提督の憂鬱 作:sognathus
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初日の訓練を終えて武蔵は疲労困憊です。
「うっ……ぐ……」
大将の訓練で心身共に疲弊し切った武蔵は、鉛のような体を引きずって与えられた部屋へと向かっていた。
(こ、ここまでとは……)
提督にも相当厳しいらしいという噂は伝え聞いていた。
しかしそれでも、大和型である自分なら耐えれる事ができるという驕りが武蔵を訓練への参加へと踏み切らせた。
(鎮守府が……大佐に会いたいなぁ……。でも途中で諦めて帰るなんて絶対嫌だ。それだけは絶対……)
「あら? 武蔵、あなた帰ってきてたの?」
自分を呼ぶ声に振り替えると、そこには大和がいた。
「やま……と?」
「あっ、あなた。此処の武蔵じゃないのね。ごめんなさい。私は……」
「知っている。中将の部下だろ?」
「え? ああ、あなた……」
「そうだ。大佐のところの武蔵だ」
「大佐は一緒じゃないの?」
「このボロボロの姿を見て分からないか?」
武蔵は大袈裟な素振りで疲弊した自分の姿を大和に示した。
「ああ、大将の……」
「そう。研修に来た」
「どう?」
「……聞くな」
「まぁ、そうよね」
「驚かないのか? 大和型がこんなにも弱気になっているというのに」
「大将の訓練を受けて平気でいる子なんて滅多にいるものじゃないわよ」
「そ、そうか……」
武蔵は少し安心した顔をした。
「その様子だと相当堪えたみたいね」
「ああ、あんなに苛酷だとは正直思っていなかった」
「続けられそう?」
「……来たからには最後までやり抜くつもりだ」
「そう。お世辞にしか聞こえないかもしれないけど、あなたなら大丈夫よ」
「それは、ここの武蔵も訓練を耐え抜いたという事か?」
武蔵はちょっと対抗するような目で大和を見ながら聞いた。
「ここの? んー……そうね。確かにあっちの方も耐え抜いたけど、でもタフさはあなたの方が上な気がするわ」
「そ、そうか?」
「ええ。これは内緒にして欲しいんだけど、あっちの武蔵は訓練が辛い事より大将が怖くて途中で泣いちゃったみたいだから……」
「……それは分かる。駆逐艦や軽巡ならともかく戦艦の、それも大和型にここまで畏怖を感じさせる人間がいるなんて思いもしないだろうからな」
「そうね。あなたも怖い?」
「怖い」
武蔵は恥じることなくキッパリ言った。
その反応が意外だったのか大和は一瞬目を丸くして驚いたかと思うと、小さく笑いながらこう言った。
「あなた変わってるのね。今まで何回か武蔵を見てきたけどこんなに素直な反応をする武蔵は初めてよ」
「ふっ、それは大佐の所為だ」
「そうなの?」
「ああ。あの人と接しているとな自然と素直になってしまうんだ。その所為か、いつの間にか普段でもそうなっていたというか……」
「ふふ、大佐が好きなのね」
「うむ! ……あ」ジワ
誇らしげにその問いにも即答した武蔵だったが、その直後何かを思い出したような顔をして急に瞳を潤ませ始めた。
あまりにも急な変化に大和も心配する表情で武蔵の様子を伺った。
「どうしたの?」
「大佐の事思い出したら……な、なんか急に……う、ぐす……」
「ああ」
「ひぐ……ぐすっ。な、泣かないつもりだったのに……はは、こ、これではもうこっちの武蔵に勝っているとはい、言えない……な。ぐす……」
ギュッ
「ん……」
「女の胸で申し訳ないけど、これで少し安心して」
「……」
「寂しがるのは恥ずかし事じゃないわ。それだけ大佐が貴方たちと上手くやって、絆を育んでいる証拠だもの」
「……」
「訓練を終えて帰った時に、うんと大佐に甘えるといいわ。それを楽しみにするの。どう?」
大和は少し体を離すとイタズラっぽい笑みを浮かべるとそう言った。
「……そ……うだな。それは悪くないな」
「でしょう?」
「ああ。恩に着る。それを楽しいに思えば何とか耐え抜けそうだ」
「ふふ、大佐、あなたが帰ったら大変ね」
「ふっ、ちょっとくらい困らせたって罰は当たらないだろう。よーし! やる気出たぞぉ!」
「頑張ってね!」
「ああ、この武蔵に任せておけ!」
「おおうっ、頑張れよぉ!!」
「応援してるわよ」
唐突に二人以外の声がした。
声がした方を振り向くと、そこには何が面白いのかニヤけ顔の大和の提督(中将)と彼女がいた。
大和「ちゅ、中将! いらしてたんですか?」
あからさまに動揺した声で中将がいた事に狼狽える大和。
武蔵はその様子を見て、大和の恋愛事情を即座に悟った。
武蔵(ああ、大和はこの人が好きなんだな)
彼女「こっちの武蔵が出かけたと思ったらあの人の武蔵が来るなんてね」
中将の隣にいた彼女が苦笑しながら武蔵を見て言った。
武蔵「少将殿」
彼女「ようこそ本部へ。キツイかもしれないけどアイツと同じ『武蔵』であるあなたならきっと耐えられるわ。いえ、耐えられるわよね?」
武蔵「はっ。勿論です!」
中将「ぐふふ、いいツラだ」
大和(む……)
中将が武蔵の態度に感心しているのを見て、大和は僅かに不機嫌そうな顔をした。
武蔵が早々に話を切り上げ部屋に切り上げて部屋に戻りたいと言い出したのは、先程と同じように大和の心中を彼女が察したからであった。
武蔵「あの、お話し中申し訳ないのですが少し疲れているのでそろそろ部屋に……」
中将「おお、そうか悪かったな。ゆっくり休め」
大和「え? ええ、おやすみなさい」
彼女「それは悪い事しちゃったわね。おやすみなさい、お疲れ様」
武蔵「はい、それではこれで」
踵を返して武蔵が部屋へと戻った後には3人だけが残った。
「……それでは私も戻ります。中将殿、大和、おやすみなさい」
「ああ、おやすみ」
「おやすみなさい。少将」
そしてあっという間に2人だけになった。
「……」
「さて、儂らも戻るか」
「……」
「どうした大和? 何か不機嫌だな」
「別に……」(せっかく武蔵が気をつかってくれたのに。気付いてないのかな)
「んん? お前……」
何かに気付いたのか急に中将が大和の顔をまじまじと見つめてきた。
不意の彼の行動に大和が動揺する。
「な、なんですか? 中将」
「……ふっ、ははははは。まぁいい行くぞ」グイ
「きゃっ」
中将は大和の肩を掴んで自分に寄せたかと思うと、今度は頭を撫でてきた。
クシャクシャ
「も、もうやめてくだ……」カァ
「いや、やめん。このまま部屋まで送れ。はははははは」
「うぅ……はい」
「……愛い奴だな」ボソ
「ちょっ」ボッ
「うははははは。さぁ行くぞ!」
「や、子ども扱いはやめてくだ……もー!!」
肺炎治りました。(キリッ
大和欲しいなぁ。