政府が示す温暖化対策長期戦略案は、到達点として「脱炭素社会」の構築をめざす。それはいい。だがそのために「原発を再稼働させる」という。温暖化対策を原発復権の口実にしてはならない。
二十一世紀後半に世界の温室効果ガスの排出を「実質ゼロ」にすることをめざすパリ協定は、二〇二〇年までに、目標実現のための「長期戦略」を国連に提出するよう、参加各国に義務付けている。
安倍首相の意向を受けた政府の有識者懇談会が、その内容を検討し、今月二日提言を出していた。
提言は「現状では、五〇年ごろまでに世界の平均気温が一・五度上昇する恐れが強く、異常気象などのリスクが高くなる」-とする国連の特別報告書をふまえ、「今世紀後半のできるだけ早期に脱炭素社会をめざす」という目標を明示した。この点は、政府案にも踏襲された。
提言では、省エネや再生可能エネルギーなどと同様、目標達成のための選択肢の一つとし、「安全性確保を大前提とした原子力の活用についての議論が必要」とした。ところが政府案は「原子力規制委員会により世界で最も厳しい水準の規制基準に適合すると認められた場合には、その判断を尊重し原子力発電所の再稼働を進める」と明記した。
政府案は「脱炭素社会」実現のための技術革新を重視する。
その中には「安全性、経済性、機動性に優れた(原子)炉の追求」まで目標として含まれており、高速炉や小型モジュール炉などが例示されている。新型原発の新増設も勘定の内ということなのか。
原発は発電段階では温室効果ガスを排出しない。だが、福島の現状を見るにつけ、到底“クリーンエネルギー”とは呼びがたい。
福島の事故で、原発の隠れたコストが明るみに出る一方で、世界では再生可能エネの普及が進み、割安になりつつある。
安全性と経済性と環境を考え合わせ、脱原発、脱石炭、そして再エネ100%に向かうのがエネルギー政策の世界的潮流だ。ところが日本政府は、温暖化対策を原発再稼働に結び付け、石炭火力廃止についても「可能な限り依存を減らす」と及び腰-。そんな「戦略」をひっさげて、「国際的議論をリードしていく」という。
世界の流れに逆行し、原発と石炭火力にしがみつくこの国に、果たしてそれができるだろうか。
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