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【社会】

「故郷、奪われたまんま」 福島第一 原発避難

 三十日午後七時、小雨が降る福島県大熊町の国道6号を車で北進すると、暗闇の中にほのかに光を放つ三本の排気筒が東側に見えた。二〇一一(平成二十三)年三月十一日から、事故の収束作業が続いている東京電力福島第一原発だ。

 大型連休中、福島第一では汚染水処理を除き、ほとんどの作業は休止している。平日は約四千人が働くものの、この日は出入りする車はほとんどなかった。正門につながる道では持参の線量計が毎時二・四マイクロシーベルトを示し、警告音が鳴りやまない。放射線量は東京都心部の二十倍を超える。

 原発事故では、多くの人が避難を強いられた。避難指示が解除されても、自治体によっては戻って住む人は事故前の一割以下だ。

 「元号さ変わっても、うれしくも悲しくもねえ」。福島県富岡町から同県いわき市に避難を続ける渡辺敏子さん(56)は、解体を終えた同町の生家跡地に立って言った。事故前に住んでいた同町夜ノ森地区は線量が高い帰還困難区域。「故郷さ、奪われたまんまだよ」

 東電は、福島第一の事故収束を終える廃炉まで四十年かかると見込む。しかし、原子炉で溶け落ちた核燃料(デブリ)の取り出しなど困難な作業が山積となっている。原発で働く四十代の男性作業員は「おれが百歳になっても終わんねえ。令和の間なんて夢のまた夢だよ」と笑った。 (小川慎一)

 

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