@chablis777  
シャブリ

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(富士子)なつ ちょっといいかい?
(なつ)何?
東京行かない?えっ?
咲太郎さん 捜しに行こう。
♪~
なつと富士子さんは十勝から 2日かけて東京の新宿にやって来ました。
ありがとうございました。ありがとうございました。
はあ~ ここが新宿…。
母さん 行こう。
こっちかい?うん あっち。
次が…。
♪~
♪「重い扉を押し開けたら暗い道が続いてて」
♪「めげずに歩いたその先に知らなかった世界」
♪「氷を散らす風すら味方にもできるんだなあ」
♪「切り取られることのない丸い大空の色を」
♪「優しいあの子にも教えたい」
♪「ルルル…」
母さん!
あっ 着いた。
信さん!(信哉)いらっしゃい。
じゃなくて お帰りなさい… か。
お待ちしてました。忙しいのに 急にすいません。
いえ こちらこそわざわざ ありがとうございます。
ここの店に 咲太郎を知ってる人がいます。
パン屋さん?ああ。 新宿じゃ 有名なパン屋さんなんだ。
行こう。うん。
(野上)いらっしゃいませ。こんにちは。
佐々岡と申しますがマダムは いらっしゃいますか?
どういったご用件でしょうか?
私は 以前 新聞記者の下川さんという方とここに来たことがあるんですがその時に マダ

ムとお話をさせて頂きまして。
本日は お約束でございますか?
あっ いえ…突然お伺いして 申し訳ないのですが咲太郎のことで 妹が来ているとそうマ

ダムにお伝え願えないでしょうか?
さいたろう? 妹?
(信哉)咲太郎という名前を言えば分かると思います。
それで ご用件は?
いや だから 妹は 兄を捜して北海道から はるばるやって来たんです。
その咲太郎のことで ご存じならば何でもいいから教えてもらいたいんです!母さん…。
あっ お騒がせして すいません…。
あっ あの咲太郎!?あの野郎…。あの野郎?
あっ いや 失礼しました。
ちょっと あの… お待ち頂けますか?
マダムに お伝えしますので。
(佐知子)空いてるお席へ どうぞ。
何これ 高い!
雪月の3倍はするね。
ここは 僕に…。
ああ いいのさ。ケチで言ってるわけじゃないんだから。
でも ここで食べるのはやめとこうよ 母さん。
そだね。
おなかが減ってるなら大丈夫だよここのカレーは最高だから。
いいのさ。ケチで言ってるわけじゃないんだから。
そう?お決まりですか?
アイスコーヒー下さい。僕も アイスコーヒー。
アイスコーヒーが お二つと…。
冷たい牛乳ありますか?
アイスミルクでございますか?はい。
えっ… ないですか?
ございます。 かしこまりました。
えっ 何か じっと見られたわ。うん…。
案外おいしい。
本当に? ちょっと頂戴。
あっ マダムだ…。
♪~
(光子)いつも ごひいきにありがとうございます。
いらっしゃいませ。
前島光子と申します。
あの… マダム 以前お邪魔しました…。
覚えております。佐々岡信哉さんでしたね。
はい。 フルネームで…。
それで あなたが咲太郎さんの妹さんですか?
はい。 なつと申します。
なつさんね。
私は 母の富士子です。
あっ 母といっても 咲太郎さんの母というわけじゃあなくて…。
存じております。 大体のことは。
どうぞ 皆さんも お掛けになって。
何もいらないわ。
咲太郎さん… 私たちは 咲ちゃん。
劇場のみんなからは咲坊なんて呼ばれていましたね。
サイボウ?その劇場というのはこの近くにあるんでしょうか?ええ。
ムーランルージュ新宿座。
そこで 兄は お芝居をしてたんですか?
いいえ 役者ではなかったと思いますよ。
私は あまり劇場には通いませんでしたので分かりませんが掃除をしたり もぎりをしたり裏

方を手伝ったり何でもしていたようですね。
よく ここへ 役者さんや踊り子さんに連れられてきてごちそうになっていましたからみんな

からはかわいがられているようでしたよ。
そうですか…。
(咲太郎)♪「うぬぼれのぼせて得意顔」オ~! ジャパニーズ チャップリン!
♪「東京は銀座へと来た」エノケン!
間違いないと思います。兄は そういう人でした。
あっ 私は子どもの頃の兄しか知りませんけど。
(ドアが開く音)あっ。
ちょっと お待ちになって。
社長。(茂木)やあ マダム 今日も あでやかで。
フフッ… ありがとうございます。
あの 是非 ご紹介したい方が…ちょっと よろしいでしょうか?
ああ。
皆さん こちら すぐそこの本屋さん角筈屋書店の茂木社長。
新宿のことなら何でも私よりも よく知ってらっしゃいます。
よろしくお願いします。ん? 何のこと?
あっ こちらは ムーランルージュにいた咲ちゃんの妹さんです。
なつと申します。
ああ… あの小僧さんか ハハ。
さあ 社長も お掛けになって。
いつものお紅茶で よろしいですわね?ああ。
それで?なつさんは 咲ちゃんを捜しに北海道からやって来たんですって。ああ…。
そういえばそんな話を聞いたことがあったな。
私のことを 兄からですか?
うん。 生き別れになった妹をいつか この新宿に呼び寄せるんだって。
本当ですか?ああ 本当さ。あの言葉に うそはなかったと思うよ。
あの 私は咲太郎の幼なじみなんですが咲太郎は いつからムーランルージュにいたんでし

ょうか?
う~ん…。空襲で焼けたムーランが22年に新設されてそのころには ずっといたね。
よほど ムーランルージュが好きだったんだろう。結局は ストリップの人気に押されて潰れ

てしまったけどね。
いつか 咲ちゃんも役者になりたかったんじゃないかな。
兄がですか?ああ。
あの その後の咲太郎の行方を知っていそうな方をご存じないですか?ムーランルージュの

関係者で。
う~ん…。 戦前から ムーランにいる煙カスミって歌手がこの近くのクラブで歌ってるけどね


クラブ?
けむり…。(茂木)煙。かすみ…?カスミ。
(カスミ)♪「リンゴの花びらが」
♪「風に散ったような」
♪「月夜に月夜に」
♪「そっと エエエー」
(夕見子)食べてよ。
(明美)お母さんと なつ姉ちゃん無事に着いたかな?
(照男)もう とっくに着いてるさ。
(剛男)しかし こんな寂しい食卓は初めてだな。
(泰樹)そだな。
お前が 戦争に行ってる間ももっと にぎやかだったな。
あ… そうですか…。
(笑い声)
ちょ… ちょっと…。
♪「つがる娘は泣いたとさ」
♪「つらい別れを泣いたとさ」
♪「リンゴの花びらが」
♪「風に散ったような」
(拍手と歓声)
ありがとうございます。(拍手)
あっ。
あなたが なつさんね。
はい。お手間を取らせて すいません。
なつさんのお母さん。
いろいろと事情があることは分かりました。
茂木社長からも後は頼むと言われましたけど残念ながら 私も 今は咲坊が どこにいるか

は心当たりがないんですよ。
そうですか…。
ごめんなさいね なつさん。あっ いえ…。
どうか お気を付けて。
また じっと見られたわ…。
♪~
どうでした?
ダメでした。そう… すぐにはね。
こちら お預かりのかばんです。
いろいろと お世話んなりました。
今日は どちらへ?
これから 宿を探すんですがどこか 安くていい所はないでしょうか?
それなら… うちに どうぞ。
えっ? あっ… いや そんな!従業員が住んでるアパートで寮みたいな所でよろしければ

空き部屋があります。
布団ぐらいならありますし部屋代は タダですから。
いいんですか?助かります。
そのかわり食事は ここで なさって下さいね。
当たり前です。食べます。
私 ケチなんですよ。
あっ ハハ…。カレーライス 2つ下さい。
はい。 インド風カリーね。
お好きな所へ どうぞ。
カリー 2つね。
よろしいんですか?
あんなやつの身内に 情けをかけて。
だからよ。 あの子がいれば捕まえられるかもしれないでしょ。
あの子は 人質… ですか?
そうよ。
誰が逃すものですか。
あ~ おなかすいた!
カレー 楽しみだね。そだね。
なつよ…。
明日を信じよう… ね。


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