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【社説】

スリランカ テロの連鎖を防げ

 スリランカで、日本人を含む多数の死者を出す連続爆破テロが起きた。キリスト教徒や外国人が標的とみられる。宗教対立が背景にある可能性が高いが、報復など暴力の連鎖を許してはならない。

 スリランカでは、仏教徒が70%で圧倒的に多い。以下、ヒンズー教徒13%、イスラム教徒10%、キリスト教徒7%-の順。この多様性も背景に、宗教対立によるとみられる抗争が、過去たびたび起きている。

 まず、仏教徒中心のシンハラ人とヒンズー教徒中心のタミル人が内戦で争い、十年前に終結するまでの四半世紀で八万~十万人が死亡した。このほかにも、昨年来、仏教徒がイスラム教徒を襲撃する事件が起き、仏教徒過激派によるキリスト教徒への脅迫も伝えられる。

 しかし、今回の構図は、このどれにもあてはまらないもようだ。加害者について、スリランカ当局は、イスラム系組織が関与したとしている。事前に「国内のイスラム過激派組織が教会を襲撃」の可能性を察知し、警察などに警告していたという。

 だが、キリスト教の復活祭(イースター)だった二十一日のテロを防ぐことはできなかった。

 今回、キリスト教徒とともに標的になった外国人も、加害者側から「異教徒」とみなされた可能性がある。

 近年、宗教や人種間の対立が背景とみられる大規模なテロが、世界中で頻発している。その多くで、過激派組織「イスラム国」(IS)が犯行声明を出すなど、関与を明らかにしている。

 スリランカには、インドや、今年「壊滅」が伝えられたISの影響を受ける隣国モルディブの過激派が多数流入したとの報道もある。イスラム教徒とキリスト教徒はスリランカではともに少数派であり、両者間にはこれまで大きな衝突がなかった。

 こうしたことから、テロが国外から「持ち込まれた」、あるいは外部から「扇動された」という可能性も指摘されている。

 もともと宗教的に複雑な同国の構造がテロに刺激されて不安定化しないよう、国際社会は注意深く見守っていく必要がある。

 もちろん、事件の真相はきちんと究明され、加害者は罰せられなければならない。しかし、テロへの報復も、事件に関係のないイスラム教徒への迫害も決して許してはならない。歴史は、私たちに、憎しみの応酬は憎しみの連鎖につながることを教えている。

 

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