就活ルールをどうすべきか。経団連と大学は通年採用の拡大で合意した。学生の就職だけでなく、日本の雇用慣行と労働者の生活設計に影響する改革だ。慎重な制度の設計を求めたい。
経団連の中西宏明会長が形骸化を理由に就活ルールの廃止を表明したのは昨年十月。これをきっかけにさまざまな見直し案とその長所、短所が論じられてきた。
今回、拡大で合意した通年採用は、グローバル競争に直面する大企業に要望が強く、実績や能力のある人材を適宜、採用できる利点がある。半面、職業人としての実績がない新卒には不利で、欧米で若者の失業につながっている面は否定できない。
一方、新卒一括採用は終身雇用と一体で安定、安心という利点はあるが、卒業時にチャンスを逃すと不安定な非正規雇用につながる心配がある。
経済界と大学側は一括採用と通年採用の併用で合意した。一括採用の現行ルールは二〇二二年春まで継続される予定で、その間に政府も交えて新たな制度、ルールの具体化が進められる。欠点を補い長所を生かす工夫が必要だ。疑問や課題を指摘しておきたい。
通年採用が広がれば海外留学生や既卒者を中心に、選択肢が増えるため、大学関係者や学生からは一定の評価がある。一方で就職活動の時期の目安はどうなるのか。就活開始がさらに早まり、学業がおろそかになる懸念がある。
なにより優秀な学生だけでなく、地道に勉強に取り組んできた多くの学生が、それぞれに職を得て活躍できる安定した制度が前提だ。人材確保に不安を抱える中小企業への目配りも不可欠だ。
もうひとつ。終身雇用、年功序列という雇用慣行への影響も見極めなければならない。
崩れ始めているとされる終身雇用だが、企業で働く多くの人々が老後までの生活を見通し、設計する土台になってきた。企業も労使間の信頼、協調の土台にしてきた。通年採用の拡大は、この土台を揺さぶる。
景気の動向にも細心の注意を払って議論を進めてほしい。
なだらかな景気で人手不足が続いているが、先行きに雲がかかりつつある。仮にリーマン・ショックのような危機が起きれば、雇用は最初に打撃を受ける。
就職氷河期や年越し派遣村という厳しい経験を踏まえ、安全網の拡充など危機に耐えられる制度づくりも必要だ。
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