トヨタ自動車が宇宙航空研究開発機構(JAXA)と連携し、有人の月面探査車を開発する。水素を燃料に走る燃料電池車(FCV)で、月面に「水素社会」を築き上げる壮大な構想を描いている。
JAXAは二〇二一年度に無人探査機による月面着陸、その後の極域探査を経て、今回の有人探査を国際的な月面探査の枠組みの中で行うことが想定される。
公表された概要によると、探査車は全長六メートル、全幅五・二メートル、高さ三・八メートルとマイクロバス約二台分の大きさで、二人が滞在できる居住空間は四畳半程度。燃料電池に供給する水素と酸素は地球から送る。二九年以降、三四年まで計五回の有人探査を行い、計一万キロ以上を走破する計画。一回の探査には四十二日間を要する。
「過去に例がない長距離の月面有人探査」(JAXA担当者)だけに、技術的な壁は高い。激しい温度差やクレーターなど、走行上の悪条件を克服しなければならない。探査領域間は自動運転で移動するため、トヨタの伝統的なモノ作りと次世代技術力、JAXAの放射線や熱対策などを結集した総力が求められよう。
今後、日本、米国、中国などが月面探査でしのぎを削る時代を迎える。主な目的は、氷などの状態で埋蔵されていると推測される水探しだ。水が発見されれば水素と酸素に電気分解し、ロケットの燃料となる液体水素、液体酸素を月面で作ることが可能に。効率的な月面探査につながり、火星などへの中継地点にもなり得る。
トヨタが初の本格的な宇宙事業に参画するのも、水素を移動に活用する「水素社会」を実現するためだ。トヨタは電気自動車の開発では出遅れたとも指摘されるが、一四年十二月には水素と酸素の反応で電気を生み、水しか排出しないFCV「ミライ」を世界で初めて一般向けに販売した。しかし、今は主に天然ガスなど化石燃料から製造する水素の供給拠点整備が進まず、普及のペースは遅い。トヨタの寺師茂樹副社長は「月面で地球より早く水素社会をつくれればいい」と強調する。
JAXAは、ボンベによる燃料補給で効率的に運用できる燃料電池を選択。この分野で優れた技術を持っているトヨタをパートナーとした。
費用も算出できない初期段階だが「宇宙開発は高度な技術力が試される道場だ」と寺師氏。実際に事業が宇宙にまで広がれば、日本経済の未来にもつながる。
この記事を印刷する