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【社説】

ロシア疑惑報告 大統領、潔白でしょうか

 トランプ米大統領は潔白どころか、限りなくクロに近い。公表されたロシア疑惑の捜査報告書の印象である。真相が不透明のままでは禍根を残す。モヤモヤを晴らす役目は議会と世論が担っている。

 よほど後ろめたいことがあったのだろう。報告書によると、トランプ氏はモラー特別検察官の任命を聞いて「なんてことだ。これで私の大統領の地位は終わりだ」と動揺した。

 報告書はトランプ氏の司法妨害疑惑の事例を十例に上って列挙。そのうえで「大統領は司法妨害をしていない、とわれわれが確信できたなら(報告書に)そう記した」とトランプ氏の潔白を否定した。

 これに対しバー司法長官は、トランプ氏には捜査への不満や怒りがあったが「不正の意図を持っていなかったとの証拠の方が重い」と、証拠不十分とした理由を説明した。

 だが、トランプ氏の事情聴取も実現できなかったのに、なぜ不正の意図はなかったと判断できるのか。説得力に欠ける説明だ。

 一方、報告書はロシアの米大統領選介入では、ロシアはトランプ氏の当選が自国の利益になると判断し、トランプ陣営もロシアの介入が有利に働くと期待したと指摘した。それでも証拠不十分で共謀の事実は立証できなかった。

 すっきりしない結論になったのは、トランプ氏が事情聴取を拒否したことも大きく響いただろう。自分に降りかかった疑惑である。トランプ氏は進んで事情聴取に応じて疑いを晴らすべきだった。これでは「逃げ得」と批判されても仕方がない。

 司法妨害疑惑をめぐるトランプ氏と同様の行動を、以前の大統領がしたら国民は許さなかっただろう。それがトランプ時代に入って、底が抜けたように政治から倫理性が薄れ、社会もそれを許容している。ロシア疑惑とその捜査結果は、「法の下の平等」という民主国家の支柱が揺らぐ危機に、米国が直面していることを示してはいないだろうか。

 モラー氏は報告書で、司法妨害の判断を見送った理由に、司法省が現職大統領を訴追しない方針であることを挙げ、最終判断は議会に委ねる姿勢を示した。

 米国は来年の次期大統領選に向けて政治の季節に入りつつある。ロシア疑惑を政争の具にすることは慎まねばならないが、議会は行政監視の機能を持つことを忘れてはならない。

 

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