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【社説】

見えない「星」が見えた

ブラックホール=国立天文台などの国際チーム提供

写真

 国際共同研究グループがブラックホールの写真撮影に成功。あるはずが、あったになった。

 周りの光さえのみ込むことから黒い穴と名付けられたが、実際には、もっとも重力が強い天体だ。かつては、光が出ないので観測は無理と考えられていた。

 撮影されたのは、M87銀河にある巨大ブラックホール。明るく輝く円盤と、その中にあるブラックホールシャドーと呼ばれる影の部分が写っている。ガスやちりが高速で周回しながら電波を出し、円盤を造っている。円盤の直径は一千億キロ。ブラックホールは影の中央にあり、太陽の六十五億倍の質量がある。

 観測はチリやハワイなど六カ所の電波望遠鏡を使った、国際協力プロジェクトとして行われた。参加した研究者は欧米など十七カ国・地域から二百人を超えた。発表も日本、米国、ベルギー、チリ、中国、台湾で同時にあった。

 電波望遠鏡はパラボラアンテナで電波を受けるが、一台では大きさに限界がある。このため何台も並べて巨大な望遠鏡として利用する方法が進歩した。今回はそれを地球規模に拡大し、原子時計で時間を合わせた。データの解析には米国とドイツのスーパーコンピューターが使われた。

 さて、写真から新たな謎も生まれた。

 従来の想像図では、円盤は均一に輝き、垂直方向に高温のガスが噴き出すジェットが描かれている。だが、撮影された円盤は下側が明るく、上側はやや暗い。ジェットは見えない。

 物理学は理論予想と実験や観測の結果との照応で進歩する。「違い」は大事な成果だ。一枚の写真ではブラックホールの回転が分からない。研究グループは、観測態勢の強化を進めている。次は動画が見られるかもしれない。

 国際協力と先端技術が、見えないとされていたブラックホールの姿をとらえた。それは国境を超えた協力が必要な時代である、ということも教えている。

 ブラックホールが見えても、日常生活や産業に影響はない。だが、地球規模で時計を同期し、巨大な装置を操作する技術は、いつの日か、きっと役に立つだろう。人類はこれまでもそうやって歴史を進めてきたのだから。

 

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