インドネシア大統領選で文民の現職が再選を確実にした。三十二年間のスハルト独裁体制の崩壊から二十一年。周辺国で親軍政の動きがある中、東南アジアの雄として民主政治を守り続けてほしい。
再選確実のジョコ氏は、家具輸出業から政界に転出、首都ジャカルタ特別州知事などを経た現職。軍隊経験はなく「庶民派大統領」と称された。対立候補だったプラボウォ氏は、スハルト元大統領の元娘婿で国軍出身という対照的な経歴。前回の大統領選にも出馬し、ジョコ氏に惜敗した。
インドネシア政治は元国軍のスハルト氏抜きでは語れない。経済発展重視の一方、自分に富を集中させ、民を抑圧した。在任中、五十万~二百万人ともいう共産主義者が殺害され、武力併合した東ティモールでは餓死と殺害で二十万人が死亡したといわれる。同氏は長期政権のほころびやアジア経済危機、学生の蜂起などで追い詰められて、一九九八年に辞任した。
暗黒の歴史を持つインドネシアは、憲法を改正して「大統領は一期五年、三選禁止」と規定。長期独裁の可能性はなくなり、ジョコ氏も最後の任期となる。
スハルト後の大統領五人のうち国軍出身者は一人だけ。スハルト時代以上の政治的惨劇はなく、人口約二億六千万人のインドネシアでは民主化が徐々に進んできた。
しかし、二〇〇四年のスマトラ沖地震津波(犠牲者二十数万人)や昨年のインドネシア地震など大きな災害が相次ぐ。国際社会の支援が必須だ。日本は、昨年の地震の復興計画作成の中心に立つ。今後も手厚い支援を望む。
留意すべきは、この国でも進む分断の傾向である。ジョコ氏は二億人以上いるイスラム教徒を意識し副大統領候補にイスラム指導者を選んだが、約二千六百万人のキリスト教徒を忘れてはならない。
同時実施の総選挙でも、与党連合が過半数の見込みだが、少数意見を尊重しないと、多民族、多言語、多宗教の島国は、常に四分五裂の危機をはらむ。少数意見を尊重し、国是“多様性の中の統一”を大切にしてほしい。
東南アジアを見渡すと、カンボジアは独裁政権。タイでは親軍の政権ができそう。ミャンマーでもアウン・サン・スー・チー国家顧問が軍部におもねり、ロヒンギャ問題の解決策を打ち出せずにいる。
インドネシアは、独裁の過去を忘れず、自分たちでつかんだ「民主化」の手綱を握り続けることを強く期待したい。
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