注目されないままに上がっていく社会保険料:小峰隆夫教授

経済企画庁調査局長などを歴任した小峰隆夫 大正大学教授が、日本経済の5つの不思議を挙げている。
その中で消費税と社会保険料に対する注目度の相違が述べられている。


この考察の中でいくつかの不思議な点が浮かび上がってきた。
主に次の5つである。・・・

小峰教授が週刊東洋経済への寄稿の中でキャッチーなテーマを紹介し、ちゃっかり新著の宣伝をしている。
挙げられた5つの不思議は、いずれも多くの人が納得する特異点だ。
考えを共有するか反対するかの違いはあろうが、とにかく日本人の顕著な感性・行動様式を言い当てている。
5つともに興味深いのだが、ここでは3つ目の不思議のサブテーマを紹介しよう。

一方で国民の多くは、社会保険料の引き上げについては無関心であまり認識していないので、消費税を嫌がっているうちに、社会保険料負担が急上昇するという笑えないことになっている。

冒頭「一方で」とあるのは、日本人が消費増税に過敏に反応する「一方で」という意味だ。

最近も、総理と副総理が「リーマン級のことがない限り」消費増税を延期しないと言ってきたのに、与党幹事長代行が「6月の日銀短観次第で違う展開も」と発言した。
10月の増税を6月の短観で変える可能性があるという噴飯物の発言だ。
選挙の風向きが悪いから衆参同日選をやりたいのだろうが、もしも本当にそうするなら増税の可否は選挙後になる。
6月だろうか、7月だろうか。
消費増税に備える商売人からすれば、ただただあきれるしかない。
与党の都合でこれ以上商売の邪魔はやめてくれとなる。


こうした政治家のおもちゃとなりやすい消費税とは異なり、社会保険料は順調(?)に上昇している。
国民年金保険料はここにきて横ばいとなったが、昨年まで決して緩やかとは言い難い上昇を続けた。
国民健康保険料も引き上げる自治体が相次いでいる。
このうち国民年金や介護保険については、民間の厚生年金や健保にそのまま連動する話だ。
これら社会保険料は、国ではなく自治体が徴収する仕組みになっている。
自治体が住民の負担を決める裁量は小さく、住民は自治体に文句を言うわけにもいかない。

国民からすれば、しくみもわからないままに負担増とされている面が多い。
典型的な隠れた増税だ。
現在、日本社会に巨大な隠れた増税があるとすれば、ゼロ金利と社会保険料引き上げである。

  • 金融緩和:ゼロ金利を実現し、景気を刺激している面もあるのだろう。
    しかし、これは預金者に対する隠れた税金であり、需要を引き締めている面もある。
  • 社会保険料: 引き上げにより社会保障制度の持続性が高まるなら悪いことばかりではない。
    しかし、それが需要を引き締めているのもまた事実だ。

いずれも良い面・悪い面があるのだが、一番良くないのは隠れた増税になっている点だ。
事実上税金としての性格を有するにもかかわらず、その意思決定を議会が担っているとは言い難い構図になっている。
あるいは、その過程が国民に見えにくくなっている。
だから、どんどん事実上の増税が進んでいる。
仮に増税・財政再建に賛成する人でも、こうしたありようは諸手を挙げて賛成できないのではないか。
これでは、理想的な世代・層ごとの負担のあり方を反映しているとは言えない。
とるべきところからとるという戦略性を忘れてはいけないはずだ。


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