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【社説】

WTO逆転敗訴 風評被害を広げぬよう

 福島県産などの水産物輸入禁止をめぐる韓国との貿易紛争で日本は敗訴した。残念だが、食の安全で消費者の関心は国を問わず極めて高い。ねばり強い対応で規制撤廃と風評被害の払拭(ふっしょく)を進めたい。

 一審は二〇一八年二月に日本の主張を認めただけに、最終判断の二審での逆転敗訴は想定外で、産地の漁師に落胆が広がっている。

 経緯をたどると、一一年三月の福島原発の事故後、放射性物質への懸念から日本の水産物の輸入規制が各国に広がった。このうち韓国は、一三年九月に汚染水流出を受けて規制を強化し、福島、宮城、岩手など八県の水産物の輸入を全面禁止した。

 安全対策に取り組んできた日本はこれを不当として、一五年八月、世界貿易機関(WTO)に提訴していた。

 WTOは貿易紛争を扱う唯一の国際機関。機能の低下も指摘されるが、外務省は「中立的な専門家の判断」としている。日本の食品の安全性を否定しない一方で、韓国の主張を認めた判決をよく分析してほしい。生産者、消費者への十分な説明が必要だ。

 原発事故から八年。輸入規制は五十四カ国・地域から二十三に減った。勝訴をてこに規制撤廃と輸出拡大を目指した政府の戦略は練り直しが必要だ。

 養殖ホヤの生産量全国一位の宮城県では原発事故前、七、八割を韓国に輸出していた。厳しい基準での放射性物質検査に協力し、規制解除を待ち望んできた生産者、産地の漁師らの落胆は察するに余りある。

 ただ日本でも過去、内外の食品、食物の安全性でさまざまな問題が起きている。牛海綿状脳症(BSE)では、今回とは逆に、米国から輸入禁止の条件が厳しすぎると批判を受けた。消費者が政府に慎重すぎるくらいの対応を求めるのは国ごとの面もある。

 ふたつ指摘しておきたい。

 まず、WTO改革による紛争処理機能の強化。多国間の枠組みであるWTOの権威が揺らげば、紛争は激化しかねない。二審を担当する委員七人のうち四人が空席という事態を早く解消すべきだ。

 そして原発事故の影響の大きさにあらためて向き合わなければいけない。輸入規制は二十三カ国・地域で続いている。風評被害を防ぎ、すべての消費国、消費者に受け入れられるには科学的なデータの蓄積と提供、丁寧で根気強い説明が不可欠となる。

 

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