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 日本相撲協会が横綱白鵬を譴責(けんせき)処分とした。春場所千秋楽の優勝インタビューの際、観客に呼びかけて三本締めをしたことが「相撲道の伝統と秩序を損なう行為」とされた。

 たしかに褒められる話ではない。だが、白鵬をめぐって協会が真に考え、対処しなければいけない問題は別にある。

 日本国籍を持つ者でないと親方になれないという、時代遅れで理不尽な規定である。

 白鵬が先日、国籍取得の手続きを始めたことを明らかにしたのは、この定めゆえだ。15歳でモンゴルから来日し、最多42回の優勝を重ね、横綱在位は10年を超す。「一代年寄」を認められるのに十分な活躍で、本人はモンゴル国籍のまま、その名誉を受けるのを望んでいた。

 相撲への情熱と故郷への思いを両立させたい。横綱の胸の内は誰もが理解できるだろう。

 ところが協会に規定を見直す考えはなく、白鵬は苦しい選択を迫られていた。国籍変更に反対だった父親が、昨春亡くなる前に容認したことで、ついに決断したという。二人の心の葛藤は想像に難くない。

 協会は「大相撲は日本の文化であり、力士を指導する親方が外国人では正しく教えることができない」という。説得力に欠けること甚だしい。

 いまや外国出身力士抜きに土俵の充実はあり得ず、引退後に優れた後輩を育てた親方も珍しくない。逆に、日本国籍を持ちながら不行跡を理由に角界を去った親方もいる。指導力と国籍とは何の関係もない。

 協会が取り組むべきは、国籍や出身にかかわらず、親方となる資質と情熱をもつ力士を見いだすことであり、後進を導き、部屋を経営する能力を磨くのをしっかりサポートすることだ。

 大相撲が暴力、薬物使用、八百長といった問題をくり返し起こしているのは、組織を支える親方の意識と能力が、社会の変化や要請に追いついていない証しに他ならない。

 だが親方になるための年寄名跡の取得に関しては、改革の必要性がかねて唱えられながら、実態は依然不透明だ。数億円で取引され不祥事の背景にもなったが、既得権を守りたい勢力の抵抗が強いといわれる。

 国籍条項を外せないのも、現役時代の番付が物を言い、資産形成にもつながる今の仕組みでは、親方を外国出身者が占めてしまう。そんな不安があるからだとも聞く。あきれる話だ。

 協会には、組織運営に問題がないか、法令や社会規範が守られているかを広く点検する、外部有識者らでつくるコンプライアンス委員会がある。そこで審議してしかるべき課題である。

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