社説

社説[天皇陛下と憲法]「お言葉」の変化なぜ?

2019年5月2日 08:29

 「令和」の時代が幕を開けた。天皇陛下は国事行為である「即位後朝見(ちょうけん)の儀」に臨んだ。最初の「お言葉」を述べ、国民に即位を宣言した。

 「憲法にのっとり、日本国および日本国民統合の象徴としての責務を果たすことを誓い、国民の幸せと国の一層の発展、そして世界の平和を切に希望します」

 平成改元時の即位後朝見の儀で、前陛下は「皆さんとともに日本国憲法を守り、これに従って責務を果たすことを誓う」と述べている。

 平易な言葉遣いで国民に呼び掛ける形は踏襲しているものの、2人の言葉には小さな変化がある。

 前陛下が「憲法を守り」と語ったのに対し、陛下は「憲法にのっとり」という言葉を使った。

 憲法99条は「天皇又(また)は摂政及(およ)び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ」とうたう。

 「守り」という言葉には99条を前提にした主体的な意思が感じられるが、「のっとり」にはそのニュアンスが希薄である。今回なぜ「守り」から「のっとり」に変わったのだろうか。

 「お言葉」は閣議決定されている。小さな変化の裏で何があったのか気になる。

 2012年に公表した自民党の日本国憲法改正草案では、「憲法尊重擁護義務」から「天皇又は摂政」が削除されている。それと何らかの関係があるのだろうか。

 立憲主義の柱である99条を空洞化することがあってはならない。

    ■    ■

 朝見の儀の前に、陛下は初めての国事行為となる「剣璽(けんじ)等承継の儀」に臨んだ。

 皇位のしるしとされる剣や璽(じ)(勾玉(まがたま))などを受け継ぐ儀式である。神話に由来しており、国事行為にすることに対し疑問視する声が根強い。

 皇位継承権のない女性皇族の同席を認めないのも時代錯誤である。

 11月に陛下が臨む「新嘗祭(にいなめさい)」は、国民の安寧や五穀豊穣(ほうじょう)を祈る宮中祭祀(さいし)である。

 即位後、最初に行われるのが「大嘗祭(だいじょうさい)」で、政府は国事行為としないことを決めている。神道形式の宗教的性格が強いからだ。

 約27億円の国費支出に異論が多い。皇嗣(こうし)秋篠宮さまからも疑問の声が出た。

 1995年、「大嘗祭訴訟」の控訴審判決で大阪高裁は「儀式への国費支出は政教分離規定に違反するのではないかとの疑いは一概には否定できない」と指摘。原告側の主張をくんだ判断が示されたのを忘れてはならない。

    ■    ■

 皇室典範は皇位継承を「男系男子」に限っており、代替わりによって継承資格者は3人に減った。

 継承を安定させるには女性・女系天皇を認めるなど皇室制度改革が急務だが、安倍政権下では進んでいない。支持基盤である一部保守派の反発が強いためである。

 憲法の男女平等の原則からも疑問が残る皇位継承と女性の社会進出の遅れは無関係とはいえないのではないか。

 憲法と天皇の関わりを深く考え、冷静に議論する時だ。

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