ありんすちゃんが地上のログハウスにやって来ると、そこでは戦闘メイド(プレアデス)のユリとシズが何やら悩んでいました。

「どうちたでありんちゅ？　わらわ──わたちが解決しるでありんちゅよ。めいたんて、ありんちゅちゃがまあるくかいけちゅしるでありんちゅ」

　ありんすちゃんは胸をはりました。

「ああ、ありんすちゃん様。実はナザリック宛にこんなものが……」

　ユリはありんすちゃんに小さな小包を見せました。大きさは丁度A5サイズ位でドッシリした重さがあります。

「……爆発物ではない。なんらかの魔法の痕跡もない。だから大丈夫……たぶん」

　ありんすちゃんは小包を振ってみましたが何の音もしませんでした。どうやらお菓子ではないみたいです。

　ちなみにありんすちゃんの頭を振るとカラカラと音が……ゲフンゲフン。な、なんでもありません。

　改めてありんすちゃんは宛名を調べてみました。すると表に『ナザリック地下大墳墓 鈴木悟 様』という宛名書きがありました。

「……えっと、えっと……」

　そういえばありんすちゃんは漢字が読めないのでしたね。

「……鈴木悟、ですよ。そんな名前、ナザリックにはいないかと……」

「……肯定。ナザリックにスズキサトルというデータは無い。ちなみにスズキゴでもリンボクゴでも登録は無い」

「……ふ、ふーん」

　ありんすちゃんはわかったようなふりで誤魔化します。しばらく考え込む様子を見せていたありんすちゃんはいきなり顔を上げました。

「……こりは『ありんちゅちゃ様』と書いてあるでありんちゅ。ありんちゅちゃを漢字で書くとこうなるでありんちゅ」

　ありんすちゃんは胸をそらせ、鼻からフンスと息をはくと小包を手にログハウスを後にするのでした。

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　ありんすちゃんは屍蝋玄室に戻るとベッドに寝そべり早速小包を開けてみます。中からでてきたのは一冊の本──オーバーロード3の全巻購入特典『亡国の吸血姫』でした。

　ありんすちゃんは本をひろげますが、漢字が多すぎて読めません。そこでシモベのヴァンパイア・プライドを呼んで本を読ませはじめました。

　ナザリックを出たモモンガは空高く飛び上がります。そして「いくぜ！」というかけ声でたくさんの花火を点火するスイッチを入れます。ありんすちゃんは大喜びです。

　ついついありんすちゃんは花火代わりに〈ヴァーミリオン・ノヴァ〉を打とうとしてシモベ達に止められてしまうのでした。

　やがていつの間にか廃虚の街にいたモモンガは一人のアンデッドの少女──キーノ・ファスリス・インベルンと出会います。キーノが自分の名前を名乗るシーン──感動的な場面に話がくると何故かありんすちゃんは不機嫌になりました。

　ありんすちゃんはヴァンパイア・プライドから本を奪うと「なまえはキーノ・ファスリス・インベルン」の一文の上にバツをつけ、『ありんすちゃん』と書き加えました。

　これで主役はキーノからありんすちゃんに変更です。

　すっかり満足したありんすちゃんは枕元に『亡国の吸血姫』を置いて幸せそうに眠りにつくのでした。

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　夜中にふと目が覚めたありんすちゃんは「クチュン！」とくしゃみをしました。すると〈グレーターテレポーテーション〉が発動してどこか知らない世界に転移してしまうのでした。

　ありんすちゃんは立ち上がるとキョロキョロあたりを見回してみます。するとありんすちゃんは誰かを踏みつけている事に気がつきました。

　何やらボロ布をマントのように羽織っていてズボンのようにスカートを縫い合わせた服を着た、金髪の十歳位の少女です。どうやら気絶をしてしまっているようです。

　ありんすちゃんは近くの扉の中に少女を押し込めるとなにごともなかったかのような顔をしました。

　そこに一人の人物──自称スケルト族の男──がやって来ました。

「……こんばんは、星が綺麗な良い夜ですね。幾つか聞きたいのですが……」

　ありんすちゃんはコクリと頷きます。

「まずはそうですね。……私は……鈴木悟と言いますが、貴方のお名前をお聞きしてもよろしいですか？」

　ありんすちゃんはニッコリと笑いました。

「ありんちゅちゃはありんちゅちゃでありんちゅ」

「……ん？　ありんちゅちゃさん？　……それで早速なのですが、この都市で何があったのかを教えてくれませんか？」

　悟の問いかけに少女──ありんちゅちゃ五さい──はいろいろ話しはじめました。

「えっと……モンブランが大好物でお風呂が大好き……ですか。うーん……その、ありんちゅちゃさん、誰か大人の人はいないのでしょうか？　お父さんとかお母さんとか……この世界についていろいろ知りたいのですが」

　ありんすちゃんは口もとに指を当てて首をかしげます。

「……ありんちゅちゃは５さいだからわかんないでありんちゅ」

「………………」

「………………」

　このままでは話が終わってしまう、と思われたその時──

『……ありんすちゃん様。聞こえますか？　ソリュシャンです』

　ありんすちゃんに〈伝言(メッセージ)〉が届きました。

「ありんちゅちゃでありんちゅ。チョリチャ、なんでありんちゅ？」

『……良いですか？　ありんすちゃん様。ありんすちゃん様は現在夢を見ていますがこれはアインズ様のヒロインの座を射止める好機です。おわかりですか？』

　ありんすちゃんは首を傾げました。

「飛行機はありんちゅちゃ好きでありんちゅよ」

『…………えっと好機です。……飛行機ではなくて、ですね……まあいいわ。ありんすちゃん様には私がセリフを伝えるのでその通りにアインズ様へ言って下さい』

「……めんどくちゃ、でありんちゅね」

『……私の言う通りにしたら後でおやつを差し上げます』

「──モンブラン！　おっき栗のモンブランがいいでありんちゅ！」

『わかりました。それでは──』

※　　　※　　　※

「えちょ、こりがわたちの……ありんちゅちゃの物語。……始まりありんちゅ」

　ありんすちゃんはセリフをいい終えるとホッとため息をつきました。

「……成る程。そんな事が……ありんちゅちゃさんはこの国──インベリアの王女で父のファスリス王と母のアンネと幸せに暮らしていた。それがある日突然に自らはアンデッドの吸血姫に、父母やメイドを含めて国民がことごとくゾンビになってしまったと……それから長い期間、ありんちゅちゃさんは皆を元にもどす研究をしていたんですね」

　ありんすちゃんは悟の言葉に目をパチクリさせますが、あわてて頷きました。

「ちょうでありんちゅ。……えっと……お城に行くでありんちゅ。怖い怖いをやっちゅけるでありんちゅ」

　ありんすちゃんと悟は手をつないで王城

に向かう事になりました。

※　　　※　　　※

「おんやー……そーちゃん、ここにいたっすか？　アルベド様がお呼びっすよ」

「ルプス、わかったわ。しかし困ったわね」

「どうかしたっすか？　なんなら頼れるルプス姉さんにドーンと任せるっす」

　ソリュシャンは少しばかり躊躇しましたが結局ありんすちゃんのバックアップをルプスレギナに任せる事にしました。

『……つーわけでヨロシクっす。で、ありんすちゃん達は王城っすか？　えっと……んじゃドッグ・ゾンビを召喚して口にチェンジリングドールをくわえるっす』

　ありんすちゃんはゾンビになった犬を追いかけながら口にアイテムをくわえました。

「……んーんーんんー？」

『……あ、間違ったっす。さっきのはありんすちゃんじゃなくてアインズ様っす。ああ、アインズ様じゃなくて悟様っすね。……ええっと……ありんすちゃんは……あー！　大変っす！　ポテチをこぼしちゃったっすよ！』

　ルプスレギナが大騒ぎしている間にありんすちゃん達は王城を占拠しているアンデッドの首魁──ナイトリッチと対面していました。

「〈朱の新星(ヴァーミリオン・ノヴァ)〉」

　出会い頭にありんすちゃんが唱えた魔法で首魁は呆気なく消滅してしまいました。

『……やれやれ。ポテチが半分になったっす。えっと、次はアインズ様から〈メッセージ〉がくるんで「嘘だ！」って叫ぶっす。あ、アインズ様じゃなくて悟様だったっすね」

　ありんすちゃんは隣の悟の顔をじっと見つめました。ですがいっこうに〈伝言(メッセージ)〉を使う様子はありません。当然ですよね。

「あーあー。こちらはありんちゅちゃ。メッセージこないでありんちゅ」

『マジっすか？　えっと、本ではアインズ様がアンデッド倒した時にあまりに雑魚なんで待たせてたキーノを心配してアインズ様がメッセージ使うんすっけど……』

「……アンデッドは雑魚でありんちたが……ありんちゅちゃのバーミリオノバちゅおいでありんちゅ」

『……んんん？　ありんすちゃん今何処っすか？　もしかしたらアインズ様と一緒っすかね？　あ、アインズ様じゃなくて悟様だったっす」

「ありんちゅちゃはアインジュちゃまとお手てちゅないでいるますでありんちゅ」

『わかったっす。じゃ、適当に飛ばして次にいくっす』

　『亡国の吸血姫』の内容とは少しずつ齟齬をきたしつつもありんすちゃんと鈴木悟の冒険は続くのでした。

　──後編へ続く