憤怒レポート第11弾 「給与7.8%カット」のウソに続き、ここにもインチキが。減らせる人件費は全体のわずか0・34%!
国家公務員「新規採用7割削減」
大ウソのカラクリ!

「例外なく削減を!」と、国家公務員の採用者削減をブチあげた岡田副総理。だが、効果などまったくない〔PHOTO〕鬼怒川 毅

 野田政権が「公務員改革のウソ」を連発している。「国家公務員の給与の平均7.8%削減」法案が2月末、衆参両院で可決され成立した。「7.8%」という数字を素直に受け取れば、公務員給与もいよいよ大幅に下がる印象だ。しかし、これはとんでもない〝インチキ〟なのである。ジャーナリストの若林亜紀氏が憤る。

「まやかしもいいところです。実はあらかじめ給与のベースを上げておいた上で、この先、一部削減するのですから、全然、人件費カットにはならないのです。小賢しい官僚の常套手段です」

 官僚に言いなりの政府は、情報操作で国民を騙そうとしているワケだ。岡田克也副総理の「身を削る努力」など、何の裏付けもないミエミエのパフォーマンスだ。数字のカラクリを若林氏が説明する。

「実は、'06~'09年の4年間、官民格差に配慮して抑制されてきた定期昇給を、この春、回復させることになっています。この措置は来年も予定されています。その上、各種の手当は〝給与カット〟の対象外になっている。例えば、『本府省業務調整手当』というものがあります。'09年に新設されたのですが、霞が関の本府省に勤務する職員に支給されるもので、係員で給与の2%、係長で4%、課長補佐だと9・44%も加算されるのです」

 何のことはない。政府は消費税増税を実現させるために、公務員も給与カットに応じていると、見せかけの給与削減法案を通した。実際は、まるで削減になどなっておらず公務員に痛みはない。政府はそれがバレないように、定昇については一切触れず、高額な手当が削減対象から外れることも明かしていない。まさに国民に大ウソをついているのだ。

 公務員の厚遇問題を追及する本誌の「憤怒レポート」第11弾は、国家公務員の給与削減、そして今話題の「国家公務員採用削減案」のインチキを糾弾する。

「定年退職者のため」とは!

 政府は3月6日、「国家公務員給与削減」に続いて、野田首相を本部長とする「行政改革実行本部」で、'13年度の国家公務員の新規採用者数の上限を、'09年度に比べて4割以上削減する方針を決めた。岡田副総理はさらに踏み込んで、「7割以上」の削減を指示。省庁によっては、「8割以上」の採用削減もあるとした。狙いは人件費の抑制だが、実はこんなことをしてもまったく効果はないのである。兵庫県立大学教授・中野雅至氏が指摘する。

「我が身を削ると言うのなら、新規採用を減らす前に、高給生活を満喫しているベテラン職員らの給与を削減するべきでしょう。分限処分(いわゆるクビ)のような厳しい措置も取れなければ、早期退職させることもしない。高齢者の職員を1人辞めさせれば、新卒を4人も5人も採用できるはず。新卒者採用の削減は、付け焼き刃の苦肉策にすぎません」

 高齢の公務員の高給を放置して、初任給の低い新卒の採用を減らしても効果がないことは、誰にでも分かる理屈だ。そして驚くべきは、今回の採用削減案では、定年退職した公務員の「再任用者」(いわゆる再雇用者)は〝対象外〟となっていることだ。元経産省キャリア官僚の古賀茂明氏が糾弾する。

「'13年度から年金支給開始年齢が上がるので、財務省は定年延長を目論んでいる。しかし、それがうまく進まないので、とりあえず作戦変更して、定年を迎えた職員を全員再雇用しようと、有識者会議で検討を始めています。どんなに能力がなくても、やる気がなくても再雇用するわけです。結局、人件費がさらにかかってくる。今回の新規採用者の削減案は、定年退職者を食べさせるために生まれたもの。バカバカしい話です」

 内閣官房によると、2月29日に公務員の定年延長に関する有識者会議の第1回会合を行った段階だという。

「定年延長が難しいのであれば、再任用制度のほうで、希望された方全員を受け入れるという制度に変えていこうという話し合いがされております。'13年度から年金支給開始年齢が引き上げられますので、早期に方針を固める必要があるという認識でスケジュールを組んでいるところです」(内閣官房)

 こんなことをして人件費を削減できると考えるほうがおかしい。前出・若林氏によれば、新卒国家公務員の平均年収は約300万円。これ自体は民間とそう変わらないが、公務員の場合、高齢になっても給与が減らされることはなく、際限なく上がり続ける。50代のノンキャリアで700万円、キャリアの局長になると1700万円になる。しかも、退職金が5000万円以上の職員が、年に300人以上いる。「彼らの給与や退職金を抑えるほうが、新卒採用を減らすより、よほど人件費抑制になるのは自明」(若林氏)だ。

 本誌は、岡田副総理の言う「新卒7割削減」で、どの程度、人件費が削られるか試算してみた。'09年度の国家公務員の新卒採用人数は8511人。これを7割削減したとすると、〈8511×0.7=5958人〉となる。年収が300万円とすると、〈300万円×5958人〉で、約179億円の削減となる。一方、国家公務員の総人件費は5兆3000億円だから、179億円はなんと、0・34%でしかない。要するに、国家公務員の新卒採用人数を7割減らしたとしても、人件費の削減効果は1%にも満たないのだ。

 民主党はマニフェストで国家公務員の総人件費の2割削減を謳っている。総務省に聞くと、「総人件費は5兆3000億円なので、2割は1・1兆円になる」という。この数字をもとに計算すると、179億円は1・63%。新卒採用だけ減らしても、自党のマニフェストの数字「20%削減」にも遠く及ばないのだ。

 しかも、これはあくまで7割カットが実現した場合の話だ。岡田氏の指示に、現在、霞が関の官僚たちは当然のごとく猛反発。かつて80万人いた国家公務員も、郵政民営化などがあって現在は30万人に減っている。そのため各府省とも「これ以上の削減は不可能」とニベもない。特に、岡田氏が、刑務官や入国警備官、海上保安官など、治安に携わる国家公務員についても「例外なき削減」を打ち出したことから、「治安に悪影響を及ぼす」と関係各府省は怒りを隠さない。そもそも、'09年度を比較の基準としたこと自体、自公政権の時代と比べる目的で、政局がらみの発想でしかないのだ。

 採用を減らすことは、人件費の問題だけにとどまらない。前出・中野氏が言う。

「若者の雇用機会を奪ってしまいます。これだけ就職難の時代にしわ寄せが若者にいっている。人事は長い目で見るべきで、採用が抑制されると人事のサイクルがおかしくなる。'00年代初頭に採用を抑えた民間企業では、30代の社員が少なくなって、人員構成がいびつになってしまっている。国でも同じことが起きる危険がある」

 前出・古賀氏も言う。

「新規採用の抑制は、全員再雇用もしくは定年延長が決まるまで続くでしょう。ヘタをすれば5年間続く。就活をしている学生への影響は大きい。若手の公務員にしても、部下が入ってこないから、いつまでも下っ端の仕事しかできない。年寄りの公務員からすれば、大学生や若手のことなんて関係ないということです」

 公務員制度改革など夢のまた夢。官僚の言いなりで国民に平気で大ウソをつく内閣などいらないのだ。

「フライデー」2012年3月30日号より

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