危機感をあおって社会を分断し、自らへの支持を集める。そんな手法で政権を維持しても、国の安全は長く保たれまい。
イスラエルで9日行われた総選挙で、現職のネタニヤフ首相の続投が確実な情勢となった。与党リクードに極右や宗教政党を加えた右派勢力が国会の過半数を占める見通しだ。
懸念されるのは、ネタニヤフ氏が強硬姿勢をさらに強めることだ。パレスチナとの和解はいっそう遠のき、中東の不安定化を深めるだろう。
選挙戦終盤、ネタニヤフ氏は続投すればパレスチナ自治区のヨルダン川西岸にあるユダヤ人入植地を併合すると述べた。
イスラエルは1967年の第3次中東戦争で、西岸やガザなどを占領した。その後、住宅をつくり移住を進め、その数は西岸だけで40万人を超す。
占領地への入植は国際法に反する。そう国際社会は批判し、パレスチナも反発してきた。
併合に踏み切れば、力ずくで奪った土地を自国の領土とすることを意味する。国際的な秩序への挑戦であり、断じて許されるものではない。
曲折はあろうとも、中東和平の実現は、パレスチナが国家をつくり、イスラエルと平和共存する「2国家解決」しかない。
占領地からの撤退はその土台である。それを掘り崩せば、和平への道は閉ざされる。周辺アラブ諸国との関係改善にも障害となろう。イスラエルの安全保障にとって得策ではあるまい。
汚職疑惑を抱えるネタニヤフ氏は、当初選挙で劣勢が伝えられた。巻き返しのため強硬策を強調し支持層の歓心を買おうとした。後押ししたのは盟友であるトランプ米大統領である。
トランプ氏は、イスラエルがシリアから武力で奪い占領を続けるゴラン高原について、イスラエルの主権を承認した。謝意を述べたネタニヤフ氏は、お墨付きを得たかのように入植地の併合を打ち上げたのである。
さらにトランプ氏は投票日直前、イランの精鋭部隊である革命防衛隊を「外国テロ組織」に指定した。反イランを強調するネタニヤフ氏には追い風になったろうが、イランは反発を強め地域の緊張を高めている。
今回の選挙で注目されたのは、元軍参謀総長ガンツ氏率いる中道の野党統一会派「青と白」の躍進だった。
ガンツ氏はパレスチナと安易な妥協はしない姿勢だったが、「和平の道を探る」と述べ、話し合いに前向きだった。
国民は強硬路線を手放しで支持したわけではない。結成から数カ月の「青と白」が、与党リクードと並ぶ票を得たことをネタニヤフ氏は重く見るべきだ。
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