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義妹、脱毛する。そして兄に恋をする 作者:四葉夕卜/よだ
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第10話 義妹の弁当Ver.2


 四限目、終了のチャイムが鳴った。

 昼休みだ。


 購買にパンを買いに行く生徒、グループで集まる生徒などでクラス内が喧騒に包まれる。

 二年生、新しいクラスとなって一週間が経ち、クラスメイトたちは思い思いの友人を作っていた。


(一年から仲のよかったメンツって感じか)


 前方の席で集まっている初美を見て、義妹に友人がいることを安堵した。もっとも、人気者なので放って置いても誰かしら寄ってくるから無用の心配と言えるが。


(俺はカメがいるからいっか)


 篤に交友関係を広げるつもりはない。亀治郎ことカメと、他数人話せる友人がいるのでそれで十分だった。主にイデア関係で仲良くなった連中だ。泊りがけで協力プレイをしたのはいい思い出だ。


(さて……)


 席を立たずに学生鞄の底にしまいこんでいた巾着袋を取り出した。

 巾着袋の口を開け、弁当箱を取り出す。


(今日のおかずは何だろう)


 わくわくしている自分自身に気づかず、人知れず口角が上がっていく。

 そのとき、購買にでも行こうとしていたのか、目ざとく弁当の存在を見つけたカメが駆け寄ってきた。


「篤、また弁当持ってきたのか?」


 弁当箱から視線を上げると、髪を重力に逆らってセットしているカメがニヤニヤと不気味な笑みを張り付けて見下ろしている。エロ本を隣からのぞくような目つきだ。


「チッ」

「唯一無二の友に舌打ちってひどくね?」


 なんといってもこの弁当は、あの、校内一人気の義妹、初美が朝早起きして作ってくれたものだ。二年間の家庭内別居を経てようやく関係性に変化が出てきた証と言ってもいい。やっと家族らしいことができている感慨もある。開封の儀を邪魔され、舌打ちの一つも出ようというものだ。


「そのスケベな目はどうにかならないのか? 友人として将来が心配だ」

「それ蝶子にも言われたんだけど?」

「長野さんの言うことはもっともだな。カメの将来を憂いているんだろう。ああ、きっとおまえはその目のせいで就職もできず、日がなアルバイト生活を経て、家庭を持てずに孤独死するんだろうよ」


 それらしく言ってやるとカメが「まじでぇ」と顔をなで始めた。

 良くも悪くも単純なやつだ。そこがクラス内での人気の理由でもある。


 ちなみに長野蝶子というのは、同じクラスにいるカメの幼馴染で、黒髪ボブカットのちんまい女子だ。何くれとカメの世話を焼いており、校内でもよく話している姿を見かける。初美とも仲がよく、初美のいる女子グループの中に入って今も前方の席で昼ご飯を食べていた。


「スケベってどんな目だよ」

「これだよ」


 スマホをインカメラにして向けると、カメがキメ顔を作り、ふっとニヒルな笑みをこぼした。


「いつ見ても俺ってイケメンだな」

「バカなの? アホなの?」

「ひどーい、今日の篤くんがドSぅ〜」

「ギャルマネすんな気色悪い」

「で、で、今日の弁当もやっぱアレですかい? あんたんとこのコレが作ったんですかい?」


 篤の耳に顔を寄せて、小指を立てるカメ。


「キャラを秒で変えるな」

「ごまかさないでくださいよ旦那ァ。あんたの妹、初美ちゃんが作ったんでしょう?」


 こうなるとカメは引き下がらない。仕方なくうなずいた。

 なんだかんだ「初美ちゃんが作った」というフレーズだけ小声にしてくれる配慮はある。

 初美が男子に弁当を作ったと知れ渡ったら、一日中噂の的になってしまう。たとえそれが家族であろうとも、面倒になるのは目に見えていた。その辺の機微を読めるのはさすがカメと言える。


「仲が悪いんじゃなかったのか?」


 ネタキャラをやめ、カメが喜びの混じった顔で隣の席に座った。


「ああ、そうだな」

「二日連続で弁当を作ってくれたんだろ? それもう仲悪くないよな?」

「さあ、どうだろうな。よくわからない。家でもあまり口をきかないし、今朝も会話らしい会話はしてないぞ。弁当を渡されただけだ」

「ほう、ほう、なるほどね」

「おい、長野さんに聞くなよ。ガチでやめてくれ」

「わかってるよ。ただ、なんか篤が嬉しそうだからさ」

「嬉しそう? 俺が?」

「ああ」


 カメがにかりと白い歯を見せて笑ってうなずいた。憎めないやつだなと、自分の気持ちをストレートに表現できるカメが羨ましくなる。


「イデアやめたって聞いたときはめちゃめちゃ心配したんだぜ。あれだけ打ち込んでたイデアをスパッとやめるって……ちょっとは俺に相談してくれてもよかったんじゃないか?」

「それに関しては……すまん」

「まー、篤が吹っ切れてるならそれでいいんだけどさ。それより、チームメンバーにはちゃんと連絡したんだよな」

「昨日も言ったけどしてあるぞ。やめたことも、その理由も」

「そうか」


 カメは柄にもなく真剣な顔で視線を床に落とし、ふんふんとうなずいて顔を上げた。


「それならいいっしょ! あー、でもトッププレイヤー“和食カレー”のファンとしては残念だなー」


 カメが座った椅子を傾けて、首を後ろで腕を組んだ。

 天井を見上げて、篤のプレイした数々の熱戦を思い返しているらしい。


 篤の脳内にも様々な試合が思い起こされた。


 IDEA77はハンター一人対サバイバー四人の鬼ごっこだ。イデアの持つ特質を駆使して、ハンターはサバイバーを追い詰め、サバイバーは宝箱から鍵と財宝を見つけて出口の扉を開いて逃げる。キャラクター数が現在六十、特質は七十七。無限の組み合わせとランダム変化するマップ。不確実性とハラハラ感がプレイヤーの心をつかんで離さない。もう一回、もう一回と何度もプレイしてしまう中毒性があった。


(アカウント作るか……?)


 そんな思いが頭をもたげるも――実行まで至らない。

 ハンター妙子の存在は篤にとって大きなものだった。


「やる気になったら教えてくれよ」


 カメが気持ちを汲んでくれ、優しい言葉をかけてくれる。


「で、で、旦那ァ。御開帳はまだなんですかい?」


 いいやつだなと思った瞬間、ゲス顔で弁当箱を見下ろした。


 弁当だ。

 弁当のおかずを確認しなければならない。

 カメが見ているのは不本意だが観客だと思ってあきらめよう。

 誰かの視線を感じて前方を見ると、初美が顔をそらした……ような気がした。


(弁当持参のときは別の場所で済ませてからグループに戻ってくるんだよな? あいつ、なんでまだ教室にいるんだ?)


「はよ、はよ」

「わかったよ」


 カメにせっつかれて篤は弁当箱の蓋をおもむろに開けた。


「……ッ!」

「美味そうだ」


 足元で魔法陣が光って今にも転生しそうなリアクションを取るカメと、冷静におかずを吟味する篤。


 篤は相変わらずのポーカーフェイスだ。

 だが、内心は喜びで満ちていた。


 昨日の夜食を再利用した肉じゃが、煮豆、プチトマト、卵焼き、たこウインナー、きゅうりの漬け物、ミートボール。白米にどうぞお好みで使ってくださいと初美が言っているかのように、海苔のふりかけがラップに巻かれて小さく弁当箱の隅に詰めてある。家にあった大瓶のふりかけを、わざわざラップにくるんで小分けにしてくれたようだ。


(ありがたい……)


 弁当に家族愛を感じ、またしても瞳の奥が熱くなってくる。

 隣で「目が、目がぁぁぁぁ」とか言っているカメは放っておき、さっそくおかずの卵焼きを口に入れた。

 じんわりとした甘さとダシの味が口内に広がっていく。


(美味い)


 すると、机に置いていたスマホが揺れた。

 画面を見ると初美からだ。

 ロックを解除してメッセージアプリを開くと、短文が書かれていた。


『放課後、買い物ですからね』


 二日連続の弁当事変によりすっかり忘れていた。


(そうだった……どんな顔して行けばいいんだよ)


 マスクをつけた初美と目が合うと、ぷいと目をそらされた。

 またスマホにメッセージが入った。


『スーパーに集合でお願いします。あと、お弁当の感想は直接お願いします』


(あ、昨日も言うの忘れてた)


 箸を置いてスマホを操作し、返信する。


『了解』


 あまりに飾り気のない返事だと自分でも思う。

 それならば、とスマホをタップした。


(人生初のスタンプをくらえ)


 特に意味もなく、イデアに出てくる宝箱と財宝のスタンプを送信した。イデア内のマスコットキャラ、じゅえりー君が「わあ!」と可愛く驚いているイラストつきだ。


(やらかした……か?)


 前方の初美を見ると、なぜか顔を伏せていた。

 スマホを膝の上にのせてのぞき込むように見ている。

 遠目でわからないが、ぷるぷると震えているような気もする。


(脈絡がなさすぎた? スタンプの使い方を誰か教えてくれ……)


 女子グループのメンバーが不思議そうな目で初美を見ている。初美は友人に断りをいれて弁当を持ち、篤を見ずに教室を出ていった。これから弁当を食べるようだ。


 それから二十分ほど経ち、弁当を食べ終わってカメと雑談していると、スマホがまた震えた。

 初美からメッセージが入っている。


 アプリを開くと、つぶれた猫がプリンを持って目をキラキラさせているスタンプが送られてきた。


(意味がわからん)


 弁当俺も食べたいでござると横でうるさいカメの言葉も耳に入らず、篤はスタンプの意味を必死に考えた。



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