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【社説】

ウクライナ 「脱ロ入欧」は慌てずに

 隣国のロシアにどう向き合うか。ウクライナの次期大統領に選出されたゼレンスキー氏の最大の課題である。東部地域での親ロシア派勢力との紛争終結に向けて、ロシアと対話を始めてほしい。

 大統領選の決選投票で、政治経験のないコメディアンのゼレンスキー氏が現職のポロシェンコ氏に圧勝したのは、既成政治家への反発という世界的潮流に乗った結果とも言える。

 親ロシア派政権が倒れた二〇一四年の政変後、政権を担ったポロシェンコ氏は政治の刷新に失敗した。政治腐敗と閉塞(へいそく)感が深まる中で、手あかのついていないゼレンスキー氏は現状打破を願う国民の期待を集めた。

 ポロシェンコ氏の強硬な反ロシア姿勢は、ロシアによるクリミア併合や、一万三千人の犠牲者を生んだ東部紛争という問題に進展をもたらさなかった。このポロシェンコ路線を否定した選挙結果でもあった。

 その点、ゼレンスキー氏がロシアとの対話に前向きなのを歓迎したい。ロシアにとっても関係改善はプラスだ。それは冷えきった対米関係の修復にもつながる。ドイツとフランスが仲介した東部紛争の停戦に関するミンスク合意は履行に至っていない。紛争収拾へ協議再開を期待する。

 ウクライナは、ポーランドやオーストリアに支配されたことのある西部は欧州志向、ロシアの勢力下に長く置かれた東部は親ロシア色が強いという構造的な亀裂を抱える。ソ連崩壊後は欧米とロシアが影響力を競い合う舞台となり、東西のはざまで揺れてきた。

 ポロシェンコ氏と同じくゼレンスキー氏も欧州連合(EU)加盟を目指している。だが、この脱ロ入欧路線を急げば大きな摩擦を生む。国内の結束を重視して慎重に進める必要がある。

 ウクライナは日本の一・六倍の国土を持ち、肥沃(ひよく)な黒土に恵まれる。軍需、鉄鋼などの工業も盛んだ。ところが長引く紛争に経済は低迷し、ウクライナの一人当たりの国内総生産(GDP)は三千ドル弱。欧州の最貧国とも呼ばれる。

 しかもひと握りのオリガルヒ(新興財閥)が経済を牛耳り、政治とも結びついて腐敗を深刻化させている。

 政治手腕が未知数のゼレンスキー氏は経済再生と汚職対策で実績を上げないと、国民の失望を買う。優れた人材をそろえて取り組んでほしい。

 

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