漆黒の英雄譚   作:焼きプリンにキャラメル水
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かなり強引ですがどうか温かい目で見て頂けると幸いです。


決着

モモンたちがエ・ランテルに帰ると、彼らの存在に気が付いた門番が声を大にして叫ぶ。

 

「『漆黒』が帰ってきたぞ!!!!!!!!!!!」

 

 

 

窓から顔を出す人々、家から飛び出る人々、駆け寄る人々

 

 

 

「モモンさん!!!!」

 

「ナーベさん!!」

 

「ハムスケさん!!」

 

 

そうやって多くの人々が彼らの名前を呼ぶ。

立派な全身鎧(フルプレート)は隙間なく傷ついており、へこみや穴が開いていた。そのことから街の人間は壮絶な戦いだったことを悟る。それは同時に彼らがホニョペニョコと戦った証でもある。だがホニョペニョコの脅威が消えた理由にはならない。だから彼らがモモンたちの口から聞きたい言葉はただ一つだけであった。

 

 

 

 

「パナソレイ都市長を襲撃し、街を脅かした吸血鬼、ホニョペニョコと戦い『勝利』し『倒した』。エ・ランテルのみんな!もう安心していい」そう言うとモモンは拳を作った右腕を空高く上げた。それと同時に村の人々から歓声が沸き上がる。

 

 

 

 

「衛兵!彼ら『漆黒』に敬礼!」門番を率いる者がそう命令を下すとモモンたちに敬礼する。

 

 

「『漆黒』万歳!!!!」

「『漆黒の英雄』万歳!!!!」

「モモンさん、万歳!!!!!!」

 

「今夜は飲むぞ!!!!!」

 

「おい店主!!酒は置いてあるだろうな!!」

 

そうやって賑やかに歓迎されたモモンたちは照れながら冒険者組合へと歩いて行った。

 

 

 

 

_________________________________

 

 

エ・ランテル 冒険者組合 応接室

 

 

 

 

 

そこには五人の人物がいた。モモン、ナーベ、パナソレイ都市長、アインザック冒険者組合長、ラシケル魔術師組合長だ。現在ハムスケは組合の外で待機中である。

 

 

 

「モモン君、エ・ランテルの都市長として、この街の人間の一人として感謝したい。本当にありがとう」

 

「いえ・・・当然のことをしたまでです」

 

「・・・本当に君は凄いな。色々話を聞きたい所だがまずは戦いの傷を癒すのが先だな」

 

「いえ問題ありません。傷は・・・」(アインズ殿に・・・)

 

 

 

 

 

『私たちと共に『建国』しないか?』

 

 

 

 

(断った身であるとはいえ・・・国を起ち上げようとしているアインズ殿に迷惑を掛ける訳にはいかないな・・・言い方を考えなくては)

 

 

 

 

 

 

 

「モモン君?」

 

「傷は問題ありません。持っていたポーションで回復しましたので」(この言い方ならアインズ殿に迷惑を掛ける心配はないだろう)

 

「そうか、それならせめてその鎧を直させてくれ。無論費用は私が全額出す」

 

「分かりました」モモンはそう言うと鎧を脱ぐ。ナーベもそれを手伝った。

 

「ラシケル君。頼む」

 

「お任せ下さい。パナソレイ都市長。魔術師組合を総動員して直して見せます」そう言うとラシケルは応接室から出ていった。

 

ラシケルが応接室から出ていくのを見てパナソレイは口を開いた。

 

「モモン君、帰ってきてすぐですまないが頼みたいことがある」

 

「何でしょうか?」

 

「君が捕らえた『墓地騒動』の主犯の一人クレマンティーヌが死亡した」

 

「えっ・・・」

 

 

 

 

 

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エ・ランテル 地下牢

 

 

 

 

 

 

 

モモンは牢屋の中を見る。柵の中で舌を大きく出して事切れている女クレマンティーヌの姿を見る。

 

「モモンさん、これって・・・」

 

「あぁ・・・魔法か何かで殺害されている」

 

外傷はなく手枷も外されていない。抵抗したような跡もない。その様子から魔法で殺害されたと見るのが妥当であった。

 

(問題は・・・『スレイン法国』の元『漆黒聖典』のクレマンティーヌを殺害したのが誰かという点だ。彼女を抵抗されることなく殺害できる存在がいるとすれば・・・!!っ)

 

そこでモモンが真っ先に思い浮かんだのは『漆黒聖典』の存在であった。

 

「誰か目撃者は?」

 

「えぇ。一人だけ・・」

 

「その者に会わせてくれないか?」

 

 

・・・・・

 

 

・・・・・

 

 

「まさかこんな形で再会するとはな」

 

衛兵の話曰くアングはブリタ殺害未遂の容疑が晴れた後も牢屋で暮らしているらしく、何やら考え事をしているらしい。冒険者組合長に相談した所、とありあえずそのままでいいとのことらしい。

 

 

 

「それはこちらのセリフだ。それで俺はその目撃した奴について話せばいいか?」

 

「あぁ。よろしく頼む。アング」(前回会った時より顔色はマシだな。声の感じも僅かに元気があるようだ)

 

「分かった。俺が見たのは神官風の恰好をした金髪の男だ」

 

「詳しい特徴を教えてくれないか?」

 

「あぁ。顔はどこか幼い顔立ちだったな。一目見ただけじゃ優男って感じだったな」

 

(もしや・・・・)モモンは顔を歪める。その男はもしや・・・

 

「他にはないか?」

 

「当てにするかは好きにすればいいが・・・俺の武技で把握したのは女と話していたのは非常に似た気配だったな。最低でも知り合いだったんだろう」

 

「協力感謝する」

 

 

モモンたちはその場を後にした。

 

 

 

 

 

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その日の晩、モモンとナーベはエ・ランテルの外にいた。既に門からも大きく離れており人目が付かない場所なのは確かだった。

 

 

「出てきたらどうだ?魔法で隠れているのは分かってる」

 

 

 

モモンは誰もいない空間に話しかけた。すると空間がグニャリと歪み姿を現した人物が1人。神官風の金髪の男が現れる。

 

 

 

「気づいていらったんですね。いつからですか?」

 

「私がエ・ランテルに帰ってから上空からずっと視線を感じていた。アレはお前の召喚したモンスターだろう?」

 

「成程・・・クリムゾンオウルに気付いていたのですね。流石は『漆黒』のモモン殿ですね」

 

「見え透いたお世辞はいい。何が目的だ?」

 

「・・単刀直入に言いましょう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

我ら『スレイン法国』の為にその力を貸して頂きたい」

 

 

 

 

 

 

「ほう・・・・・条件次第だな」

 

 

 

 

「条件・・成程やはり人は噂通りとは限らないという訳ですか」

 

 

 

「・・・・」

 

 

 

「いえ別に悪いとは思っていません。私は今回交渉人として貴方にお会いしたのですから」

 

 

 

「クレマンティーヌを殺害した件はどう説明するつもりだ?」

 

 

「我が妹ながら、クレマンティーヌは『スレイン法国』を裏切り『叡者(えいじゃ)額冠(がっかん)』をも奪ったのです。死んで当然です」

 

 

「妹・・・ならば身内だろう?何故殺した?・・・いや何故殺せる?」

 

 

「我らが『正義』に背いたのです。その前では身内であろうと容赦致しません」

 

 

「なら続けて聞こう・・・お前たちの言う『正義』とは何だ?」

 

 

「・・四大神を信仰している貴方には分からないでしょうがいいでしょう・・・私たちは『六大神』を信仰し、その教えに従っているまで。我らの『正義』は即ち『六大神』です。神々の教えこそが我らが『法』!」

 

「そうか・・・一つ聞きたい。『俺』の顔を憶えているか?」そう言うとモモンは兜を脱いだ。それを見たクワイエッセは・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前・・あの村の・・・生きていたのか・・」

 

「覚えていてくれたか・・・・ならば先程の返答をしよう

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

却下だ!!!」

 

モモンは背中から大剣を抜いた。それを見たクワイエッセが腕を上げた。

 

(忘れる訳が無い!あの動作は!!)

 

 

 

 

「出でよ!ギガントバジリスクたち!」

 

 

その場にギガントバジリスクが出現する。『あの時』とは違い、五匹出現する。

 

 

「やれ!!その男を殺せ!!」

 

ギガントバジリスクたちがモモンに視線を向ける。その目には見覚えがあった。忘れるわけがない。

 

「ナーベ、お前はあっちに行ってくれ!これは『俺』の問題だ」そう言うとナーベは黙って頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

「石化の魔眼を使え!!」その言葉に反応し五匹のギガントバジリスクが一斉に目を裏返した。

 

体中に『あの時』の感覚が蘇る。だが『あの時』とは違う。

 

モモンはそれを見て一度深呼吸して息を整えた。

 

(<石化抵抗(レジスト)><最大>)

 

体中を重たくするような感覚が消え失せる。抵抗(レジスト)に成功したのだ。

 

 

 

 

「なっ!馬鹿な!石化対策をしているだと!?アイテムか!?」

 

「・・・石化など抵抗(レジスト)すればいいだけだ」

 

「くっ、そんな馬鹿な!ギガントバジリスク!毒を吐け!!」

 

ギガントバジリスクたちがモモンに目掛けて毒を吐いた。モモンの全身に毒が浴びせられる。

 

「これで終わりだ!さぁ!ギガントバジリスク!今度こそこいつを殺せ!」

 

ギガントバジリスクが叫ぶとモモン目掛けて駆ける。

 

(<毒化抵抗(レジスト)><最大>)

 

体中を蝕む痛みが消え去る。モモンはそのまま剣を構えるとギガントバジリスクたちから距離を取った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「なっ!毒もか!ならば物理で殺せ!!」クワイエッセは距離を取ったモモンに指を向けて命令を出した。ギガントバジリスクたちがそちらに方向を切り替えると駆けだした。

 

モモンは両手の大剣を構えると走った。

 

それはクワイエッセの目には追いきれなかった。

 

そして・・・

 

ギガントバジリスクたちは獲物を食べるための口を、体液を吐き出す為の口を、石化の魔眼を持つ目を、獲物を切り裂く爪を、

 

全てを切断された。

 

「なん・・・だと・・何かのトリック!?いや違う」

 

モモンはクワイエッセに駆け寄るとそのまま大剣を・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

持った拳でクワイエッセの頬を殴った。

 

 

 

 

 

 

 

吹き飛んだクワイエッセは地面に転がる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「勝負あったな・・・クワイエッセ」フラフラになりながらも立ち上がるクワイエッセにモモンはそう言った。

 

 

 

 

「・・何故だ?何故それ程までの力を有しながら『人類』の為に戦わぬ?何故だ!?」

 

 

 

 

「それが『俺』の『正義』だからだ」

 

 

 

「『正義』だと!?『正義』とは六大神のことを言うのだ!!即ち『人類』こそが『正義』だ!!!それ以外は『敵』だ!!」

 

 

「その六大神の教えは一体何を?」

 

 

「『人を愛せ』・・・・スルシャーナ様のこの言葉を胸に私たちは『人類の為に』戦うのだ」

 

 

「違うな。スルシャーナの言う『人』は・・『人類』は・・・『人間』以外の種族即ち『亜人』も含む。お前たちはいつから教えを履き違えた?」

 

「なっ・・・・そんな馬鹿な・・確かに教典には」

 

「その教典を書いたのは本当にスルシャーナなのか?」

 

「それは・・・」

 

「誰が書いた?」

 

「・・・・・」

 

「答えられないのならそれが答えだ」

 

「・・・・っ」言われたクワイエッセがモモンに近づく。その表情には怒りの感情が露わになっていた。

 

「お前たちの言う『教え』は間違っている!!誰かを犠牲にしないといけないことなどない!!」

 

「だったらどうしろっていうんだ!!ふざけるなぁ!!!!」そう言ってクワイエッセはモモンを突き飛ばそうとした。だがモモンはビクともしなかった。

 

「・・・・」

 

「今更どうしろって言うんだ!!?今まで信じてきたものが間違っているだと!!?だったら私は何のために妹を殺した!!?命乞いをする亜人の子供を殺した!!!?」

 

 

「誰かを犠牲にすることでしか成り立たない平和なんて間違えてる!誰も犠牲にせずに世界を平和にする方法だってあるはずだ!」

 

 

「そんなのは存在するわけがない!!この世は呪われている。誰かを犠牲にすることでしか生き残れない!そんな呪われた場所にいる私たちは亜人たちを犠牲にすることでしか生き残れない!!そう教えられてきた!!」

 

 

「だったら俺がその呪いを解いてやる!誰も犠牲にすることなく平和を手にしてみせる!」

 

 

「・・お前・・っ」

 

 

「もう二度と『あの時』と同じことは起こさせない。だから証明してみせる。それこそが『正義』だと!」

 

 

 

「っ・・・」クワイエッセは懐からそれを取り出した。そしてそれを空高く振り上げて、自分自身の心臓に・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

だがそれは止められた。恐怖から自分が止めたのではない。モモンによって止められたのだ。

 

 

 

 

 

 

「何で・・・私は・・・お前の村の仇なんだぞ?」クワイエッセが膝から崩れ落ちた。

 

 

 

 

「『誰も犠牲にさせない』・・・それが『俺』の『正義』だ。お前は生きろ・・・生きて償え・・・村の皆もきっとそう望んでいる」

 

 

モモンはクワイエッセの両手からからナイフを強引に抜き取ると自身の懐に入れる。これで自決の可能性はなくなったはずだ。

 

 

 

震えた身体でクワイエッセがこちらを見上げている。そして一言・・・

 

「何故だ・・・」

 

モモンは『ある一言』を言う。

 

 

 

 

 

「あっ・・・・あーーーーー!!!!!!!」クワイエッセが右腕で地面を殴りつける。左手で髪の毛をむしり取りながらそれを繰り返す。表情を歪ませながら大粒の涙を流している。

 

 

 

 

 

 

 

(終わったよ。『母さん』、『ウルベル』、『チーノ』、『チャガ』、『アケミラ』、『ギルメン村のみんな』)

 

モモンはクワイエッセに背中を向けるとナーベの元へ歩み出した。

 

 

 

 

 

「いいのですか?」

 

「あぁ・・・ずっと憎んでいたやつは『俺』の中から消えたよ」

 

「・・・・」ナーベが微笑む。全ての事情を知るナーベは気が気ではなかっただろう。

 

「すまなかったな・・・こんなことに付き合わせてしまって」

 

「いえ・・・」

 

「帰ろうか」

 

「はい!」

 

 

 

 

 

こうしてモモンの人生に一つの決着が着いたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





次回、『漆黒の英雄譚』の『第1部』、完結!!

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