Adobe Systemsで小売および旅行・観光業界戦略担当ディレクターを務めるマイケル・クライン氏は「小売業には素晴らしい将来が開けている」と断言する。海外の小売業界の最新事情に詳しいクライン氏は、2018年9月4~5日にかけて行われたAdobe Symposium 2018のために来日し、「グローバルに見る、小売業界の最新トレンド」と題した講演を行った。「ピンチをチャンスに変えるよう、顧客体験の向上に向けた取り組みを進めてほしい」と訴える同氏の話に耳を傾けてみよう。
デジタル破壊が進む中、Amazon.com(以下、Amazon)やAlibaba(阿里巴巴:アリババ)のようなごく一部を除き、小売業には苦しい時期が続いている。クライン氏は注目しているトレンドとして以下の4つを紹介した。
小売業に変革を迫っているのは、いわゆるミレニアル世代だ。クライン氏は「eMarketer」が2018年4月実施した調査結果を引用しつつ、米国では他の世代と比べて18~29歳の人々がモバイルコマースを特に好むと述べる。
特にこの世代から支持を集めているのは、月額定額料金を払うとその人の好みに合わせた商品の詰め合わせが定期的に届く「サブスクリプションボックス」である。デジタルの世界では、会員一人一人の好みを理解し、商品との出合いを演出するキュレーション力が求められる。パーソナライズした体験を提供するサブスクリプションボックスは、ファッションを始め、食品やおもちゃなどの分野で現在とても人気がある。さらに、売り手と買い手が自由に売買できる「マーケットプレイス」を積極的に利用しているのもこの世代だ。一方で、40~50代のベビーブーマー世代もデジタルを使いこなしており、ネットで下調べをしてから実店舗で購入するやり方が定着しているのだという。
Amazonに対抗する上でクライン氏が重要と考えるのは、「小売体験の再設計」「顧客体験の最適化」「パーソナライゼーションの拡大」だ。
店舗の閉店ニュースはネガティブな印象で捉えられることが多いが、店舗を閉じた分で得た資金を、リテーラーはより魅惑的なショッピング体験を再構築するための投資に振り向けようとしている。買い物をする場所として、実店舗の役割は依然として大きいからだ。
デジタルと実店舗をシームレスにつなぐ顧客体験は、小売業にとって最優先のテーマである。Boston Consulting Groupの調査結果によれば、パーソナライゼーションに投資を行うと収益の増加が6~10%、成長速度が2~3倍、8000億ドルの売り上げ転換という成果が出ているという。顧客体験の優れたブランドを消費者は支持するのだ。
Amazon対抗の具体的な動きとしては、同社のWhole Foods Market買収後、米スーパーマーケット大手のKrogerが英オンライン食品販売のOcadoと提携開始したことや、ソフトバンクの「ビジョン・ファンド」がオンライン専業の3ドルショップ「Brandless」に出資したことなども大きな話題になったが、特に注目すべきはWalmart(ウォルマート)の反撃だ。クライン氏は「Amazonよ、Walmartを侮るな」と警告する。
Walmartは、Amazon対抗馬の最右翼と目されていたEC事業者のJet.comを2016年秋に買収統合した後、豊富な資金力を武器に急速にデジタルへの投資を強化している。買収当時のJet.comは2015年7月にサービスを開始したばかりのスタートアップ企業で、Costcoのような会員制のビジネスモデルをデジタルで実現しようとしていた。Jet.com共同設立者の一人であるマーク・ロア氏は、Walmartからの買収に伴いWalmart eCommerce U.S.のCEOに就任した。現在のWalmartはロア氏の陣頭指揮の下、デジタルブランドのポートフォリオを急速に拡充している。
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