ、それともうちの体重が気になる……?」
「いや、駆逐艦で重そうだた思った奴はいないな」
「ほならねっ? お願いっ。頼むわぁ」グイグイ
「ふぅ……寝難かったら直ぐに言えよ?」
「うんっ♪ 大佐、ホンマおおきにな!」
それから十数分後。
「……」スヤスヤ
「……」
黒潮はうつ伏せに提督の上に寝ており、ちょうど抱き枕を抱く形で二人ともソファーに寝ていた。
(本当に一瞬で寝たな。こっちも抱き心地が良いからまんざらでもないが……だが……)
(暑い)
一見和やかな雰囲気ではあったが、提督はそんな事を考えながら寝る為の努力に専心していた。
冷房が効いているとはいえ、身近に体温を感じる状態では意外に寝難いものだ。
提督は、そんな意外な発見を勿論口にする事はこの後もなかったが、そんな状況でも穏やかに寝ることができる艦娘の『強さ』にまた違うベクトルで感心するのであった。
黒潮大好きです。
でもレベルはそんな高いわけではありません。
大事にするのもまたプレイの仕方ですよね? ということで。