そして最後までどうか見て頂けると幸いです。
モモンたちがエ・ランテルに無事帰還した。
パナソレイ都市長、アインザック冒険者組合長、ラシケル魔術師組合長にはクレマンティーヌ死亡の原因と犯人や犯人のその後を話した。
こうして今回の一件は解決した。
その後モモンとナーベはある場所に向かった。
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エ・ランテル 灰色のネズミ亭
カウンターの中でゴシゴシとジョッキを拭きながら客の様子を見る。端っこの席ではいつもの様に酔っぱらい共が一杯の酒でひたすら粘っていた。
(そんな所で粘るなら仕事で粘ればいいだろうに・・・そうすれば酒代で困ることはないだろうに)
そう思いながら店主ロバート=ラムはカウンターに座る二人の客に目を向けた。
「私と一緒に冒険者をやらない?アンタならアダマンタイト級だって夢じゃないんじゃない?」そう言ってブリタは隣に座って酒を飲む男に尋ねている。
「悪いが断らせてもらう・・・俺は王都に行って会わないといけない奴がいるんだ」そう言ってブリタの提案を断ったのは男である。刀という変わった武器を持つ男だった。
「そう・・・・」そう言ってブリタは残念そうに肩を落とす。それを見た男はバツが悪そうにするとポケットを探りだす。
「店主、酒代はこれで足りるか?」
「あぁ。丁度だ」ロバートは男がカウンターに置いた銅貨をチラリと見てそう言った。
「じゃあな」そう言って男は店から出ようとする。
「アンタ!」
「ん?」ウエスタンドアの前で引き留めあっれた男は顔だけをこちらに向けていた。
「助けてくれて本当にありがとう!」
そう言われた男は一瞬だけ微笑むと背中を見せたまま手を振り店を出ていった。
「・・行っちまったな・・・」
「うん・・・・・」
「・・これからどうするつもりだ?」
「・・・引退しようかなって思ってる」
「・・本気か?」
「うん・・・多分、私は冒険者に向いていないんだと思う、引退後はカルネ村にでも行こうかなと思う」
「・・そうか・・・」
「『彼女たち』はどう?」
ブリタのいう『彼女たち』とは『死を撒く剣団』により慰み者にされた二人の女性のことだ。最初は店主が男であることもあり色々と大変だと思われたが、マトモに会話が出来るようになっていた。
「・・あいつらはよく働いてくれるもんだ。腕の方はまだまだだが、見込みは十分ある。その内上手いもん作れるようになるだろう」
「良かった・・・」
「・・・・・・・」
「ねぇ、おやっさん」
「・・どうした?」
「今日だけでいいから、最後まで店にいていいかな?」
「あぁ」
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エ・ランテル 冒険者組合
「おめでとうございます!『漆黒の剣』の皆様」
そう言って受付で話すのはイシュペン=ロンブルだ。
「えっ?」そう言って困惑したのはぺテルだ。
「今回の依頼を果たしたことで金級冒険者への昇級試験を受けて頂けます」
「えっ、本当なのであるか?」普段は冷静なダインが衝撃を受けたような顔をしていた。
「はい。なのでお時間の都合が良いのはいつか教えて頂けますか?」
その言葉にルクルットとニニャが顔を合わせて頷いき、ぺテルを見て頷いた。
「「「「今すぐ!」」」」
「・・・えと・・分かりました。それでは待合の方で待っていて下さい。『教官』の方をお連れしますので」
そう言ってイシュペンはその場を後にした。
「『教官』?」そう言ったのはニニャだ。
「確かに気になるであるな。確か冒険者が昇級する時は昇級試験があるとのことであるが・・」
「少なくとも『教官』がいるとかいう話は聞いたことがねーな」
「みんなもそう思ったのか?」
「あぁ。『教官』なんて単語、冒険者やってから初めて聞いたぜ」
「えぇ。初めて聞きました。確か王都の方でもそういった情報はないですね。もしかして新しく作られた役職でしょうか?」
そういった情報の場合アダマンタイト級やミスリル級冒険者でなければ知りようもないだろう。
「まぁ・・・実際に『教官』という方にお会いすれば分かるであるな」
一同がそんな話をしているとイシュペンが誰かを連れてやってきた。
「お待たせしました。こちらが今回あなた方の昇級試験を担当する『教官』の方です」
一同は驚く。イシュペンの背後にいた人物は・・・・
「初めましてだな。俺が今回お前らの昇級試験を担当する『教官』のイグヴァルジだ。よろしくな」
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カルネ村 バレアレ家
「それで相談って何じゃ?」
「・・お婆ちゃん、その・・・」そう言ってンフィーレアの顔が爆発寸前のポーションの様な色になる。
「あぁ・・・その顔で分かったよ。エンリちゃんのことだろ?」
「・・・・うん」
「あんな良い子、中々いないはずじゃよ」
「うん・・・僕もそう思う」
「・・それで相談って?」リイジーには分かっていた。
「僕はエンリが好きだ・・・・だからプ・・・
「ほう・・・ようやくか・・・」
「えっ・・もしかしてお婆ちゃんは知ってたの?」
「むしろ分からない方がおかしいくらいじゃろ?」
「え・・・えーーーー!!!」
その様子を見ている影が二つ。窓の外にあった。
「やっとですねぇ。ネムさん」
「本当だよぉ~。ンフィー君遅すぎだよ。お姉ちゃんたちには幸せになってほしいのに」
(『お姉ちゃんたち』か、そこにンフィーレアの旦那やリイジーのおばさんもいるんだろうな)
「行こう。ジュゲムさん」
「分かりやした」
そう言うと二人はその場を後にした。
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リ・エスティーゼ王国 王都リ・エスティーセ ヴァランシア宮殿
ヴァランシア宮殿、王の私室にて
「お元気になられた様子ですね。陛下」
「あぁ。戦士長。例の『薬草』のおかげでな」
そう言うと嬉しそうにするランポッサ三世を見て王国戦士長ガゼフは笑い返した。
「ラナーやレエブン候には迷惑を掛けたな」
「驚きましたよ。あのレエブン候が実はこの国を支え続けた重鎮だったとは・・」
「実際驚くのも無理は無い。レエブン候は王派閥や貴族派閥の間を行ったり来たりして『
リ・エスティーゼ王国の中で現在派閥は二つある。王派閥と貴族派閥だ。現在この二つの派閥が水面下で権力争いを繰り返し続けていた。
「レエブン候がいなければこの国は恐らく既に・・・」
「・・・・」ガゼフは黙ることしか出来なかった。自分はレエブン候に対して嫌悪感をずっと持っていた。だがそれが誤解だと知ったのはつい最近ランポッサの口から聞いいたからだ。
----レエブン候は信用しても大丈夫だ----
「・・・・・」(今の私に何が出来るだろうか・・・この国の為に何が出来るだろうか?)
「それよりも帝国だ・・・そろそろ戦争の準備を始めておかねばな」
「えぇ」
ランポッサとガゼフが私室を出るとそこには二人の男女がいた。
ラナー第三王女とその護衛クライムだ。
「お父様」
「ラナーか」
「お元気になられて良かったです」
「あぁ・・心配かけたな。もう大丈夫だ」
「・・・・」ラナーは黙り目に手を当てた。やがてグスンと鼻をすする音がした。
「泣くでない。ラナー。泣き止んでくれ・・いつもの『黄金』の様な笑顔を見せておくれ」
「・・・・」(陛下も人の親なのだな・・)
ガゼフはクライムに目線を向けるとその場を離れた。
親子同士の温かい光景を守る為に周囲を見渡しに巡回した。
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バハルス帝国 帝都アーウィンタール
「それで、何か分かったか?」
「はい陛下。王国に潜り込ませた間者からの情報ですと『ランポッサ王が数日間、姿を見ない時があった』とのことです」
「奴も歳だからな・・・病気の可能性があるか。それで他には?」
「はっ!他の情報ですと、『アインズ・ウール・ゴウン』なる
「『アインズ・ウール・ゴウン』?聞いたことない名前だな。だが名前だけでも分かるが只者では無いのは確かだろう。それで」
「陛下ぁ!!!!!」
「何だ?爺」(ちっ・・遅かったか・・また爺の悪い癖が出たな)
「私はその
(第6位階魔法を行使できる
「分かった。皇帝ジルクリフ=ルーン==ファーロード=エル=二クスが告ぐ。フールーダ=パラダインよ、アインズ・ウール・ゴウンなる
その言葉を聞いてフールーダの顔が曇る。
(不機嫌になるのは分かるが・・少しは隠せよ。私は仮にも皇帝だぞ)
「フールーダよ。返事は?」
「はい陛下」
「では行け」
「それで次は?」
「はい。次が最後の情報です。エ・ランテルにアダマンタイト級冒険者が誕生しました。チーム名は『漆黒』で、リーダーはモモン、その相棒にナーベなる若い女がいます。」
「詳細は?」
「はい。モモンは男で、
「どうした?続けよ」
「はい。噂ではナーベはフールーダ様と同じく、第6位階魔法を行使できるとのことです」
「ふむ・・・フールーダと同じか」(先程話を一度止めたのはフールーダと同格というのが信じられなかったからだろう)
「決めた。その『漆黒』なるチームについて調べよ。そうだな・・・」
ジルクリフはチラリと目を向けた。
「お前に頼もうか?どうだやってくれるな
レイナース」
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竜王国 王城
「はぁ・・・」今日何度目かの溜息をする。
「やめて下さいよ。溜息なんて。幸せが逃げますよ?」
「うっさいわ!これ以上の不幸がどこにある?」
「良かったじゃないですか。ビーストマンに襲われていた我が国を助けてくれた『彼ら』に感謝こそすれど、不幸だと嘆くなどダメですよ」
「お主も見ただろう。あのアインズ・ウール・ゴウンなる人物の素顔を」
「えぇ。アンデッドでしたね・・」
「この国の領土の三分の一も割譲するなんて言わなければよかったわ!!いくらビーストマンによって奪われたからといって・・」
「まぁまぁ・・・アインズ・ウール。ゴウンなる人物がロリコンじゃなくて良かったじゃないですか。それにしばらくは支援を約束してくれたじゃないですか?」
「・・・うぅむ・・・どちらがマシかなど比べるまでもないが・・・」
「終わりよければ全て良しですぞ」
「わしが良くない!!!」
この国は竜王国、この国が今後平和でいられるように祈るだけである。
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???
ある場所 街道にて
「・・・・・」
「どうした浮かない顔をして?」
「いえ・・・気にしないで下さい」
「私は商人だが、話には乗るよ?」
「・・・・いえ、結構です・・・いやこれをお願いできますか?」
「これは神官が着てそうな服だな・・それにこんなにも指輪やらナイフを貰っていいのかい?」
「・・えぇ。今の私には不要なものですから。タダでいいです。その代わり少しのお金を恵んでくれませんか?」
「分かった。これでいいかい?」
「えぇ。結構です」
商人である男は思った。
「あの青年、髪の毛でも毟ったのだろうか・・・何か辛いことでもあったもだろうか・・・」
去っていく青年の背中がやがて見えなくなると再び馬を走らせた。
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アーグランド評議国 とある場所にて
「ん?」
「久方ぶりじゃな。ツアー」
「やぁ。リグリット。久しぶりだね」
「今日は何しにきたんだい?」
「あぁ・・例の探索で結果が出たのでその報告をな」
「現れたのかい?『流星の子』が?」
「あぁ。間違いない。奴は『流星の子』じゃ」
「誰だい、それは?」
「モモン、それとナーベじゃ」
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スレイン法国 神都
「下がれ」
「はっ」
そう言って漆黒聖典第一席次で隊長である男はそう言って最奥の聖域を後にした。
廊下を歩いていると男は自分より遥かに高い位置に存在する人物と出会う。仮面を被った男だ。
「どうしましたか?」
「はい。漆黒聖典第4席次と連絡が取れなくなりました」
「ほう・・彼が・・ですか。何があったのですか?」
「えぇ。エ・ランテルにいるクレマンティーヌの殺害、それとアダマンタイト級冒険者チーム『漆黒』を漆黒聖典に勧誘ですね」
「彼が帰っていない所を見るとどうやら勧誘は失敗した模様ですね」
「えぇ。これで漆黒聖典は二人失いました」
「他の隊員が無事で良かったですね。セドランやポーマルシェたちは無事なのでしょう?」
「はい。幸いにも『星降りの災厄』からの復活後は問題なく『修行』に成功しています」
「それは良かった。かの神スルシャーナ様も喜ばれているはずですよ。第一の従者である私が言うんです。間違いないですよ」
「えぇ。その通りだといいですね。
ヤルダバオト様」
やがて隊長が去った廊下でヤルダバオトは一言告げる。
「ラストですか?」何もない空間にそう問いかけた。
「はい」そう言って姿を現したのは白い貴人服を身にまとう女だ。
「報告を聞かせて下さい」
「はい。ホニョペニョコを使った実験は成功しました。ですが・・」
「続けて下さい」
「はい。ホニョペニョコが倒されました」
「ほう・・・あの彼女を倒したとは・・・これは驚きですね。誰が倒したんですか?」
「『漆黒』のモモン。エ・ランテルでアダマンタイト級冒険者をしている男です」
「映像は撮ってありますね?」
「はい。こちらになります」そう言うとラストからスクロールを受け取る。
「ラスト、あなたは『
「分かりました。ついに始めるのですね?」
「えぇ。全てを終わりにします」
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アゼリシア山脈 とある場所
「ここがモモンさんの家族が眠る場所」
そう言ってナーベが見下ろした場所には一つの簡易の墓があった。
「あぁ・・・みんなここで眠っている」
そう言うとモモンは兜を脱いだ。その表情には色々なものがあった。
二人は黙祷した。風の音だけが耳に残る。
「全て終わったよ。みんな・・・・」
「『俺』は全てを終わらせたよ」
風の音だけがする。
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
「行こう。ナーベ」
「いいのですか?」
「あぁ。もう『俺』はここに戻ることはない」
「・・・・」
「行こう」そう言ってモモンはそのを後にしようと振り返る。
「行ってらっしゃい」
「!!?っ・・・ナーベ!?」
「これから何度だって言いますよ」
「・・・・ありがとう」
「いえ・・・」
「行こうか・・・」そう言ってモモンは手を差し出した。ナーベはその手を掴んだ。
「・・・!」ナーベの耳に微かに音が聞こえた。
「・・・・・」
「雨が降っていますね」
「あぁ・・・そうだな」
モモンの視界・・・いや世界にはどこまでも雲一つない青空が広がっていた。
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
エ・ランテル
「えーん」そう言って泣いている少女がいた。隣には母親らしき人物がいて必死に宥めていた。
「どうしたんだい?」
「パパから貰ったお人形さんがあそこに風で飛ばされちゃったの!」そう言って少女は自分の目線の先にある建物の屋根に指を差した。
「分かった。私が取ってきてあげよう」そう言ってモモンは跳躍すると屋根に上り、あっという間に降り立った。
「これのこと?」そう言って差し出した手には汚れた人形があった。どうやら長い間使われていたらしい。
「ありがよう!モモンさん!」
「ありがとうございます!モモンさん!」
「いえ・・・・」
「どうしてモモンさんはこんなことしてくれるの?」
モモンは少女に近づき頭にポンと手を置いた。そして少女の目線に顔を合わせるようにしゃがみこむ。
「それはね・・・・・・」
それは『ある一言』であった。
かつて自分を救ってくれた恩人の言葉・・・・・
家族のの仇を許した際に言った言葉・・・・・・
「
これにて『第1部』は完結です。