東京新聞のニュースサイトです。ナビゲーションリンクをとばして、ページの本文へ移動します。

トップ > 社会 > 紙面から > 5月の記事一覧 > 記事

ここから本文

【社会】

<代替わり考>承継の儀に国費支出 賛成or反対

 天皇陛下の剣璽(けんじ)等承継の儀が行われ、三十余りの即位関連儀式が始まったが、宗教色のある皇室行事も多く含まれる。一括して国費を支出する政府方針に憲法上の疑義を指摘する声もある。法学者と宗教学者に賛否の意見を聞いた。

【賛成】

◆公的性格高く問題ない 百地章・国士舘大特任教授(憲法学)

写真

 「三種の神器」は戦後、皇室経済法で「皇位とともに伝わるべき由緒ある物」と規定された。新天皇がその剣璽を受け継ぐ儀式を、憲法で内閣の助言と承認が必要とされる天皇の国事行為として行ったことに法的な問題はない。平成の御世(みよ)替わりのときも政府は十分に検討し、そう結論づけた。

 一方で神器のうち鏡を祀(まつ)った賢所(かしこどころ)に即位を報告する儀式などは大嘗祭(だいじょうさい)と同様に宗教性があり、皇室行事として行われる。ただ憲法は皇位の世襲制を定めているのだから即位関連儀式は皇室行事を含め、いずれも極めて公的性格が高い。この意味で皇室行事の儀式でも国費の宮廷費を充てることは、なんら問題がない。

◆政教分離に配慮し区別 高森明勅(あきのり)・神道研究家

写真

 新天皇の即位後最初の儀式は、皇位のしるしである「三種の神器」のうち剣と璽(勾玉(まがたま))を国璽、御璽とともに受け継ぐ「剣璽等承継の儀」と、鏡が奉安されている宮中三殿の賢所で行われる「賢所の儀」だ。三種の神器は法律上、「皇位とともに伝わるべき由緒ある物」(皇室経済法七条)とされる。その神器を「皇位とともに」継承した事実を示すのがこれらの儀式。即位に伴う古代以来の伝統的儀式であり、剣璽は祭祀(さいし)対象ではないため、国事行為としても憲法上、問題はない。一方、「賢所の儀」は神道祭祀の形で行われるので、憲法の政教分離に配慮して皇室行事とするなど、両者を区別している。

【反対】

◆憲法に根本的に反する 横田耕一・九州大名誉教授(憲法学)

写真

 旧憲法時代に「剣璽渡御(とぎょ)の儀」と呼ばれたこの儀式は、「神器」を新天皇が継承することによって皇位の正統性の根拠が天照大神(あまてらすおおみかみ)の「神勅(しんちょく)」にあることを示す儀式であった。皇位の根拠が主権者である国民の総意にあるとした現憲法に根本的に反しており、国事行為として公的に行うことは違憲であり、行うべきではない。

 名称に「等」が入ったのは国璽(こくじ)(国印)・御璽(ぎょじ)(天皇印)も承継されることで本来の儀式の趣旨を隠すためだ。今回の代替わりで、神社関係者が退位と即位の儀式を同日に行うべきだと主張したのも、三種の神器が前天皇から新天皇に「継続的」に継承されることが重要だったからであろう。

◆信教の自由に合わない 島薗進・上智大特任教授(宗教学)

写真

 戦前の国の体制は天皇と天照大神(あまてらすおおみかみ)の関係を中心とした神道・皇道を鼓吹するもので、神聖天皇への崇敬を国民に教え込み、国体論批判を許さず、天皇と万邦無比の国体を掲げる戦争に人々が命を捧(ささ)げることを求めるに至った。

 その反省から戦後の民主憲法は、政治から宗教儀式を引き離そうとしたが、皇室の宮中祭祀(さいし)を残したことで、国家神道の核となる部分が曖昧な形で残った。剣璽等承継の儀は皇位が神から授かった地位であることを示唆するもので、これを国の行事としたことは、憲法の信教の自由の規定に合わない。天照大神を祀(まつ)る伊勢神宮に特別な国家的地位を与えることにもつながりかねない。

 

この記事を印刷する

東京新聞の購読はこちら 【1週間ためしよみ】 【電子版】 【電子版学割】