皇太子さまが天皇に即位し、きょう、三権の長を始めとする国民の代表に「おことば」を述べる儀式などが行われる。
日本国および日本国民統合の象徴としての務めを、上皇となった前天皇からどう受け継ぎ、自分のものにしていけば良いのか。胸に去来するのは、そんな思いではないだろうか。
この春、朝日新聞の世論調査で新天皇に期待する役割を複数回答で聞いたところ、「被災地を訪問するなどして国民を励ます」66%、「戦没者への慰霊などで平和を願う」52%が上位に並んだ。いずれも、上皇ご夫妻がとりわけ力を入れて取り組んできた活動だ。
新天皇陛下も、これまで幾度となく被災地に足を運んで人々に心を寄せ、また4年前の会見では戦後生まれの一人として、「戦争を体験した世代から知らない世代に、体験や歴史が正しく伝えられていくことが大事」と平和の尊さを語っている。
多くの国民の願いと陛下の考えとが重なることは喜ばしい。平成のときに培われた、国民主権や平和主義など憲法の理念・原則に即した象徴像を、新天皇とともに、さらに確かで磨かれたものにしていきたい。
■国民とともに考える
一方で、時代の要請に応じた「新たな公務」への意欲も、陛下は繰り返し示してきた。
環境や災害、交通など多彩な角度から水問題を研究し、国際会議や大学での講演をまとめた書籍が出版されたばかりだ。海外への発信力も備えている。
また、外務官僚出身の皇后雅子さまについて、陛下は2月の会見で「グローバル化の時代にあって、本人だからできるような取り組みが、今後出てくると思う」と期待を寄せた。
皇室は国際親善にも大切な役割を果たしてきた。外国訪問や要人との面会はもちろん、外国人労働者の受け入れにかじを切り「多民社会」に移行しようとしているこの国の象徴として、内なる国際化にもご夫妻で向き合うことになるだろう。
かつて上皇さまは「新たな公務も、そこに個人の希望や関心がなくては本当の意義を持ち得ないし、また、同時に、与えられた公務を真摯(しんし)に果たしていく中から、新たに生まれてくる公務もある」と語った。
自らの関心も大切にしつつ、自然体で日々の活動を重ねるうちに、新天皇の持ち味が醸し出されてゆくに違いない。
国民の側も、皇室にいかなる活動を、どこまで求めるのかを考え続け、憲法からの逸脱や無理がないか、不断に検証する必要がある。過度な要請や筋違いの望みを排し、皇室と国民の双方向で、あるべき調和点を見いだしていくことが大切だ。
■身構えず自然体で
天皇ご一家には常に人々の目が注がれ、「幸せ家族」であることを期待される。平成のご夫妻も例外ではなく、天皇家として初めて3人の子を自らの手で育てる姿は、高度成長期の理想の家庭像と受け止められた。同時に国民は、その裏にある苦悩、とりわけ民間から皇室に入った美智子さまが、慣れない環境下で苦労を重ねる姿も垣間見てきた。
新天皇ご一家も同様に、いまの時代に生きる家族らしい喜怒哀楽を体現している。
結婚により女性が仕事に打ち込めなくなる無念。「跡取り」の誕生を期待される重苦しさ。心身の不調をかかえる家族に寄り添い、快復を見守る気遣い。子どもへの変わらぬ愛情――。
こうした人間的な悩みや苦しみに、自らを取りまく境遇や家庭を重ね合わせ、親しみと共感を抱く人は少なくないはずだ。家族のありように正解も不正解もない。身構えず日々のくらしの哀歓をありのままに示すことが、さまざまな葛藤を抱える国民の「等身大の象徴」になる。
■先送りできない課題
代替わりを受け、いよいよ検討が迫られるのが、皇室活動をどう維持し、皇位を引き継いでいくかという年来の課題だ。
30代以下の皇族は7人しかおらず、うち6人が女性だ。結婚すると皇籍を離れる決まりのため、野田内閣は7年前に「女性宮家」構想を打ち出したが、直後の政権交代で登場した安倍内閣は検討を棚上げした。
さらに深刻なのは皇位継承者の先細りだ。今のままでは、秋篠宮家の長男悠仁さまが伴侶選びを含めて、皇室の存続を一身に背負わされることになる。その重圧はあまりに大きい。
男系男子だけで皇位をつないでいくことの難しさは、かねて指摘されてきた。しかし、その堅持を唱える右派を支持基盤とする首相は、この問題についても議論することを避けている。日ごろ皇室の繁栄を口にしながら、実際の行動はその逆をゆくと言わざるを得ない。
国会は退位特例法の付帯決議で、政府に対し、法施行後、この問題について速やかに検討を行い、報告するよう求めた。
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