第十七話:転生王子は希望の船を組み上げる
クロハガネには詰め所が存在する。
常に十人ほど常駐して、クロハガネの民を見張っていた。その十人で昼と夜をカバーしているため、実稼働は五人ほど。
クロハガネの民が従順な性格だからこそ見張りはかなり緩い。
あくまで見ているのは街の中であり、作業場の監視はしない。
門番すら、クロハガネのものにさせるぐらいのザルさだ。
毎日、夕方にノルマをチェックしているものの、逆に言えばノルマさえ達成していれば怪しまれない。
とはいえ、常に魔力持ちを二人は配置している。
何かあれば、すぐにでも砦に増援を呼びに行かれてしまうため、対策が必要だ。
どれだけ工夫をしようとも、二百人が逃げ出そうとしたらばれる。
週に一度程度、人数をチェックしているのもうっとうしい。
この人数チェックがなければ、いっそ小型の船を作って少しずつ民を逃していくという手段が取れた。
だが、それができない以上、奴らを無力化して一気に二百人が逃げるという手段を選んだ。
「また、地下なのね。最近、掘ってばかりの気がするわ」
「地下はいい。やりたい放題できるからな」
今、俺達がいるのはクロハガネの地下だ。
そこでせっせと穴掘りをしている。
そして、この位置は奴らの詰め所の真下。
「……もしかしてだけど、これは落とし穴? 必要以上に深く掘っているわよね」
「ああ、正解だ。地下に巨大な空間を作っておいて、脆い柱をいくつか作って支えておく。そして、柱を一つ壊すと、他への負荷が大きくなっていく、どんどん罅が入って、だいたい二分ほどで一気に崩落して奴らの詰所と宿舎は地下深くに沈む」
「そういうことね。つまり、当日は私とヒーロが別行動をとって、砦につながる道と、詰所を同時に潰す。クロハガネの民はそれを合図にして一斉に逃げ出す」
「ああ、幸いにして夜の見回りは、いつも同じ時間だ。全員が詰所にいるタイミングは掴める。一気に、建物ごと地下深くに落ちれば、早々出てこれない。ついでに建物の方も強い衝撃を受ければ壊れるように細工する」
ただの落とし穴じゃない、建物ごと落ちるのだ。
危険度も、脱出の難しさも非じゃない。
その上、建物の屋根や壁までが覆いかかってくる。やられるほうはたまったものじゃない。
「けっこう、えぐいわね」
「穴掘りも馬鹿にしたものじゃないだろ? 落下のショックと建物の崩壊、並の人間なら死ぬだろうし、瓦礫の山を押しのけ、地上に抜け出すにはかなりの時間がかかる。万が一地上に出られて、逃げ出したクロハガネの民を追いかけようとしても、詰所にいる連中だけなら俺とヒバナで対処できる。応援を呼ぶという選択肢をした場合、道を潰しているから、応援がくるころには脱出が完了しているというわけだ」
この二段構えで、当日は脱出を目指す。
「良い作戦ね。でも、結構地道で掘る量が半端ないのが辛いわね」
「それは俺も思う。失敗したなって後悔しているんだ」
「後悔?」
「ああ、もっと爆薬を積んでくれば良かった。こっちだとなかなか火薬の材料が揃わなくてな。十分な爆薬があれば、面倒なことをしなくても逃げる当日に大量の爆薬でまとめて吹っ飛ばす。手間がかからず、安全だな」
「いつからヒーロはそんなに物騒になったの?」
ヒバナが少し呆れた表情で俺を見ている。
そんなことを言われても困る。
俺は騎士ではなく錬金術師だ。勝ち方になんてこだわるつもりはない。
より、確実な方法を選ぶ。
「あとは努力と根気だ。……掘り方が浅いせいですぐに抜け出されてしまったなんて笑えないからな」
「ええ、しっかりやりましょう」
この作業にはクロハガネ全員の命がかかっているんだ。
がんばらないと。
◇
数日後、サーヤに呼ばれてドックに来ていた。
「どうですか、パーツは全部完成しました。あとは組み立てるだけです」
キツネ尻尾をぶんぶんと振りながら、サーヤはドックの端に並べられているパーツのほうに手のひらを向ける。
船に必要なパーツの数々がそこにあった。
設計図を見ながら、一つ一つチェックしていく。
「……驚いた。全部揃っているだけじゃない。前見たときよりさらに精度があがっている」
「ふふふ、作業をだいぶ前倒しできたので手直しをしていました。ヒーロさんには別の作業がありましたからね」
地下の仕掛けで俺は動けなかった。
だから、船造りが早く進んでもできることはない。
その間を無駄にせず、こうした気配りをしてくれたのは嬉しい。
「何人かいないみたいだがどうかしたのか? そう言えば、船を貸してくれて言ったいたな」
「そっちは居住先に行ってます。逃げたあとのために環境を整えていますね。主に家を作ってます。ただ、日帰りなので作業時間が取れなくてほとんど進んでいないですけど」
用意周到なことだ。
ドワーフの土魔術と炎魔術を駆使すれば簡易的な家は簡単に作れる。
二百人がまず住めるだけの環境は数日で出来るだろう。
まずは夜露がしのげる環境と、当面の食料があれば、ちゃんとした生活基盤作りに集中できる。
「そうか、そっちもどうにかしようと考えていたが任せて大丈夫そうだ。よし、仕上げていく」
パーツは揃った。
あとはプラモデルと一緒だ。組み立てていくだけ。
……にしてもすごいな。
木材のパーツは手作業であり、俺がやるより精度がいいとは思ったがここまでとは。
船であり、錆は天敵だ。
だから、可能であれば木のパーツ同士はつなぐのに釘を使わないほうがいい。
そう考えてか、パーツの接続箇所はすべて凹凸をうまく作って、パズルのように噛み合う作りだ。
日本では一流の職人がその気になれば、釘を一本も使わずに家を作れる。
そんな極めて硬度な技術が要求される職人芸を彼らは成し遂げていた。
数ミリずれるだけで一気に脆くなるが、完璧に作れば釘などを使うよりよほど丈夫に仕上がる。
試しに組み上げてみると継ぎ目が見えない。引っ張ってもびくともしない。それだけ完璧な技。
「……これは俺にはできないな」
組み上げながら微笑む。
さすがは、生まれながらの鍛冶師だ。
どんどん船を組み上げていく。
重機が必要な箇所も、魔力で限界まで身体能力を強化し、錬金魔術を駆使すればどうにでもなる。何より、サーヤたちも手伝ってくれる。
さすがに鉱物系のパーツは完璧とは言えない。設備面の問題で限界があり、こちらで調整が必要なところも多いが、そこも大した負担にならない。
錬金魔術ならば、鉱物の微調整は非常に用意。
どんどん船の形ができていく。
「さあ、着水だ」
ついに、みんなが見守るなか船が水に浮かび、歓声が響き渡る。
「あとは魂を入れるだけだ。これはおまえ達の船だ。サーヤ、おまえが仕上げをしろ」
サーヤに、この船の魔力炉を渡す。
魔力を流すことで、それを駆動系に伝えスクリューを回す、いわば船の心臓だ。
「はいっ! みんなもついてきてください」
船に乗り込む。
そして、甲板から階段を降り、動力室に入る。
サーヤがごくりと唾を呑み、ゆっくりと魔力炉をはめ込む。
「さっそく、動かしてみるか?」
ここは船室内だが、レンズをうまく使って前後左右、水中のすべてを見ながら操縦できるようにしている。
甲板の上より、ここのほうが安全かつ、集中して操縦できる。
そもそも魔力炉に近いほうがロスが少ないし、魔力炉からスクリューの距離が近いほうがロスが少ないので、必然的に操縦席はここになった。
念のため、レンズが破損したり汚れたりしたときのために甲板上にも操縦席をお設けているが、ここがメインだ。
「はいっ、やってみます。ゆっくり動かすだけなら一人でもできるはず」
サーヤの声が震えている。
それから、しっかりと魔力を注ぐ。
スクリューの震えが伝わってくる。
それから、船が動き始めた。
大型故に、俺が作ったクルーザーより反応は鈍く、速度は遅いがちゃんと前に進み、ドックを出て海にでる。
「動きました! ちゃんと動いてます」
「ああ、良い船だよ」
三つあるスクリューの一つだけが回っている。
大型になると舵だけでは旋回が厳しくなるため、方向転換を速やかに行うため、三つのスクリューをそれぞれ出力調整することで曲がれるように作ってある。
「良い船なのは当然です。だって、みんながすっごくすっごく頑張って作った船ですから! それに、ヒーロさんも」
声が潤んでいる。
この船を作るのにひどく苦労した。
それにこれはクロハガネの民を救う足がかりになる。
「あの、ヒーロさん。この船の名前をつけてくれませんか?」
「いいのか、これはクロハガネの船だ」
「契約では半分はカルタロッサ王国の船でもあります。それに、なんとなく私がそうしたいって思ったんです」
サーヤが微笑む。
……一瞬、見惚れてしまった。
それは多分、初めてみたサーヤの本当の微笑み。
綺麗な子だと思っていた、だけど作り笑いじゃない本当の笑顔はこんなに魅力的だったのか。
「じっと私の顔を見て、どうしたんですか?」
そんな俺を見て、サーヤが不思議そうに首をかしげていた。
見惚れていたなんて照れくさいし、まるでサーヤを口説いているようだ。ごまかすしかない。
「なんでもないさ。船の名前だけど、エスポワールなんてどうだ」
「どういう意味なんですか?」
「異国の言葉希望を意味するんだ」
「ぴったりですね。この船は私達の希望です」
これで大きな課題の一つだった船は完成した。
あとは些事は残っているものの、無事に逃げ延びるだけ。
この希望の船で、俺たちは新天地に向かうのだ。
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