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 東京電力福島第一原発事故の被災地など8県の水産物の輸入を韓国が全面的に禁じていることについて、世界貿易機関(WTO)の上級委員会が容認する報告書をまとめた。

 一審にあたる紛争処理小委員会は日本の主張をほぼ認め、韓国の禁輸は必要以上に厳しく差別的で、WTO協定に違反するとしていた。二審にあたる上級委は、小委の審議は不十分として、判断を取り消した。

 WTOの紛争処理は二審制で、日本の逆転敗訴が確定する。極めて残念だ。

 上級委でも日本の主張の一部が認められたことから、菅官房長官は「敗訴との指摘は当たらない」という。しかし、対抗措置も視野に入れて紛争解決機関に判断をゆだね、主張の根幹が否定された以上、結果は素直に受け止めるべきだ。

 小委が認めた日本の食品の安全性については、上級委も異を唱えなかった。だが、放射性物質に対する「安全」と「安心」の判断は、人により違う。各国も国際ルールを尊重しながら、自国民の「安全」をどう守るのか、それぞれ判断して決める。上級委は、その裁量の幅を広めに認めたと言える。

 福島県での水産物の放射性物質の調査では、一つでも基準値を超えた場合は国が出荷制限をかけ、調査の頻度や数を増やして対応している。国内外の不安をぬぐうため、今後はこれまで以上に、そうした取り組みを詳しく紹介し、客観的なデータを示すよう努めたい。「WTOも日本産の食品は科学的に安全と認めた」と主張するだけでは、何ら解決につながらない。

 韓国政府は今後も禁輸を続ける方針を表明した。一方で、両国を行き来する市民交流は活発さを増している。隣国どうし、冷静に対話を進める環境を整えていきたい。

 そのためにも日本政府は、安全や安心を心配する人たちへ配慮し、説明を尽くすべきだ。他の政治的な二国間の問題が影響しないよう、慎重に対処していく必要がある。

 被災地では、売り上げが震災前の水準に戻らない水産加工業者も多い。農林水産業の復興には、輸出を含む販路の拡大が欠かせない。日本産食品の輸入を規制する国や地域は、原発事故の直後は54あったが、現在は23に減った。輸入規制の緩和や撤廃を働きかけるのは、まさに国の役割だ。

 今回の上級委の報告書は、小委の判断を破棄しながら、韓国の禁輸措置がWTO協定に沿うものかどうかは言及しない、中途半端な内容だった。WTOの紛争処理のあり方など、検討すべき課題も残った。

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