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電子レンジの心臓部であるマグネトロンの分解
長年お世話になった電子レンジが壊れた。色々検証した結果、電子レンジの心臓部であるマグネトロン(マイクロ波発振用電子管)が破損していることが分かった。そこで、たんに廃棄するのは長年愛用した電子レンジに申し訳ないので、そのマグネトロンを取り出し、分解できるところまで分解する遊びを楽しんだのです。
これが電子レンジの心臓部マグネトロンとその愉快?な仲間たち
これが電子レンジの主要部品たち。
マグネトロンと、MOTと呼ばれている電源トランス、高耐圧ダイオード、高耐圧コンデンサ。
電子レンジの根幹パーツであるマグネトロン。
ヒートシンクと大型リング状のフェライト磁石が見える。
紫色の出っ張った部分がマイクロ波の出力部だ。
ちょっと勉強メモ書き
電子レンジとその心臓部マグネトロンの基本原理
ここでちょと電子レンジの加熱の仕組みやマグネトロンの動作原理の基礎の基礎を簡単に紹介しますが、あくまでも基礎的な概念を分り易く書きますので、細かな正確性はありません。ご了承ください。
電子レンジで加熱できる理由
まずは、電子レンジが物を温める仕組みを簡単に説明します。
電子レンジは電磁波によって温めたい物の水分子を振動させ、その摩擦熱を利用して加熱している。もう少し詳しく書くと、電磁波というのは電界と磁界が時間変化する波であるが、電子レンジでは、そのうち電界変化を用いる。
水分子は水素(+)と酸素(-)が結合した極性分子(電気双極子)で、それに高周波電磁波(高周波電界変化)を与えると、その電界の時間変化に応じて、水分子は振動する。そして水分子(正確には水分子団)同士の摩擦熱により発熱する。ちなみに日本では2.45GHzという周波数の電磁波(マイクロ波)が用いられている。その電磁波(マイクロ波)を発生させる部品がマグネトロンである。
なぜ2.45GHzなのか?
水に吸収し最適に発熱させる周波数であるとの説明があちらこちらであるが、実は、この周波数は、たんに電波法上の制約からきているようだ(ISMバンドの1つで加熱用高周波利用設備として許可)。水の電磁波吸収の周波数に対する鮮鋭度はあまり高くなく、1GHz程度以上の電磁波ならどんな周波数でも吸収して熱に変える。
ちなみに、マグネトロンの発振周波数は後述する空洞(共振室)の共振周波数により決定され、外部からコントロールすることは出来ない。
マグネトロンとは?
マグネトロン(magnetron:電磁管) とは、真空管(電子管)の一種で高周波電磁波を発生させる。二極管と磁石を組み合わせた構造体である。電子レンジ以外にも工業用マイクロ波加熱器やレーダー用発振器等に用いられている。
マグネトロンの動作原理を超簡単に説明すると
マグネトロンの構造を極めて簡単化すると下図のように二極真空管(整流管)の上下に永久磁石を取り付けた構造である。どうして、こんな単純な構造で、直流電圧を印加するだけで魔法のようにマイクロ波を発生するのでしょう?
まずは磁石の無い場合を考える。
電源Vaにより陰極のヒータが加熱され陰極から熱電子を放出する。
陰極と陽極の間には高電圧電源Vbによる電界があるので熱電子は陽極に向かって加速する。そして陽極に電子を与え電流が流れる。つまり通常の二極真空管(整流管)と全く同じです。
次に磁石のある場合を考える。
ここでは電磁石のように磁力(磁場の大きさ)を変えることができる磁石を考えます。
下図はマグネトロンの真空管部を上部から見た図(断面図)で、代表的な電子の動きを矢印で示している。
磁場(磁束密度B)がゼロの場合は(1)のように電子は陽極に向かって直進するが、磁場を大きくして行くと電子は下図(2)~(3)のようにローレンツ力(下の補足説明参照)により軌道が変更され円を描くようになる。さらに磁場を大きすると、どんどん円の半径は小さくなり、ある程度以上磁場を大きくすると(4)のように電子は陽極に行き着くことが出来なくなる。
次に磁場(磁束密度B)と陽極電流Ibとの関係を見る。
磁場(磁束密度B)を大きくして行くとある段階(上図の(3) )から電子は陽極に到達することが出来なくなり、突然陽極電流は流れなくなる。ここで注目すべきは、その電流が流れなくなる臨界領域付近で陽極電流に不安定振動が生じることである。この振動を陽極側に設けた空洞で共振させ効率よく安定にマイクロ波を取り出そうとしたものがマグネトロンである。この分割型陽極(分割空洞)というアイデアでマイクロ波発振の道を開いたのは、実は日本の岡部金治郎(大阪大学教授)です。発明当時は大阪管と言われていたようです。
補足説明
ローレンツ力とは:
速度を持った電子などの荷電粒子が磁場から受ける力。(正確に言うと荷電粒子の速度と磁場の外積がローレンツ力となる)。ちなみに、荷電粒子の速度を電流に置き換えるとフレミング左手の法則に一致する。
電子レンジのマグネトロン周辺回路
20年近く前に製造されたシャープ製電子レンジのマグネトロン周辺部分の回路図を紹介。
余計な箇所を除き、マグネトロン周辺部分だけを見ると、こんなにシンプルなコネクションです。
トランスでヒータ電圧(フィラメント電圧)と加速用高電圧2KVを生成し、半波整流してマグネトロンに印加する。
蛇足
ちなみに最近の電子レンジでは、こんな大型の重たいトランスは使わないインバータ方式のようです。でも、やっていることは全く同じ、マグネトロンのヒータを加熱して、そして直流の高電圧を生成して、マグネトロンの陰極(ヒータ)と陽極(マグネトロン筐体)に印加するだけ。
本題に戻って分解遊びを続けるよ
いよいよマグネトロンを分解
まずは裏蓋を外してみる。簡単に外れた。
コネクタの付いているボックスの中にはコイルが2つあるだけ。
これは外部に高周波電流を垂れ流さないためのフィルターだ。
乳白色のコネクターは単なるコネクターではなく貫通コンデンサーが内蔵されているのだろう。
つまりコイルと貫通コンデンサーとでLCローパスフィルター(ラインフィルター)を形成している。
どんどん分解を進める。
出力側のカバーを取り外す。
上側のリング状のフェライト磁石が露呈した。
上側の磁石を取り外すと、こんな感じ。
さらに下側(コネクタ側)の筐体を破壊し、下側の磁石も取り外しす。
さらにアルミ製ヒートシンクを無理矢理に剥ぎ取るとこんな感じ。
とても素朴なフォルムになった。なんだか懐かしい雰囲気のする形状だ。錆びた鉄のように見えるが、これがマグネトロンの根幹部分である銅製の密閉容器(二極真空管)なのだ。つまり、この密閉容器とその両サイド配置する2個の磁石によりマグネトロンは構成されている。
さらにその核心部である真空管(密閉)部分を分解
今までは結構簡単に分解できたが、この真空管は完全密閉なので分解がちょと困難そうだ。
初めは中腹部を真っ二つに金鋸で切断しようとしたが、すぐに体力と根気の限界が来たので、接合部分に金鋸を入れて、その隙間をニッパーを用いてこじ開けたら意外と簡単に開けることが出来た。
下写真のように出力部分をこじ開けた。
とび出ている太めの針金のようのものが出力リード線だ。
これが紫色の出力端子(出力アンテナ)に接続されていた。
心臓部分の内部の拡大写真を色々と。
このように中心部分にむき出しのヒータ(陰極)があり放射状に10個の分割空洞(共振室)がある。
分割している壁の中心部分には2重のリングがあり夫々互いに1つおきに接続されている。そして、その壁の1つの中心部分に溶接された電極(リード線)から出力が取り出されるのだ。これら形状の理由は分布定数回路やマイクロ波工学とかの領域のお話しなので僕には解説不可能です。
ここでちょとお遊び実験
ふと、この状態でヒータ(フィラメント)を点火したくなりました。
もちろん、空気中なので、短時間で燃焼し切れるだろうが、限界まで流してみる。
10Aぐらい流すとオレンジ色に点灯しはじめる。
25Aぐらいまで流すとギンギンに輝き(下右写真)、そして切れた。
ほのかな煙と独特の香りが残った。
さらに分解
さらに分解を進め、ヒータ(フィラメント)部を取り出す。
フィラメントは剥き出しのいわゆる直熱管だ。結構太めのフィラメント。緑色の物質でコーティングされている。
これが陽極部(分割部屋)の下側(端子側):右写真と上側(出力側):左写真。
上側にも、下側にも2重リングが取り付けられている。
右写真のリングが変形しているのは分解の際に変形した(元々は正円)。
参考サイト
マイクロ波技術と電子レンジTDK Techno Magazine
何らかのご参考にならば幸いです。
投稿:2011/8/8
誤記修正:2012/9/17
砂町隆様よりご指摘頂きました誤記を訂正しました。
誤記修正:2017/12/20
マインドエナジー様よりご指摘頂きました誤記を訂正しました。
ご指摘ほんとうに有難うございました。